【野球】小林雅英“劇場型”と呼ばれても貫いた守護神の矜持

 ロッテの守護神として2005年に31年ぶりの日本一へ導き、プロ野球歴代6位の通算228セーブを挙げた小林雅英。「幕張の防波堤」とファンから称され、最速150キロ超のストレートに加え、球速が変わらずに右打者の懐に食い込むシュートは威力抜群だった。そしてフォークのように鋭く落ちた縦のスライダー。すべてのボールが一級品だったが、取材して一番、心に残っているのは「クローザーの流儀」だったように思う。

 まだ記者が20代前半で若かったからこそ聞けた質問だったかもしれないが…。「3人で試合を締めるのがベストなんじゃないですか?」。そう小林雅に聞いたことがあった。05年当時、29セーブをマークして最優秀救援投手のタイトルを獲得。その一方で常に走者を背負っての投球が続いたことで、一部野球ファンから「劇場型守護神」とも言われていたからだ。

 「そりゃ3人で終わるのがベストなんだけども」と前置きした上で「クローザーって、失敗が許されないポジションなんだよ」-。小林雅は登板前にブルペンで準備する際、必ず試合展開と最終回の相手の打順を確認する。自らの相性とも照らし合わせながら、試合を終わらせるために奪う3アウトの取り方をシミュレーションしていた。

 「例えば1点差でマウンドに上がりました。最悪、2死満塁のピンチを招いてもゼロで終われば、仕事はできたことになるよね。3アウトを奪うために、打者3人ではなく打者6人という考え方をする。その内、誰がアウトを取りやすいか、誰からアウトを奪えば確実に試合を終わらせられるかを考えるんだよ」

 特に試合終盤は代走や代打の兼ね合いでスタメンからメンバーが変わっている可能性が高い。相手チームが追い上げるため、前の打席で4番の外国人長距離砲に代走を送っていたケースもある。

 その際に2死無走者から一発を打つ力を持った強打の3番バッターと勝負するよりも、長打を警戒しながら、四球で歩かせても代走から守備に入った4番の選手、もしくはベンチの代打要員と勝負する方が、1点差を守って試合を終わらせることができる確率は高くなる。

 「だから抑えの仕事って3人で試合を終わらせることじゃないんだよ。勝った状態で試合を終わらせることが一番だから」

 ストッパーはそれまでに投げた先発投手の白星、野手の奮闘、それらすべての思いを背負って最終回のマウンドに上がる。当然、プレッシャーも生半可なものではないし、僅差のゲームで相手の反撃意欲を考えれば、最新の注意を払わなければならない。

 そこに“3人で終わらせよう”“早く試合を終わらせよう”という邪念を持ってマウンドに上がれば、相手に付け入るスキを与えるだけでなく、自身のメンタル面にも焦りが生じる可能性は否定できない。無理に長打のあるバッターと勝負して同点アーチを浴びたとなれば、周囲も生活がかかっているだけに、信頼を失うことにもつながってしまう。

 リリーフ投手は毎日、出番がある可能性がある。コンディションの維持に努めてはいるが、常に最高のボールを投げられるとは限らない。それでも01年から7年連続20セーブと、安定した数字を残してきた小林雅。“劇場型”と言われながらも、決してクローザーの流儀を崩さなかった。慎重にミッションを遂行してきたことが、長年にわたって結果を残してきた要因なのかもしれない。(デイリースポーツ・重松健三)

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