ボルトも認めた日本の強さ 世界の頂点が見えた400mリレー銀

銀メダルを披露する(左から)山県亮太、飯塚翔太、桐生祥秀、ケンブリッジ飛鳥=リオデジャネイロ(撮影・棚橋慶太)
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 「リオ五輪・陸上男子400mリレー・決勝」(19日、五輪スタジアム)

 男子400メートルリレー決勝で山県亮太(24)=セイコーホールディングス、飯塚翔太(25)=ミズノ、桐生祥秀(20)=東洋大、ケンブリッジ飛鳥(23)=ドーム=の日本が37秒60のアジア新記録で銀メダルに輝いた。08年北京五輪の銅メダルを上回り、1928年アムステルダム五輪女子800メートルで銀メダルの人見絹枝に並ぶトラック種目最高成績となった。

 4人の若武者が日本の魂、情熱、プライドを込めた渾身のバトンリレーが、世界に衝撃を与えた。ボルト率いるジャマイカに迫り、陸上大国米国を封じきる。自己ベストで100メートルの9秒台は誰もいない。そんなチームがついに世界の2位まで上り詰めた。

 「最後はもう覚えてない。今までで一番、あっという間の100メートルだった」(ケンブリッジ)

 切り込み隊長を任された山県が、ロケットスタートから上位で食らいつくと、2走の飯塚は各国の主力が集う区間で互角の走りを披露。第3走者の桐生が高速でコーナーを駆け、トップでアンカーのケンブリッジにバトンを繋ぐ。ケンブリッジは直線半ばまでジャマイカのアンカー、ボルトとバトンが接触するほど肩を並べて競り合った。最後は突き放されたが、猛追してきた米国(失格)、カナダの追撃をしのぎ、そのままゴールを駆け抜けた。「2・JAPAN」の文字を確認すると、ケンブリッジは緑のバトンを空に突き上げ、猛スピードで駆け寄ってきた桐生とガッチリ抱き合った。

 ケンブリッジ、山県、桐生という日本人初の9秒台を目前にとらえる3人に、200メートルで日本歴代2位の記録を持つ飯塚を加えた若き4人は、“日本史上最高”の呼び声が高かった。銅メダルを獲得した08年北京五輪メンバーは朝原氏を中心に、塚原、末続、高平と数年間不動のメンバーで各走順のスペシャリストがそろい、一体感のあるこれぞ“チーム”という4人だったが、今回は違った。

 国内大会から火花を散らすライバル同士が集結。互いを誰よりも認め合いながら「俺が1番速い」という野心も燃やす。選手紹介の登場シーンでは飯塚の発案で刀を抜き、鞘に収める侍ポーズを採用。まさにギラついた侍のような4人だった。北京五輪のレース前夜は、重圧のあまり誰も「メダル」を口にしなかったという。しかし、昨晩日本の宿舎では「絶対メダルを獲れる!絶対いける!」と、息巻く男たちがいた。個人戦ではそれぞれ目標に届かなかった。だからこそ、何よりも結果を欲していた。

 爆発力のある4人の走力を、長年積み上げてきた日本伝統の精密なアンダーハンドバトンパスが繋いだ。地力に勝る強豪国に勝つために銅メダルを獲得した08年北京五輪以降も試行錯誤を重ねてきた進化型のアンダーハンドパスは、北京の時よりも受け手、渡し手がより腕を伸ばし、2人の間の距離「利得距離」を稼ぐことでタイムを短縮するもの。難易度はさらに増した。

 不動のメンバー、走順だった北京と比べ、今回の4人がリレーのために全員揃って練習したのは3週間前の国内合宿からだった。ただそれでも過去の膨大なデータから、それぞれに合った距離感を分析。しっかりと本番で合わせきった。桐生は「練習からバトンのミスはほぼゼロになった。この距離で渡すとどうなるとか、先輩たちのデータがあったから」と先人たちが築きあげてきた歴史に感謝。あのボルトも「日本はチームワークが素晴らしい。彼らはバトンの扱いが上手い。チームメートを信頼している」と認めた。

 希望は膨らむ。優勝したジャマイカは、エースのボルトが今大会を最後に五輪を去る。4年後の東京五輪。この4人がさらなる進化を遂げていれば、頂点を狙える可能性は十分にある。「4年後はもっといい色のメダルを獲りたいし、獲れると思う」と桐生はいう。日本人が短距離種目で世界の頂点に立つ-。昨日までは口にしても笑われていただけの夢物語は、4人の侍によって、手の届く確かなサクセスストーリーへと紡ぎ直された。

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