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【野球】夏の聖地で示した21世紀枠の意義 帯広農・前田監督「一つの役割果たせた」

 勝っても負けても1試合だけの特別な夏だった。中止となった今春のセンバツ出場校が出場した高校野球交流試合が、17日に閉幕した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響で春の甲子園は直前に中止。夏へと気持ちを立て直したさなかに選手権も中止になった。コロナ禍によって野球人生を特に激しくほんろうされたのが、この32校の選手たちだ。

 1982年夏以来の甲子園となった帯広農(北海道)は、高崎健康福祉大高崎(群馬)を4-1で下し、甲子園“初勝利”を挙げた。21世紀枠での出場で、昨秋の関東覇者で明治神宮大会準優勝校を、継投で1失点。打線は9安打を放った。

 試合後、前田康晴監督(44)は「今回は相手じゃなく自分たちのベストが尽くせるかが一番だった」と振り返った。「21世紀枠はなくなった方がいいという意見を耳にすることがある。確かに力はないけど、自分たちの野球を貫くことで理解してくれる人がいれば、一つの役割を果たせたかな」と言った。

 部員36人中20人が農業後継者。繁忙期は平日の練習時間が1時間程度になるが、昨秋の公式戦チーム打率は4割を超える打力を誇った。実習で培った根気強さと集中力で、北海道大会4強まで勝ち上がり、21世紀枠に選ばれた。実力も兼ね備えての出場だった。

 昨夏には、同じ農業高校で18年夏に準優勝した金足農(秋田)へ練習試合に行った。前田監督は「みんな全力疾走。吉田輝星君だけのチームじゃないとわかった。伝統を感じた」と刺激を受けた。

 雪深い帯広では、冬場はグラウンドの雪を固めてゴロの捕球を繰り返す。土の上より速い打球で積み重ねた努力は、甲子園での3併殺へと結実した。4失策も記録したが、前田監督は「あれが精いっぱい。僕は十分です」と満足げだった。

 甲子園の意味、そこでの1試合の意味、1勝の意味はそれぞれ違う。前田監督は「健大高崎さんには健大高崎さんの目標があって、いい甲子園大会にするためそれぞれ目的がある。勝った負けたがすべてではない」とした上で、「僕らは甲子園で勝ててなかったから、非常にうれしい1勝」と率直に勝利を喜んだ。

 高校野球で時に批判の的になる勝利至上主義。そしてまた、力量不足を理由に是非が問われるのが、模範校への21世紀枠だ。今大会での帯広農は、与えられた環境で勝利を徹底追求し、21世紀枠の存在意義を示した。どちらも高校野球の大事な理念であり、調和を保って両方を追い続ける大切さを確認させてくれた。

 今年が学校創立100周年。これを機に、黄みがかったユニホームの地色からややオレンジ色を帯びた明るい色に変えたという。農業科学科の教員でもある指揮官は「(夏は)小麦の収穫時期ですから」。ほとんどの選手が高校で硬式野球をやめる。しかし、甲子園の1勝によって、帯広の球児たちはとてつもなく大きな人生の糧を得ただろう。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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