ZOCからMETAMUSEへ、新グループを発足させた大森靖子「個の肯定を目に見える形で」

「大っ嫌い」「崩壊寸前」・・・SNSには応援コメントとともに、バッシングコメントもずらっと並ぶ。2018年、シンガーソングライターとして活躍する大森靖子を中心に結成されたZOCは、まさに炎上とともにキャリアを重ねてきた女性アイドルグループだ。

そんなZOCが7月7日、グループ名をMETAMUSE(メタミューズ)に改名。さまざまな話題(問題?)に目が奪われがちだが、実は誰よりも音楽を軸にしたグループを目指したZOCを解散して、「実像崇拝」というコンセプトとともに、新グループに次なるフェーズを求めた大森。初期メンバーの西井万理那、藍染カレンとともに話を訊いた。

写真/バンリ

「メンバー個々が自分を表現して見せる」(大森)

──突然の改名でしたが、現在の心境はどうですか?

大森「ライブは特にそうですけど、音楽表現で説得していく活動だと思っているんですね。今の時代、あまり薄くない、本当の意味での共感ができるのが音楽だと思っていて。『tiffany tiffany』という1枚目のシングルができたことで改名に踏ん切りがついたので、今はワクワクが大きいです」

藍染「最初、改名って聞いたときはびっくりしたんですけど、今はかなり前向きです。レコーディングしたり、MV撮ったりするなかで、どんどん自分にMETAMUSEという名前が染みこんでいってる感覚です」

──西井さんは?

西井「最初は絶望しました。なんてこった! と思って、最初はちょっと反抗したけど、靖子ちゃんの意思の固さを感じ取って。正直まだ実感はないけど、もう切り替えました」

──先日、公式YouTubeの『ZOCの終わり、METAMUSEの始まり』という1時間半近いインタビュー映像を拝見しまして。

大森「ありがとうございます。めちゃくちゃ長いのに(笑)」

──あの動画で改名に対するアンサーが全部出てますよね。メンバーのみなさん、結構思ったことをぶっちゃけてて。

大森「珍しいですよね。メンバーが思っていることをこんなに話すことってないから」

──そこでひとつお聞きしたいのが、改名にあたりコンセプトに掲げている「実像崇拝」。アイドルといえば偶像とよく言われますが、それをあえて偶像ではなく、実像だと。

大森「そうですね。今の時代、加工された動画がSNSを通じてアップされますけど、自分ではないものを自分として肯定する作業も、私はすごく好きなんですよ。ただ、ZOCとしての活動を4年近くしてきて、その承認欲求というものが、食欲、性欲、睡眠欲に対して、思ったより強くないんだなって。なにを認められたいかではなく、有名になれればいいってぐらいで。そういう表現活動は、長持ちしないと感じてて」

──最近は、「なにをしたい」「なにか伝えたい」より前に、YouTuberやインスタグラマーになれますから。

大森「やっぱり、なんのためにその言動を選択してるかを強く持ってないと、応援してもらえないし、信用してもらえないとすごく思うんです。そんななか、よく分かんないけど感動するとか、意味分かんないけどおもしろいとか、私たちはそういう『なんかかっこいい』ってのを目指していて」

──なるほど、それはまたハードルの高い命題ですね。

大森「その自覚はあるんですけど、メンバー個々がそれぞれ掲げる自分を表現して見せることで、本当の意味での多様性やルッキズム、エイジズムを、言葉で括るだけじゃなくて、もっと根本的な個の肯定というのを目に見える形として活動しようと、実像崇拝ってコンセプトでやってます」

──その「実像崇拝」というコンセプトをあえて掲げたことは、実はメンバーだけじゃなく、ファンへのメッセージにも聞こえたんですね。自分たちは実像で活動する、だからファンの在り方も考えてほしいよね、という想いがあったのかなと。

大森「やっぱり、今の時代、ちゃんと自分として、人を嫌ったり、愛したりしてほしい。嫌うことに対しての匿名性がやっぱり無責任に聞こえるというか。ちゃんと実名で、私はこんな人生を生きてきたからそれは受け入れられません、っていうのを聞きたいなって思います。いつも、そういうときは」

「2人が本名なのはかっこいい」(藍染)

──SNSなどの匿名性における、負の部分ですよね。

大森「うん。怒りという感情は意外と大事だから、ちゃんと喧嘩した方がいい。アンガーマネージメントとか言ってるけど、もちろん、ぶつけ方は選んだ方がいいけど、いろんな感情を大事にできるように、感情の匿名性を無くしたいなって思う」

──そういうところも含めて、自分たちも実名でやります、ちゃんと顔を出してやります、だからこそファンもちゃんと存在してほしいというか。

大森「そうですね」

──西井さんは、匿名性もくそもないって感じですが。

大森「ないよねぇ(笑)」

西井「うちは、アイドルをやるなら本名でやりたかったのね。絶対に。本名の自分が好きだったの。芸名もかっこいいけど、どうしても本名でやりたかったの」

大森「私も本名派です」

藍染「私は芸名です。新しい人生がほしかった」

西井「うん、その気持ちもわかる」

大森「わかる、わかる。カレンはそうだよね」

藍染「でも、2人が本名なのはずっとかっこいいと思ってる」

──本名でやるのは、結構な覚悟ですからね。人として強い。でも、大森さんの強さと、西井さんの強さはまた種類が違う。

大森「全然違う~。めっちゃ憧れる」

西井「うち、強いと思わないんだけど、別に」

大森「超ストロングスタイルだよ」

西井「やさしー」

──藍染さんと西井さんの2人は、放っておいても勝手にやってくれるタイプじゃないですか。

大森「そうそうそう、特ににっちゃん。カレンはたまに変な藍染カレンを作ってくるときがあるので、『そっちじゃないよ、そっちじゃないよ』ってやるけど(笑)」

藍染「私は結構、靖子ちゃんの手間をかけさせてると思う(苦笑)」

大森「カレンは基本、やればなんでもできるので」

「アイドルは自分にとって相性がいい」(大森)

──この2人はさておき、そういうコンセプトだとメンバーそれぞれの表現への想いや自立性も求められますよね。グループに合わせるんじゃなくて、メンバーの個性、表現がMETAMUSEというグループを形成していくというか。

大森「それができるタイプの人しかいない、逆に私の言うことを聞いてくれない(笑)。超やりたいのしかやってくれないので、そう思ってくれる楽曲を私が作るしかないと、これまでやってきましたから(笑)」

──こうやりましょう、じゃなく、与えたテーマに対してどんなアプローチをするか、という。

大森「私の場合は、『あ、そうやるんだ。おもしろい!』っていうプロデュース方法で、『こうしなさい』と言ったことは1回もない。ってか、やろうと思っていない。なにが出るか楽しみにして、ネタを提供するみたいな。曲を書いて、これ、メンバーはどんな風にやるんだろう? みたいな」

──きっちり揃える団体芸ではなく、個々の表現で全体を作り上げていくスタイルですね。ある意味、表現としてどうやってグループに返していくかという。

藍染「ありのままでいることがいちばん美しい瞬間というのが絶対あるから、私もZOCでそれができるようになりたかったし、見てくれてる方にもそれを感じ取ってもらえればと思ってずっと活動してきたので」

──西井さんはどうですか?

西井「うちはやりたいからやる、それだけ。グループへの貢献とは別に考えてない」

──なるほど。いろんなインタビューを読ませてもらったんですが、西井さんって頭では理解してないけど、体で分かってるタイプなんでしょうね。

大森「そう、勘がめちゃくちゃ良くって。にっちゃんに『いい』と思ってもらえるものをこっちが作る感じです(笑)」

──あと、ZOCの活動を見たとき、大森さんの意思として、大人に作られたアイドルじゃなくて、ひとつのアートフォームとしてアイドル活動をしているように感じていたんですね。

大森「うん。うれしい、ありがとうございます」

──たぶん西井さんは、そこを理解せずにやっちゃってるタイプかも。

大森「アルバム『PvP』(2021年)も、なんか頭いいねって感想でした。いろんなこと考えててすごーいって(笑)」

西井「どうですか?って聞かれて、よくわかんないって言ったのをめちゃ覚えてる(笑)」

──その一方、藍染さんはまた違った視点からグループを見ていて。大森さんもこの2人の初期メンバーのことをかなり信頼しているようにも見えます。

大森「めちゃ頼ってます。この2人は仕事をサボらない。だから初期メンバーから残ってる(笑)」

──だからこそこの3人に、ZOC、そしてMETAMUSEの型であるアイドルというアートフォームについてどう考えているのかお聞きしたくて。

大森「あぁ、なるほど。私はですね、近代アイドル史しか知らないですけど、AKB48、ももいろクローバーZの時代から、アイドルってカウンターカルチャーだと思うんです。私自身もそういう目線で楽曲を作ってるから、このアートフォームは、自分にとってすごく相性がいいんですね」

──たしかに。それを理解してZOC、METAMUSEを聴くと、また違った側面が見えてきそうですね。

大森「でも、今のアイドルのライブ業界については、本末転倒気味っていうか、いい音楽を作る環境を支えてもらうためにチェキ撮影があったりするのに、音楽は二の次で、チェキが業務になっちゃってる。チェキのために楽曲を作るという逆転現象が起きてて、それはめちゃくちゃ気に入らないです(笑)」

──分かります(笑)。大森さんはやっぱり音楽ありき、なんですね。

大森「はい、もちろんです」

「うちは作った感覚、1mmもない」(西井)

──藍染さんは最初、「アイドルにならない」って言っていたとか。

藍染「いえ、もともとすごくアイドルが好きで、いろいろオーディションも受けてたんです。でも、自分が理想とするアイドルに自分は到底なれないから、『アイドルにはなれません』と言ってて(苦笑)。それを靖子さんが『いや、やるで』と誘ってくれたんです。もともと靖子さんの楽曲が好きだったし、自分が自分にかけた枷を壊せたらすごく楽しいことだなって」

──西井さんはどうですか?

西井「え、なに? アイドルになったきっかけ?」

大森「普通に違う(笑)」

西井「なんだっけ?」

──アイドルというアートフォームの可能性です(笑)。

西井「うちは結構、自分が成長できる気がしなくて。もうこれ以上は無理かもって思いながらやってきて。だって、全力で頑張ってるし。でも、ZOCでツアーをやってるうちに、それこそメンバーの歌い方とか見て、こうやって歌えばいいんだって見て、歌うのが楽しくなった」

──とはいえ、西井さんは初期メンバーとしてZOCを作ってきたわけじゃないですか。

西井「うちは作った感覚、1mmもない」

──ほぉ。

西井「うちは靖子ちゃんが作ったものを、楽しくやるってだけ」

──もう感覚で楽しんでるわけですね。

大森「私も、にっちゃんがいるからこういうグループにしようとは1mmも考えてない。こういうグループを作ろう、そこに西井も入れようって感じ。にっちゃんのために作ったと周囲は言うし、私も言ってるんだけど、どこにいたって成功する人じゃないですか。だから、ここに居てくれることが逆にありがとうって」

西井「へぇ、やさしー」

大森「だから、やさしいんじゃないから」

──西井さんは、言うこと聞いてくれないけど、仕事はちゃんと完遂してくれるタイプ。

西井「ハハハ(笑)」

大森「そう、天才だから。一番信頼してます、そういう意味では」

──インタビュー動画のときでも、「絶対やめるつもりはなかった」とはっきり言ってましたもんね。

西井「うん。なんだかんだ、ZOCじゃない自分が考えられない」

──大森さんはもともとソロでデビューしていて、表現という意味ではグループのなかに入らなくても全然できるわけで。でも、あえてしんどいところに身を置いて、音楽家として挑戦している。実は誰も踏み入ったことのない領域なんですが、それを横目で見ている2人にはどう映ってるんですか?

大森「おぉ、たしかに。言われたことない」

──それが当たり前にある状況は、ある意味、メンバーの甘えにもなりかねなくて。極端に言えば、大森さんがグループから抜けたとき、どちらかが大森さんの役目をやらないといけない可能性もあるわけで。

藍染「できないです、できないです。ムリムリムリ。できるわけもないんですけど」

──でも、大森さんが大変な役目を背負っているのは分かってると思うんですね。

西井「うん、それはわかる」

藍染「仕事に対する容量もすごいし、人に対する容量もすごい。メンバーがそりゃねえだろってことをしても、靖子ちゃんだけが『おもしろい、好き!』って言ってることがあって。私がびっくりしちゃうこともこれまで結構あったんですよ。愛の容量? 半端ないなって」

──それはやっぱり愛なんですか?

大森「う~ん、愛っていうか、面白いと思えたら勝ちみたいな。そう思えなかったらムカつくじゃないですか。でも、面白いかもって思ったときに・・・」

藍染「ホントに面白いと思ってるから」

──見たことないものを見たい、ということですよね。

大森「そうそうそうそう」

──だから、アイドルというのはステージではこういうポーズをとって、こういう場面ではこういうリアクションをして、というような決まり事があったりして、大森さんとしてはそこからはみ出して、自分なりの表現を期待したいという。

大森「まぁ、それどころじゃないんですけどね、ZOCのはみ出し方は(苦笑)。でも、退屈よりは100倍マシ。つまんないがいちばん罪だから、自分にとって。面白ければOK」

「自らの生き様をライブに打ち込む」(大森)

──大森さんがやっていることって、前代未聞のことなんですよね。アイドルグループのプロデュースというのはいろんな人がやってきたわけですが、あろうことかグループのなかに入って、メンバーとしてその任務を全うしていくのは、長いアイドル史でもないレアケースなんですね。

大森「ない。みんな、やりたくないと思う。散々『ソロだけやってろよ』って叩かれるし。まぁ、そう見えるのも分かってる」

──でも、だからこそ得られたものもあるじゃないですか。

大森「あるある。それをやっていかないと、なんの女性運動をしたところで説得力がない。実証しないと。私もライブがいつまでもできるわけじゃないから、自分がやってるうちに、自らの生き様をライブに打ち込むというスタイルをメンバーみんなに伝えていきたい」

──なるほど。そうなればMETAMUSEもZOC同様、また期待してもいい感じですね。

大森「はい、期待していいです」

──そのMETAMUSEのデビュー曲『tiffany tiffany』、西井さんがインタビュー動画で言っていたのが、ZOCのデビュー曲『family name』と同じような、始まりの曲って感じがしたと。

西井「うん。言った、言った。うれしー、見てくれて」

──わりと端的に、言い当ててますよね。

大森「にっちゃんは常に芯は食ってる。芯だけ食ってる(笑)」

西井「なんか、聴いたときに、めっちゃぽいなって。全然別バージョンだけど、同じオーラを感じた」

──やっぱり、『family name』はZOCのデビュー曲として、大正解な1曲だったと思うんです。非行少女や引きこもりのオタクといったメンバーの過去と、それぞれの足かせになっていた学校や家庭からの解放。すべてが最高のバランスで成り立つ、ZOCが歌うべき1曲でしたから。

大森「そうですね。『family name』はホント、生うどん(西井が組んでいたJKユニット・生ハムと焼うどん、現在断食中)に作ったような曲だから。にっちゃんにもらったような曲だから」

西井「ふーん・・・え、そうなの?」

大森「そうだよ。生うどんの2人を見て、あぁ、なにを頑張っても、家族に勝てねぇって思って作った曲だから」

西井「あぁ、たしかに。そう考えるとそうかも」

──でも、ZOCというバンドを1曲で表してる感じでもある。

大森「そうですね。グループにもそういう子がいっぱいいたから」

──今回のMETAMUSEにとっても始まりの曲ですが、藍染さんはどう感じました?

藍染「そうですね。今、にっちゃんがオーラって言ってて、すごいしっくりきたんですけど、たしかにそうだって」

大森「にっちゃんに乗っかった(笑)」

西井「うちがいちばんよくやる手法だ(笑)」

藍染「のっかり芸しちゃった。今はMETAMUSEとして歌っていく曲だと実感してます」

【METAMUSE】

大森靖子が全楽曲の作詞・作曲を手掛け、アートディレクション、 さらに衣装やライブの演出なども考案するトータルプロデュースを担うアイドルグループ。メンバーは、藍染カレン、西井万理那、巫まろ、雅雀り子、鎮目のどか、大森靖子の6人。9月からは、藍染・西井・巫・鎮目の4人からなるMETAMUSE μ【メタミューズ ミュー】の全国ツアーがスタートする。

(Lmaga.jp)

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