【ライフ】17歳の少女がなぜ証言台に

◆名もなき裁判傍聴シリーズ

 覚せい剤取締法違反の罪でプロ野球の清原和博元選手に有罪判決が下された裁判からさかのぼること1カ月。4月に大阪地裁の小さな法廷で、やはり覚せい剤取締法違反の罪で起訴された40代後半女性の初公判が行われた。ショッキングだったのは証言台に立った人物。なんと被告の娘にあたる17歳の少女だった…。

  ◇   ◇

 傍聴席には親族と思われる女性が二人座っていた。一人は岩崎亜沙美被告(仮名)の母とおぼしき老齢女性。そしてその傍らで座っていた女性が立ち上がり、情状証人として証言台の前に移動した。170センチはありそうなスラッとした細身の長身。亜沙美被告の長女・百合子(仮名)だった。白のシャツを着た清楚な感じのその女性。年は17だった。

 裁判官をして「今まで経験がない」と言わしめた17歳の情状証人。なぜ未成年の少女が法廷に立たなければならなかったのか。

 亜沙美被告は夫を14年前に亡くした。幼い長女と長男を母のいる実家に残し、単身大阪へ移った。二人の子供を養うためにはお金が必要だった。当初はホテル清掃などの仕事をしたが、それでは収入が少なかった。「ラクな方にラクな方に」と、やがて短時間で高収入の風俗への道へ進む。だが風俗店での仕事は予想をはるかに超えたハードなものだった。ストレスが心身をむしばむ。そんなとき、悪魔の手が忍び寄った。2年前に客から覚せい剤の使用を勧められた。

 亜沙美被告は「疲れが一気に飛んで内面的に強くなれる気がしました。風俗の仕事は普通の仕事じゃないので、すごく疲れやすいと思います。覚醒剤を体に入れたら、すごくラフになるように感じました」と当時を振り返る。大阪市内の自宅で覚せい剤を使用していたなどとして2月に逮捕された。実は逮捕されたのは2度目である。前刑の確定から1年も経たない再犯であり、執行猶予中の犯行だった。

 証言台に立つ百合子ははきはきとした口調で、弁護士の質問に答えていた。とても17歳と思えないような堂々とした態度で。しかし…。弁護士から母が風俗に勤めてストレスをためていることを知ったときの気持ちを聞かれると、それまでの様子と一変。「なんか…」と言葉を詰まらせた。「いいことだと思いましたか?」(弁護士)「…。思いませんでした」(百合子)と声を絞り出すように答えた。

 百合子は執行猶予中に母と一緒に暮らさなかったことをひどく後悔した。現在は高校をやめ、週4~6日居酒屋でアルバイトをしているという。被告人席で娘の胸の内を聞いた亜沙美被告は目を赤くしていた。面会に訪れた際には「二度とせえへん。ごめん」と語っていたという。裁判官から母にどうなってほしいかを問われた百合子は「みんなで協力して二度と大阪にも出ないように、病院にも通わせて。普通の生活になってほしいと思います」と答えた。

 40代後半の亜沙美被告。法廷には似つかわしくない派手な服。裁判中は持っていた書類でパタパタと顔をあおぎ、弁護士から注意を受ける一幕もあった。前刑の裁判時には裁判官に“二度と覚醒剤を使用しない”と約束したという。そのことを問われると「当時は自分の意志でやめられるだろうと、甘い考えですけど思っていたので…。結婚したら止められるだろうと思っていました」と吐露した。当時交際し、情状証人としても出廷した男性とは判決後、程なくして破局。その時期に再び風俗店で働き始めた。「交際相手ともうまくいかなくなって、結婚の話も無くなって、でも自立しないといけなくなって風俗に…。投げやりな気持ちの方が大きかったと思います」。半ば自暴自棄になり、再び覚醒剤に手を染めた。週一回のペースで20回程、今回の逮捕までに使用していた。そんな亜沙美被告に検察側は、常習性は明らかなどとして懲役2年を求刑した。

 前刑確定後、当時の交際男性の下での更正を家族は信じていた。亜沙美自身も同様の思いだっただろう。しかし、一つきっかけがあれば再び薬物におぼれてしまう、クスリにはそんな恐ろしさがある。清原裁判の判決で裁判官が述べた「覚醒剤をやめることは容易ではありません。ただ、あなたは決して一人ではありません」という説諭を聞いたとき、真っ先に17歳の娘が証言台に立ったこの裁判を思い出した。(デイリースポーツ・石井剣太郎)

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