【スポーツ】最後まで“安美節” 人柄にじんだ引退会見

 最後まで爆笑の“安美節”がさえ渡った。大相撲名古屋場所で希代の業師、元関脇安美錦の安治川親方(40)が22年半に及ぶ現役生活に幕を閉じた。18日の引退会見では誰からも愛された人柄がにじみ出た。

 会場のドルフィンズアリーナ内の記者クラブで師匠・伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)と並び会見が終わり、1度は部屋を出たが、また記者クラブに舞い戻ってきた。「何でも聞いて」と親方衆らにあいさつ回りに行く前、取材の“おかわり”サービスを始めた。

 まずは業師としての歩み。繰り出した決まり手は“技のデパート”と呼ばれた舞の海の34手、史上最多勝利を誇る白鵬の41手を上回る45手を記録する。現役時代、珍手にはトークも切れた。

 とっくり投げを決めた際は「とっくりは投げるものじゃない。投げたら怒られる。俺はワインかシャンパン派」とニヤリ。初の網打ちには「安美錦だけに網打ちって言いたかった」と、だじゃれ。

 業師のイメージが強いことに本人は「いろんな技をやったけどやろうと思って出した技はない」と意識はなかった。青森で相撲を始めた時から磨いたのは、故郷で継承される取り口。「前ミツを取って、頭を付けて、出し投げ。それが誇れる技。青森で教えてくれた皆さん、父にも感謝している」と話した。

 思い出に挙げる17年九州場所千秋楽、勝てば勝ち越しで敢闘賞の懸かった一番。千代翔馬(九重)をこの伝家の宝刀で下した。「あそこで打てたのも体に染みついたもの」と、うなずいた。

 ここから話は脱線する。「もっと大きな相撲を教えてくれていたら髪の毛も減らなくてすんだのに」と頭髪に嘆き節。まげのボリュームは減り続けたが途中からはあきらめた。

 「現役時代は頭からいく相撲。(現役を)辞めてから次、生やす努力をすればいいと。その時にはいい薬もできているだろうと思っていた。薄い家系だけど『お前はちょっと早い』と言われて」と、笑わせた。

 右膝は前十字じん帯断裂、半月板損傷と重症を繰り返した。37歳時には左アキレス腱も断裂した。「『毛が』(なくなって)じゃなくて『ケガ』が(引退の)原因で良かった」と自虐ギャグで“髪トーク”を締めた。

 現役時代の大半はケガとの戦いだった。それでも「ケガしたことによって得るものはあった」と言う。ケガする前は小兵で土俵際のうまい力士。ケガをして「前に出ようと思った」と相撲を変えた。体重を増やし、前に押す力で勝負。だからこそ多彩な技も決まった。「ケガをプラスに考えて。さらに大きくなる」と進化した。

 この経験を親方として後進に伝えていく。「(伊勢ケ浜)親方が弟子の活躍を喜んでいるのを見ていいものなのか、うれしいんだなと。教えてやりたい気持ちが出てきた」早や指導者目線。今後も稽古場に下り、体を鍛えて弟子に胸を出す気は満々。「ガンガン胸を出しますよ。部屋の力士が(安治川親方が)ケガでもしないかな、と思うくらいに」と、猛稽古を予告した。

 親方業へ意気込む一方でお相撲さんでなく、これからは普通の社会人であり、夫であり、父親として生きる。「家族と旅行に行きたい。旅行に行ったことがない。夏休みだしね。家族と過ごす時間を取りたい。入学式とか見逃している。これからは大事にしたい」と、優しい顔を見せた。

 “おかわり会見”は絶妙トークで40分は話し続けた。部屋の外通路からは取組前の力士がアップする音、気合を入れる声が聞こえてきた。自身も10日前まで同じように一番に人生を懸けて土俵に上がっていた。そんな生活に区切りを付けた。

 「勝負しないってだけでこんなに楽になるんだね」。ボロボロになり、それでも戦い続けた不屈40歳の本音がにじんだ。(デイリースポーツ・荒木 司)

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