廣木隆一監督が描く、SとMの世界「人間の欲望であり熱情」

過激な描写のうちにメッセ-ジ性の高い核を仕込む奇才漫画家・山本直樹の伝説的作品『夕方のおともだち』が、名匠・廣木隆一監督によって映画化された。青春恋愛映画から社会性の高い作品まで幅広く撮りつつも、人間の奥底を描くエロティックな映画に自身の作家性の主軸に置く廣木監督が、「閉ざされていない」SMの世界で交流する2人の男女を描いた野心作だ。

取材・文/春岡勇二

「僕もピンク映画出身なので」(廣木監督)

──原作は1995年発表の、山本直樹さんのコミックですね。

そうです。同年に山本さん原作の『君といつまでも』という作品を田口トモロヲさん主演で撮って、次はこれだなって企画したのですが、実現するまでにずいぶん時間が経ってしまいました(苦笑)。ですが、いつか撮りたいという思いはずっとありました。

──そのモチベーションを維持できた原作の魅力は、どこにあったのでしょう?

SMというと、汚らしいとかワケが分からないとかよく言われるじゃないですか。でも結局のところ、人間同士の関係性において生じるエロスなんですよね。そしてエロスとは、人間にとって欲望であったり熱情であったり、生きることの代名詞となりうるものです。かつて「日活ロマンポルノ」が、性=生であることを示す名作を数多く残してきた。それが近年はすっかり減ってしまい、もっと作られればいいのにと思っていたので、だったら自分で作ろうと。僕もピンク映画(の監督)出身なので。

──脚本を書かれた黒澤久子さんは、数々の名作ロマンポルノを執筆された脚本家・荒井晴彦さんのお弟子さんですね。

そうです。ホン(脚本)が出来たのはもう7、8年ですね。SMクラブの女王様役を演じてくれた菜葉菜(なはな)はそのときにオファーさせてもらったんだけど、彼女とムラジュン(村上淳)が演じてくれた主役2人のキャラクターや彼らの背景の設定は、今映画化した段階でもまったく変わっていない、完成度の高いホンでした。

──企画から長い月日を経ての映画化だったわけですが、逆に今映画化したことで変わったことはあるのですか?

SMシーンの描写が以前はもう少しハードなものを考えていたのですが、これは多少ソフトになったと思います。ただ、時代がそうさせたわけではなく、僕自身がソフトになったためですが(笑)。

──プレスシートには菜葉菜さんが、この作品への出演を7年間ひたすら待ち続けたと書かれていますね。

うん、よく待ってくれました。申し訳ない。彼女の起用は、原作のコミックを読んだとき、そこに画かれていたキャラクターが彼女にそっくりだったんです。もうこれはやってもらうしかないとオファーさせてもらったんだけど、やっぱりハードルの高い役ですからね。よく受けてくれたと思います。

──難しいけれど、面白い役でもありますよね。完全にアルバイトとして接客しているSMの女王様という。

リアルですよね、今どきはSMもバイトかよっていう(笑)。今回参考のために改めて、本職の女王様とその奴隷という男性にお会いしたんだけど、プレイはすごく芝居がかっているんですよ。純粋な虚構としての陶酔感のなかに2人の世界を作っているというか。「日活ロマンポルノ」にもSM映画のジャンルがあって、そこでの作品群はその虚構だけを描いていた。それで美しかったのだけれど、今回は2人の世界を閉ざさずオープンにして、現実と地続きにした感じです。

「それでも生きていくしかないんだよ」(廣木監督)

──虚構を虚構のままにしておかない。それはある種のロマンの喪失ではないですか?

失われるかもしれません。ただ、そうすることによって生まれる新たなロマンがあるかもしれません。

──そうか、この作品が目指しているのはそこなんですね。だから、村上淳さんが演じているマゾヒストの主人公もユニークなんですね。

大人になってから自身の性癖に気づいて、初めのうちは陶酔できていたものが、最近は少しずつ陶酔感が薄れてきつつあるというね。

──「マゾから醒める」という表現が使われていて、なんだか夢中で遊んでいた子どもが大人になって、いつまでもそうしていられなくなる切なさを感じました。

甘美な夢に浸っていられなくなるわけですから、切ないですよね。ムラジュンがこれを淡々と的確に演じてくれました。

──体を痛めつけられて歓ぶハードマゾではあるのだけれど、クラブでもらった化膿止めの薬もきちんと飲んでいるんですよね(笑)。

それもジップロックの袋に入れてきちんと管理している。真面目で几帳面な人なんです。

──村上さんは、これまで廣木作品に10本以上出演されていますが、この『夕方のおともだち』が意外にも初主演なんですね。

彼が今回の主人公の年齢になってくれていた、ということですね。彼の実力も気心も知れているから、これまでも彼に合う役さえあれば頼んでいたでしょうしね。ただ、この主人公も役者としてはイメージに傷をつけるかもしれないリスキーな役ですから、彼もよく受けてくれたと思います。

──監督が撮られた『不貞の季節』(原作:団鬼六、2000年作品)を思い出しました。あのときの村上さんは、SM小説家の妻を縛って密通する青年編集者の役でした。

大家の小説家役が大杉漣さんでね。ムラジュンは、大杉さんのお芝居に感銘を受けていたからね。あのとき縛っていた男が今回は縛られるという、20年以上前の作品がここにきて結びつくというのは面白いですよね。

──キャスティングで言うと、今回、脇がすごく贅沢な布陣ですよね。

田口トモロヲさんとか宮崎吐夢さんとかね。2人とも市長選の立候補者なんだけど、吐夢さんなんか笑って手を振っているだけという。ちょっと悪かったかな(笑)。

──伝説の女王様役・Azumiさんも、短い出演シーンながら存在感がありました。

彼女は2人組の音楽グループ・wyolica(ワイヨリカ)のボーカルで、ミュージシャンなんです。彼女たちの曲を僕の『東京ゴミ女』(2000年)の主題歌にさせてもらったりして、以前から知っていたんですが、彼女の目ヂカラが今回の役にいいなと思って出てもらいました。

──迫力ありました。でも、今回の脇役で実は一番すごかったのは、村上さんの寝たきりのお母さんを演じている烏丸せつこさんでした。主人公の性癖にも大きく関わっていて。

主人公をさまざまな意味で一番縛っているのは、この母親かもしれないというね(笑)。映画のラストでも、主役の2人は同じ車に乗って走り去るのだけれど、この母親がいるために本当に街を出ることが出来るのか、わからない。結局、人は誰もがそれぞれの痛みや思いを抱いたまま、それでも生きていくしかないんだよ。

(Lmaga.jp)

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