五木ひろしが三木のり平を継承する理由

故三木のり平さんの「めおと囃子」を夫婦役で演じる五木ひろし(右)と由紀さおり
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 歌手の五木ひろし(67)が座長を務める東京・明治座の10月公演は実に興味深い。特に芝居の演目は故三木のり平さんが演出・主演した「めおと囃子」を35年ぶりに明治座で復活させ、歌手・由紀さおり(66)と夫婦役を演じる話題作だ。

 1999年に亡くなった三木さんは「スターなら三船(敏郎)、役者なら(三木)のり平」といわれたほどのコメディアンだった。1950年代後半から故森繁久彌さん、フランキー堺さんらと映画「社長シリーズ」「駅前シリーズ」に出演、劇中で発する「パーッと行きましょう」が流行語にもなったほど。その大喜劇人の名作を復活させるのが大歌手・五木ひろしとは、なんとも不思議だ。

 五木は日本の有名劇場で座長公演を務めるようになってから、芝居の演出を三木さんに依頼していたという。当時を知る人の証言によると、三木さんに「なんでそんなに五木をやるんだ」と質問すると「五木はセリフを歌える。そして歌を語れる。それができる男なんだ。だからオレは五木をやっているんだ」と答えたそうだ。

 それがどのぐらいすごいことなのか。三木さんはスクリーンやテレビでは明るくて面白いおじさんだが、長年近くで見て来た人は実際の三木さんは全く違うという。

 「気難しい人でしたよ。イジイジしてました。優柔不断で意固地でつむじ曲がりです。いなくなると、みんなホッとしたもんです」と当時を振り返る。そんな三木さんが、五木には「ひろし、オレの喜劇を全部お前に譲るよ」といったそうだ。五木の才能を早くから認めていたのだろう。五木が今回の公演で三木さんの「めおと囃子」を復活させるのは、必然なのだ。

 余談になるが、五木は故美空ひばりさんにもかわいがられた。三木さんと美空さんには“共通項”がある。この2人だけが、明治座での座長公演の際、楽屋に寝泊まりを許されていた。三木さんの場合は「時間にルーズでした。いつも四谷の自宅からギリギリで飛び込むんだけど、それもつらくて、ついに楽屋で寝泊まりすることになった」そうだが、明治座をホテル代わりにできる大物2人が、五木をかわいがったいたとは、なんとも不思議な気がする。

 三木さんと五木が同じ舞台に立つことはなかった。三木さんはセリフの覚えが悪く、本番もカンペで対処していたというのは本当のこと。五木も「何回も出てくださいとお願いしたんですよ。でも出てくれないんです。セリフを覚えていないのがバレるのが嫌で出てくれなかったじゃないですかね」という。

 その分、師匠の喜劇を“継承”しようという意識は強く、五木は最近上方の喜劇にも挑戦している。五木は「最も得意としているジャンルが喜劇です。上方と江戸前の違いは分かっています。喜劇は人情を演じるのが一番難しいでしょう。品が悪くなってもいけないし…」と言うぐらいドップリ喜劇にはまっている。

 今回、由紀と共演する「めおと囃子」では三木さんお得意の“ばか歩き”をし、上半身裸のシーンにも挑戦するという。五木は「弟子の1人として(三木さんを)継承していくチャンスだと思っている。しっかり演じていきたい」と力強く宣言した。“五木”のり平はどんな喜劇を見せてくれるだろう。

 公演は10月2日~26日まで。東京・明治座で。(デイリースポーツ・木村浩治)

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