【ライフ】2本脚の看板犬マリリン 商店街の客を笑顔に…生まれつき前脚ないけど元気

堀江青果店の前で行き交う客を見つめるマリリン=北九州市門司区
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 JR門司港駅からほど近い栄町銀天街の「堀江青果店」(北九州市門司区)に、買い物客ら地域の人たちの間で人気者になっている小型犬がいる。ミニチュアダックスフントのマリリン(メス、5歳)だ。生まれたときから両前脚がないという障害をかかえながらも、店主で飼い主の堀江明弘さん(67)とともに店先で毎日、元気に客を出迎え、看板犬の役割を立派に果たしている。

 市場で仕入れた新鮮な旬の野菜や果物が並ぶ店の前で、マリリンはお客さんがやってくると、両後脚を地面で蹴りながら、とびはねるようにして足元へ近づいてくる。ウルウルとした黒い大きな瞳でじっと見つめ、「抱っこして!」といわんばかり。人なつこく、甘えんぼうだ。「この子はね、生まれたとき両前脚をどこかに置き忘れてきちゃったの。だけど、心には翼が生えてるよ」。初めて会ったとき、堀江さんは笑顔でそう紹介してくれた。

 堀江さんが犬を飼うようになったのは7年ほど前。バイクで配達していたときに、こんな出会いがあったのがきっかけだ。「近所のレストランの前で、生まれたばかりのミニチュアダックスフントの赤ちゃんが5匹、ひなたぼっこをしていてね。すっごくかわいくて、1匹わけてもらえんですか?と、店の娘さんにお願いしたんですよ」。そうしてオスの赤ちゃんを1匹、譲り受けた。しばらくして、北九州市内のブリーダーからメスの子犬を引き取り、2匹の間に生まれたのがマリリンだ。

 「あれは6年前の12月31日だったね。前日にオスとメスの2匹が生まれて、その子たちは健常な赤ちゃんだったのですが、次の日の大みそか、私が仕事を終えて帰ってきてみたら、この子が生まれてたんですよ。この子だけ両前脚がないから、びっくりしましたよ。ブリーダーさんに相談したら、『大きくなりきらんかもしれんから覚悟しとってよ』って」

 堀江さんは「魅力的な名前をつけて、このハンディキャップをなんとかカバーできないか」と思い、米女優のマリリン・モンローにちなんで「マリリン」と名付けた。その後、親犬やマリリンの兄姉2匹は、堀江さんの子どもが引き取り、いまはマリリンだけが堀江さんの元に残る。数年前から店先にマリリンを連れ出すと、次第に商店街を通る人たちの人気者になっていった。いまでは「ワンちゃんのいる青果屋さん」とも呼ばれ親しまれている。

 取材していると、マリリンを抱きかかえて、商店街に置いてあった椅子にしばらくの間、じっと腰掛けている70代半ばの女性に出会った。「主人が早くに亡くなってね。子どもたちももう出ていってしまって、今はここからバスで6つくらい行ったところの団地で1人暮らし。団地住まいは初めてだし、ペットも飼えないから、さびしくてね…」。もともと動物好きといい、マリリンのことを知り、今年に入ってからバスの定期券を買って、ほぼ毎日、こうして会いにきているという。女性はマリリンの体に顔をうずめ、ぎゅっと抱きしめていた。

 堀江さんは早朝から深夜まで1人で店を営んでいるため、なかなかマリリンを散歩に連れていけないが、近くに住む70代後半の女性がほぼ毎日、店にやってきては、抱きかかえて散歩に連れ出し、排せつの世話や体を拭いてくれるなどもしてくれているという。

 ちょうど買い物にやってきた近くの主婦(75)も、「あるがままを精いっぱい生きているマリリンの姿にはいつも勇気づけられます。優しいご主人とこうして一緒にいられて幸せね」と話し、ほほ笑みながらマリリンの頭をなでた。

 「みなさんがマリリンの面倒をみてくれるので、申し訳ないなあという気持ちですが、忙しいときは助かっています。こんなに愛されているなんて、ほんとうに感謝です」と堀江さん。そして、「自分で体を自由に動かせないのでふびんに思うことは何度もあったけど、この子が懸命に生きる姿にいつも励まされてきました。これからも元気で長生きしてほしいです」と話していた。(デイリースポーツ特約記者 西松宏)

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