飛び込み玉井の素顔を知る男 元選手のデイリースポーツ記者が明かす 勝負強さ支える圧倒的練習量
飛び込みの男子高飛び込み予選が6日に行われる。14歳のホープ、玉井陸斗には日本飛び込み界初のメダル獲得の期待がかかる。学生時代に飛び込み競技に打ち込み、玉井と大会で戦った経験もあるデイリースポーツ編集部の谷凌弥記者(23)が、その素顔、長所などを語った。
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東京五輪出場を懸けた5月のW杯。予選18位以内で準決勝進出なら代表内定という状況にあった玉井は、5本を飛び終えた時点で圏外の19位にいた。絶対に失敗が許されない最後の1本。「だいぶ焦りました」。残した言葉とは裏腹に、淡々と高難度の5255B(後ろ宙返り2回半2回半ひねりえび型)をノースプラッシュで見事に決め、代表権を手にした。
世界のトップ選手と張り合える身体能力の高さ、ここ一番で大技を決めてくる勝負強さは、14歳とは思えない。それを支えているのは、圧倒的な練習量だろう。
男子は試合で6本、演技を行う。強化合宿の練習で大抵の選手は1つの技を5~7本ずつ飛ぶが、彼は多い時には30本飛ぶと聞いた。単純計算で6倍だ。
さらに他の選手は高さ10メートルの飛び込み台の階段を歩いて上がるが、彼は常に走って上がる。「先に飛びますね」。一緒に練習していて、何回この言葉を掛けられたか分からない。
ある日、彼からアドバイスをもらったことがある。その内容が実に的確で、理論的。まるでベテラン選手と話しているような感覚になった。実践してみるとすぐに演技が良くなった。
「一本、一本、意味を考えて飛ぶ」。飛び込みではそういうコーチングをよく受けるが、着水まで約1・8秒という演技時間の中で、イメージと感覚を一致させるのは容易ではない。自分の演技を客観的に分析できる力、コンスタントに表現できる再現性の高さも彼の魅力だと思う。
コーチの馬淵崇英さんは飛び込み大国の中国出身。玉井は幼い頃から同コーチの元で基礎を徹底され、一つ一つの技を丁寧に磨いてきた。W杯決勝前の練習で、彼が最高難度の大技である109C(前宙返り4回転半抱え型)を飛んだ際、その出来栄えの高さに各国のコーチから拍手が湧き起こった。玉井の力はライバルたちもよく分かっている。
玉井の高飛び込み人生は意外にも「0点」から始まった。シニアデビュー戦となった18年6月の関西選手権。踏み切る際に足を踏み外し、回転不足でプールに落下して得点なし。この大会に出場していた私は、悔しがる彼の姿を間近で見た。
あれから3年。心身ともに大きく成長し、五輪の舞台に立つ。6本とも100%の演技ができれば、メダルも不可能ではない。日本飛び込み界初の快挙を期待したい。
◆谷凌弥(たに・りょうや)1997年11月19日、京都府城陽市出身。小学3年から飛び込み競技を始める。コーチは64年東京五輪代表河合初子氏。高校2年でインターハイ男子シンクロ(公開競技)で全国初優勝。3年時、国民体育大会5位入賞。大学進学後、19年日本室内選手権で決勝進出。同年9月末に引退。20年4月デイリースポーツ入社、コンテンツ局編集部所属。
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