【野球】早実-明徳が興味深い理由 『対清宮』以外の見どころとは

 選抜大会の注目度ナンバー1スラッガー、清宮幸太郎を擁する早稲田実業(東京)が24日、初戦で馬淵史郎率いる明徳義塾(高知)と対戦する。馬淵と言えば「策士」として知られ、1992年夏、星稜(石川)の松井秀喜を5打席連続敬遠し、勝利に導いたことで話題となった。

 今回も清宮を敬遠するのではないかとメディアは喧しいが、早実は清宮の後ろに野村大樹という強打者が控えているため、松井だけが突出していた星稜と対戦した時とは事情が大きく異なる。

 ただ、「対清宮」という点を除いても、このカードは十分興味深い。この一戦は「超緻密」対「超シンプル」という両極な野球のぶつかり合いでもあるからだ。

 馬淵が一度、こんな風にぼやいていたことがある。

 「最近は、緻密な野球をやろ思ってもやりがいがないんよ。それが通じない相手が増えてきたから」

 たとえば、一塁に走者が出たら、明徳の走者は意図的に二塁ベースをちらりと見る。「盗塁のサインが出たから、つい見てしまった」という演技だ。目ざといチームは走ってくると読み、盛んに牽制球を入れてくる。それが狙いなのだ。しかし、そうした駆け引きに無頓着なチームは、そんなことをしてもまったく意に介さない。

 おそらく、早実は、まさにそんなチームだ。監督の和泉実の口癖の一つは、「もっと簡単に野球をやれよ」だ。たとえば守備時、無死で一塁走者が出たときも、極端なバントシフトを敷いたり、ボール球から入って様子をうかがったりということはほとんどしない。簡単に送らせる。

 「時間がないから、そこまで詰めることができないというのもある。でも、いいんだよ。野球の本質はそこにはないと思ってるから」

 また、驚くことに和泉は1984年に南陽工(山口)の監督に就任し監督生活は30年以上になるが、一度もサインを変えたことがないという。

 「俺のサイン、全部バレてっから。そこにねーと思ってるの、勝負というものは。監督の役目は、もっと別のところにあるんだよ」

 対する馬淵は練習試合と公式戦ではサインを変えるなどし、バレないよう細心の注意を払っているし、相手チームのサインを見破るのも抜群にうまい。

 そんな馬淵にとって今回、有利に働くのは大会第5日(雨天順延で実質6日目)のカードを引いたということだ。松井と対戦したときも大会7日目で、それまでに練習場に松井を偵察しにいくなど研究し尽くし、敬遠という結論にたどり着いた。今回も時間的な余裕はたっぷりあった。

 ただ、早実は、いわゆる「高校野球」からは完全に逸脱したチームだ。一昨年の夏は地方大会で14個もの失策数を記録しながら甲子園に出場し、しかも準決勝進出を果たしている。ちなみに14個という失策数は、参加校中ワーストだった。

 事前のデータで戦略を練っても、そもそも、早実には、その戦術がまったくはまらない可能性もある。明徳にとって戦術を練る時間が十分あったことが、果たして、吉と出るのか凶と出るのか-。=敬称略=(ノンフィクションライター・中村計)

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