父失踪…激動のボクサー世界ランカーに

 ボクシングを取材していると、複雑な家庭環境で育った選手によく出くわす。大阪の雅ジムのエース格・川口勝太(29)も波乱な人生を歩んできた。

 故郷・長崎県で10歳の時に父が失踪。「母も別に親らしいことをしてくれたわけじゃない」と、そこからは姉と2人、地獄の生活苦。「高校3年もすべて自分の金で行った」と、自力で卒業した。

 元WBC世界バンタム級王者・辰吉丈一郎にあこがれ、拳一つで生計を立てることを決意。ボクシングなど全く経験のない中、18歳は単身、大阪へ乗り込んだ。

 素人ながら、半端ない覚悟と努力でメキメキ力を付けると、09年、西日本新人王を獲得。ここからが人生の奇跡だった。

 その時の新聞記事を失踪した父が見て、息子がボクシングをやっていることを知った。ある時、「しょうた~、勝てよ」と試合会場で声が聞こえ、振り向いた。「どこかで見たことある。もしかしたらおやじか」‐。10歳の頃のあいまいな記憶が呼び覚まされた。

 「会いたくなかった。おやじのおかげで、どれだけ苦労したか…」。それでも川口は、試合後に会った。「16年ぶりでした。許したわけではないけど、もう気にしていない」。それから毎試合、長崎から見に来る父と食事に行くのが恒例だ。

 トランクスに刻むのは「PRIDE OF NAGASAKI」の文字。「僕は長崎に育ててもらった。世界王者になるまで長崎には帰らないと決めている。王者になって戻るのが僕の長崎への恩返し」と心に誓う。

 21日、大阪市の淀川区民センターで行われた8回戦ではWBC世界フライ級12位のヨードグン・トーチャルンチャイ(タイ)に3‐0の判定勝ち。世界ランク入りすることは濃厚となった。

 「来年は勝負したい。チャンスがあれば誰とでも勝負する」。今時珍しい、ハングリーさ全開の男は目をぎらつかせた。

(デイリースポーツ・荒木 司)

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