【スポーツ】山根明前会長を“裸の王様”にしたのは誰か…

 8日に日本ボクシング連盟(日本連盟)の山根明会長(78)が「辞任」を発表した。山根氏は辞任発表に際して「選手のみなさん、東京五輪に参加できなくても次の五輪があります」と発言。国際ボクシング協会(AIBA)に強い影響力を持つとされる自身の力を誇示したと見られたが、9日には「東京五輪に出られなかった選手にも次があるということ」と一部取材に対し釈明した。とすれば、辞任表明の場でわざわざ誤解を招くようなことを言ったことになる。

 山根氏はかつて“アスリート・ファースト”を地で行く活動を率先して行っていた。日本の女子ボクシングは実はアマチュアが先行していた。日本ボクシングコミッション(JBC)が女子を認可したのは07年だが、02年には当時の日本アマチュアボクシング連盟(現在の日本連盟)が女子部を設立。当時の連盟の上層部が渋る中、理事だった山根氏がバックアップして女子部の設立が実現した経緯がある。

 それまで、他団体や自主興行のリングに上がるか、スパーリングしかできなかった女子選手は「山根さんのおかげ」と感謝していたものだ。しかし、今回の「東京五輪に」という発言が選手の人生すら支配下にあると勘違いしていたものとすれば、まさに“裸の王様”になってしまったと言える。

 そうさせてしまった一端が、8日に行われた日本連盟・吉森照夫専務理事の会見に垣間見えた。山根氏の側近中の側近の吉森氏は「あまり弁護するのもあれですが」とした上で、山根氏の功績について冗舌に語った。

 「今の日本ボクシングはかなりいいレベルにあります。アジアの中でもトップ3から5ぐらい。それは山根会長がアンダージュニア、子供からのボクシング、女子ボクシングで山崎(静代)選手に要請したり(したことで)選手たちの力が増加してきました」。ここまではともかく、その後が問題だった。「井上尚弥選手も『アンダージュニア』から段々強くなってきた選手。そういう動きを早くから進めなくちゃいけないと、強くなりました」

 今年5月、日本プロボクシング協会(JPBA)はジュニア育成のために昨年まで10年間開催したU-15(15歳以下)大会を廃止した。代わりに「ジュニア・チャンピオンリーグ」を新設することを発表したが、これは苦肉の策。ここにはプロとアマの深い溝が関係している。

 昨年4月にアマを統括する日本連盟が「U-15」などプロ団体が関わる大会に参加した選手のアマ登録を認めない可能性を告知した。日本連盟もジュニア向けの「アンダージュニア(UJ)」を別に主催しているため、子どもたちに「こちらに出れば五輪も目指せるが、プロ側に一度でも出ればもう五輪は目指せないぞ」と告知したも同然だった。これは「再興する会」の告発で「若年選手が自由に競技に取り組む可能性を阻害する決定」として指摘されている。

 吉森氏はこのアマ主催の「アンダージュニア」から3階級制覇王者の井上尚弥が育ったと話したのだが、実は井上はプロ側主催の「U-15」の1期生。確かに井上は高校三冠で国際大会でも金メダルを獲ったアマ出身選手だが、アマ側のジュニアの大会はこの時点でまだ本格的に開催されていなかった。

 吉森氏が事実を勘違いしていた可能性は否定しない。ただ、このように何もかもを山根氏の功績として安易にすり替える思考回路が組織内にまん延していることも否めない。

 会長職に絶対的権限があるという構造上の問題が、山根氏を“裸の王様”にしていった。今回の問題の原因は、山根氏個人の資質だけではないだろう。東京五輪やそれ以降の競技発展のため、そして再び“裸の王様”を生まないために、組織構造から根本的に見直すことが必須だ。(デイリースポーツ・船曳陽子)

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