世界が注目する大阪発の映画祭、濃厚すぎる作品紹介

知られざる世界の作品を大阪から発信する『大阪アジアン映画祭(OAFF)』が、3月5日からスタート。ここでひと足早く公開され、後に劇場でも公開が決まってヒット作品へと成長し、各国の賞レースをにぎわせることも多く、映画ファンが注目しているイベントだ。

16回目を迎える今回は、計63作品を上映。新型コロナウイルスの影響もあり、海外ゲストの招聘などは中止されたものの、初めてのオンラインにも取り組み、2月28日から3月20日の間、「大阪アジアン・オンライン座」として過去の上映作から人気の7作品と、今回の選定作から貴重な台湾クラシックのリマスター版2作を上映する。

石井裕也監督の『アジアの天使』をはじめ世界初上映が21作品など、そのほとんどが日本で初上映となる。日本、中国、韓国、モンゴル、トルコなど23の国と地域から作品がそろい、はたして、いったいどの作品を観るべきか悩んでしまうのも事実。

過去に同映画祭で審査委員も務め、毎年毎日通う映画評論家のミルクマン斉藤さんが、暉峻創三プログラミング・ディレクターと上映作品について濃密トーク。今後の映画界を担う監督や、話題となる作品の参考に覚えておきたいことばかりだ。

取材・文/ミルクマン斉藤

暉峻「モンゴル映画、ちょっと変化が来てるんじゃないか」──今の状況下で今年のOAFFは本当に開催されるのかと危ぶんでましたが、蓋を開けると例年と変わらぬ本数に大充実のラインアップ。大概の映画祭が中止・規模縮小、もしくはオンライン化されるなか、まるで冗談のようです(笑)。

コロナのせいでここ1年間、どの映画祭もぐしゃぐしゃにされて、すごくネガティブな影響を受けてきたんですけれど、OAFFは奇跡的にいつもの規模で、しかもスケジュールも変えずに劇場で上映できることになったんで、それは本当に良かったなと思っています。

──プログラムを眺めるとOAFF常連監督の新作もけっこうありますし。

そうですね。常連的なことでいうと2015年の「来るべき才能賞」を受賞した、タイのメート・タラートン監督の新作『愛しい詐欺師』がありますね。

──前作の『アイ・ファイン、サンキュー、ラブ・ユー』はロマンティック・コメディの見本のような作品でした。

まさに、あのモードでまた押しまくってて爆笑できますよ。これもGDH(タイ映画界を牽引するエンタテインメント系会社)の作品なんだけれども、クオリティも文句なし。

去年グランプリを獲った『ハッピー・オールド・イヤー』もGDHでしたが、あれはどちらかというとしんみりさせる系の、GDHとしてはややアート寄りだったと思うんですけれども。

──あれはナワポン・タムロンラタナリットという作家が、実験作と大衆作を交互に撮るようなヒトでしたからね。ちなみに去年の僕のベスト作品ですが。

今回は完全に娯楽で押してて、去年とは別の側面のGDHが見られます。常連組では、ほかにもモンゴルの『ブラックミルク』。

──2016年の「来るべき才能賞」を獲った女性監督ウェゼマ・ボルヒュですね。前作『そんな風に私を見ないで』は本当にすごかった。あんなに洗練されたモンゴル映画はいまだに観たことがない。あれがグランプリでも良かったとさえ思いました。

また今回も強力ネタで、また自分で監督して自分で主演してるんですね。まあ、この監督はモンゴル人ですけれども、社会主義だった時代に旧東ドイツへ家族と一緒に移民して、今もほとんどドイツを拠点にしてるんです。

で、今年モンゴルからはもう一本、短編で『裸の電球』というのが入ってて、斬新度は更に増してます。「モンゴル映画、ちょっと変化が来てるんじゃないか」と感じられる年になるんじゃないかと思いますね。

──一般的に映画産出国としてなじみのない国がけっこう入ってますね。

国籍の豊かさというところも今回の特徴ですね。ブータンからは『ブータン 山の教室』があります。

2017年に『ヘマヘマ:待っている時に歌を』ってブータン映画をやりましたが、あのプロデューサーとして大阪に来た人の監督作品です。例えばチャン・イーモウの『初恋のきた道』みたいなノリで、すごく広まりやすい映画ですね。

──ジャ・ジャンクー(今や中国映画を代表する作家のひとり)とペマ・ツェテン(チベット映画界を代表する作家。最近『羊飼いと風船』が劇場公開)がプロデュースしたっていう『君のための歌』はチベット映画ですね。

監督のドゥッカル・ツェランはペマ・ツェテンの作品で音楽や録音をやってる音方面の人なんですよ。

──あ、良いかもですね。ツェテン映画の音や音響、良いですもんね。

映画自体も、音楽というか歌に関する映画でもあるんで、すごくこの監督に向いた題材なんですよね。今回、中国映画の紹介という意味でも面白いことになっててウイグル語圏も入ってます。去年も選んだ『アレクス』の監督エメットジャン・メメットの新作『すてきな冬』ですけど。

──スチール写真を見たら、前作と全く同じテイストですね(笑)。

前のを観てると、映画が始まって1秒で同じ監督だと分かる(笑)。完全に自己のスタイルを確立してる人ですね。

その一方で『The Eight Hundred(英語原題)』って去年の地球上一番のヒット作があります。コロナのおかげで、ハリウッド映画2020年は大したヒット作出してないんで、世界最大ヒット作なんですね。

これはネタとしては国策映画と言っては言いすぎかもしれないけど、いわゆる中国の体制に気に入られるタイプ、要するに抗日モノなんだけど、なのに検閲で引っかかってなかなか公開できなかったといういわくつきの作品です(笑)。ひたすら1シチュエーションだけで押し通す。

ストーリーの起承転結で見せるんではなくて、倉庫の中に中国の兵士たちが閉じ込められるなか、周りを日本軍に包囲されて、というシチュエーションだけ。これ、149分あるんですけど、全く飽きないですね。

──おお、ハワード・ホークス『リオ・ブラボー』のプロトタイプですね。

これは絶対にスクリーンで見なくちゃいけない映画で、画面の作りの精巧さがすごいですね。あと、ほとんど中国映画なんですけど、香港のピーター・チャンがコン・リー主演で作った『中国女子バレー』もある。

これ、出来映えは素晴らしいですよ。で、コン・リーが完全にイメチェンしてるんです。なかなか中国のなかでも両極端な作品が集まっていて面白いことになるかなぁと。

あと、僕も知らなかったフォン・クーユーっていう新人監督のデビュー作『A SUMMER TRIP~僕とじいじ、1300キロの旅』は世界初公開なんですけど、撮影が何故かリー・ピンビンで(中国語映画界を代表する台湾の撮影監督。日本でも『春の雪』『ノルウェイの森』等を担当)、音楽は久石譲。

──え~!そうなんですか!?

メチャクチャ恵まれたデビューなんですよ。でもすごく映画の演出を勉強しているのが観てて判る。俳優も脚本もやってるので、かなり現場で映画的演出を覚えていったクチだと思うんですけど。経歴を何も知らないでこの映画を見たら、新人監督とは思えないくらい熟成してますね。

暉峻「台湾映画の枠組みから外れた作品が今年はそろった」──OAFFでは熱狂的ファンが多い、香港や台湾映画はどうでしょうか。なんたってオープニング作品がアン・ホイ(1970年代後半から80年代にかけての、いわゆる「香港ニューウェイヴ」の代表的監督)についてのドキュメンタリー『映画をつづける』だという。

やっぱりこの1年間、みんなにとっていろいろ辛い日々だったと思うし、自分が仕事を続けるのか続けないのかみたいなことを立ち止まって悩んだ人も多いんじゃないかと思うんですけど、そんな人たちがこの映画を観ると絶対に泣けます。

アン・ホイに興味がある人が観れば、それはそれで興味深いのはもちろんですけど、この映画は単なるメイキングものとは全然違う。これ自体が一種の人生論みたいになってる映画で、今回のオープニングを務めるに相応しいなと。

ひとりの作家についてのドキュメンタリー映画が映画祭のオープニングというのもなかなか異例だと思うんですが、今年の幕を開けるにはこれが絶好だろうと。人々に勇気を与える映画ですね。

──香港ではアダム・ウォンの『狂舞派3』がありますね。OAFF2014年で『狂舞派』が上映されてますけど『2』はあるんですか?

誰でもそう思いますよね(笑)。これは映画を見てもらったら『2』がどこに行ったかが分かります。

──なるほど(笑)。ジョニー・トーの『高海抜の恋』(OAFF2012で上映。原題は「高海拔之戀II」)みたいな趣向かな?(笑)

OAFFでの香港映画の紹介は割と、香港ローカルなネタって言うんですかね、中国全土に向けて作るのが今の香港映画のメインストリームではあるんですけど、それはちょっと置いといて、香港の地元の映画好きが好むものを取り上げるのが特徴だと思います。それは今年もほぼそう言えますね。

──オムニバス『十年』(OAFF2016で上映。後に劇場公開)の監督のひとり、クォック・ジョン監督の新作もありますね。

『夜番』ですね。短編ですけれど、そこそこの長さ。これは結構危険なネタで、要するに夜だけ勤務してるタクシーの運転手の話なんですよ。これを演じているのは本業は役者じゃなくて、香港の区議会議員なんですね。

ちょっと変わり種として知られている人らしくて元はタクシー運転手をやってたらしい。タクシー運転手が夜の街を流して、いろんな客を乗せたりしている間に、警察が民主化デモをやってる人たちに威圧したりしてるエリアに入っていく。

別に政治的なことを訴えるような映画ではないんですけど、かなり生々しい現在の香港を映した映画ですね。この映画は一応「日本初上映」ということになっていますけれども、実際のところ台湾でしかやってません。

──『手巻き煙草』も香港映画ファンは観たい人が多いと思いますね。金馬奨を席巻しましたから。

OAFFは香港政府の新人監督育成計画作品はほとんどやってるんです。去年の『私のプリンス・エドワード』もそうだったし、その前だと『淪落の人』もそうだし。そんな一連の補助金の対象になったのが、今回だと『エリサの日』と『手巻き煙草』ですね。

これらが面白いのは香港政府マネーが入ることによって中国マーケットを気にせずに作れるっていう皮肉な状況が現れてるんです。どっちも香港ローカルな、多分中国で公開されることはないかなというような作品ですね。

──あと、台湾映画では『逃出立法院』がもう楽しみで仕方なくて(笑)。

これはもう、ミルクマンさん絶対に好きな映画です。

──このワン・イーファンって監督、去年の『伏魔殿』がワケ分かんないんだけど圧倒的にパワフルで。僕のなかでは断トツで去年の最優秀短編賞なんですよ。

ホントすごいですよね。あれも去年見つけられたのは、自分でも快挙中の快挙だと思ってます。

──あのテンションのまま長編を作ったらどうなるんだろう、それをやってのけたら大したもんだ、って観た後から言いまくってましたけど(笑)。

いやぁ、あのテンションのまま作ってるんですよ、この長編(笑)。立法院というのは向こうの国会のことなんで、国会から逃げ出す話なんですね。

──しかもゾンビ映画?

一応ゾンビものとして作っているんですけど、これは完全にコロナ時代を予見したような映画で。感染テーマでもあるんですね。これはミルクマンさんなら2回見てもいいくらいです。

──台湾系では奥原浩史の『ホテル・アイリス』もありますね。僕の大好きな小川洋子が原作。

ちょっと変わったパターンで、日本人の監督が撮った台湾映画。日本との合作という形にはなってますが、ほとんど金門島で撮っていて永瀬正敏とか菜葉菜とか出てる。今年は台湾映画の括りがちょっと面白いんです。

新しい枠組みが提示できる年だなと。あとで話しますが中国の監督も撮ってれば、こうして日本人監督も撮ってるっていう。一方で黄(ホアン)インイクって台湾人監督が西表島で撮った映画『緑の牢獄』もある。

──前もこの監督やりませんでした?

うん、OAFF2017で『海の彼方』をやりました。彼は台湾人なんですけれども多分沖縄にずっと住んでいて、あの辺のエリアの歴史とか、台湾との関係とかに関心が強い人なんだろうけど、今回もそう。

西表島にいるおばあさんが主人公で、この人は台湾人。むかし西表島の炭鉱が栄えていた頃に炭鉱労働者たちと共に台湾から渡ってきた人なんですけど、そういう人がいることも日本のほとんどの人は知らないと思うし。

だからいろんな意味で、これまでの台湾映画の枠組みとかイメージからちょっと外れたというか、枠組みを広げるような映画ばかりが集まっていると言える気がします。

──この黄インイク監督は短編にも入ってますね。

その短編『草原の焔』は『緑の牢獄』のスピンオフみたいな感じなんです。短編だけ見ると、なんだこりゃと思っちゃうかもだけど。

だからあくまでも『緑の牢獄』を観た後に『草原の焔』は見てもらうのがいいんですけどね。『緑の牢獄』は一応ドキュメンタリーなんですけど、一部フィクションの演出が混じるんですよ。そのフィクション部分を拡大したのが『草原の焔』になるんです。

斉藤「日本で紹介されるトルコ映画はほとんど芸術系。でも本国では娯楽作が主流」──今回はあまりOAFFでお見掛けしない国の作品がけっこうありますよね。

国籍の幅広さというのも今回の特徴といえます。それが一番現れてるのが今回のコンペ部門で、珍しいところでは、自分でもまさかと思ったんですがエクアドル映画がありますね。

エクアドルは南米だから、なぜ入ってるんだという人もいるかと思うんですけれど。

──『空(くう)』ですね。なんでも中国人の話なんでしょ?

エクアドルって太平洋側に面しているんで、中国から貨物船で密航できるんです。もっぱら中国から移民してきた人たちのコミュニティで話が展開するので、映画の7~8割方は中国語ですね。

この映画はなんと今年のアカデミー国際長編映画賞のエクアドル代表なんですよ。ポール・ベネガスっていう監督自身は中華系ではないんですけど北京駐在経験があるみたいで、それで中国人社会と親しみがあるというか、多分中国語できるんじゃないかな?

──アメリカ大陸からは『ナディア、バタフライ』ってカナダ映画もありますね。

この映画、徹底してコロナに呪われちゃった映画で。なんせ2020年に東京オリンピックが開かれたという大前提があっての話なんですよ、これ。

──うわあ、かわいそう(笑)。

2020年にカナダ代表の水泳選手が東京で過ごす、オリンピック大会とかプライベートな生活とかを描いているんですよ。撮影自体は2019年頃に東京で撮ったと思うんですけど、実際2020年を迎えたら東京オリンピック開かれなかったので、まずいきなり現実感を失っちゃって(笑)。

──それだけ聞くと珍品の匂いがしますね。

それでもこの映画、快挙なことに2020年の『カンヌ映画祭』に選ばれたんです。でも、これはこれでカンヌもコロナで中止になっちゃって、結局日の目を見るチャンスを失っちゃったという。

コロナにやられっぱなしの映画なんですけど、だから選んだってわけじゃない。監督は水泳選手出身らしいんですけど、すごく映画の文法を知り尽くしていて、東京オリンピックネタということを別にしても素晴らしい作品ですね。

──アメリカ映画として『あなたを私のものにする』も入ってますね。藤谷文子も出てるっていう。

『ホワイト・オン・ライス』(OAFF2010上映)や『マンフロムリノ』(OAFF2015上映)の監督のデイヴ・ボイルがプロデューサーなんです。

監督のリン・チェンはずっとアメリカで女優として活躍してる人で、監督をやりたいって志向もずっとあったみたいで、これが監督デビュー作なんです。

これは2020年の『サウス・バイ・サウス・ウエスト(SXSW)』に入選して華々しくワールドプレミアを飾るはずだったんですけど、そのあとコロナでダウンして劇場上映はされなかったと思うんですよ。

──イスラエル映画もありますけど、OAFFでは初めてじゃないですか? ロマンティック・コメディだそうですね。

『ハネムード』ですね。これはイスラエルでも大ヒットしました。タリア・ラヴィって女性監督ですが、まだこれが2作目かな? 前作『Zero Motivation』も国際的には話題になってます。

で、この映画は、何に例えればいいんだろう??・・・自分としても、日本に紹介されているイスラエル映画と全然違うイメージで。

──でも最近ちょっとイスラエル映画のイメージは変わってきましたね。映画祭で上映されるのは相変わらず似たり寄ったりなんだけど、劇場公開されるイスラエル映画が段々増えてきて、内容も幅が拡がってきてますね。

この映画も娯楽性充分で、ぜんぜん商業公開もイケる作りなんですよ。

あと『ジェミル・ショー』。OAFFではトルコ映画も初めてじゃないかな? 昔のトルコ映画をリメイクするみたいなプロジェクトが映画のなかであって、そのオーディションを俳優志望の主人公が受けに行くという話なんです。

昔のトルコ映画は僕もよく知らないけれども、これを見ていると相当おもしろそうなんですけどね。

──トルコ映画もまた、日本で紹介されるのはほとんど芸術系ばかりですが。本国では娯楽作が主流で、連続ドラマの海外輸出はアメリカに次いで第2位って話もありますし。

これはつい最近開催された『ロッテルダム映画祭』でワールドプレミアされましたね。ネタは完全に娯楽映画ネタなんだけれども、ロッテルダム的な尖った作品でもある。映画についての映画ですね。ミルクマンさんはのめりこむんじゃないかと思うんですけど。

イラン映画の『キラー・スパイダー』も注目ですよ。イラン映画って、映画祭に来るのはパターン化してて大体同じような感じですけど、これ、全然違うんです。多分、アメリカの昔のノワール映画とかが好きな監督だと思うんですよ。昔のハリウッド映画を見てるような作りですね。

──アフマディネジャド政権になってから矮小化してしまったイラン映画界ですが、ようやく変わってきたんですかね? 2019年の『東京国際映画祭』でやって劇場公開もされた『ジャスト6.5 闘いの証』なんか高カロリーな犯罪映画でかなり興奮しましたが。

あれは割と健康的な方でしたけれど、これはもっと不健康な(笑)。ちょっと退廃的な感じがあるんですよね。こんなのがイランで作れるんだっていう。

──イスラーム革命前の映画って退廃的な映画いっぱいあったのにね、イランって。

あれはもう今の政権には否定されたままですからね。

暉峻「自分が見つけたことを密かに自慢したい韓国作品」──インディペンデントを中心に、韓国映画も毎回優れた作品が集まるOAFFですが、今回はどうですか?

まず、クロージングの『アジアの天使』は石井裕也の作品なんですが、ほとんど韓国映画と言ってもいいような作りなんですよ。国籍はあくまでも日本映画なんですけれども、全編韓国ロケだし、スタッフ・キャストも95%は韓国ってくらい。

──ほお、そうなんですか。池松壮亮、オダギリジョーに加え、チェ・ヒソの名がありますね。言語はどうなんです?

言語は韓国語と英語。

──え、そうなんですか! チェ・ヒソは『金子文子と朴烈』(OAFF2018で上映、その後劇場公開)の日本語が完璧だったもんで。

僕もてっきり日本語が出来るから起用されているのかと思ったら、そうじゃないですね。ミルクマンさんなんかは、韓国映画っていうとソウル・オリンピックの頃、イ・チャンホとかペ・チャンホの時代から知ってますよね?

──もちろん。観まくりましたから。

この映画の画面の作りって、あの時代の韓国映画を見ているような感じなんですよ。現代の日本映画を見ていることを忘れるような。それは多分意図的だと思うんですね。

「石井裕也と韓国」っていう意外なフック、プラスOAFFにとってはチェ・ヒソがヒロインをやっているという点でもクロージングでやるのにハマリがいい映画だったんで。これがワールドプレミアできるというのはすごく幸運でしたね。

──コンペティション部門にも韓国映画は2本ありますね。

まず『君をこえて』、これすごく変な映画ですから楽しみにしてくださいね。それと『生まれてよかった』が入っていて、あと、特別注視部門の方に『三姉妹』というのがあります。

ムン・ソリが三姉妹の一人を演じてるし、かつプロデュースにも加わっているという、かなり気合いが入った映画で。韓国映画はコンペにしろ他部門にしろ、全然ロードショウでは入ってこないタイプの作品になってますね。

去年の『チャンシルさんには福が多いね』なんかもあの時点ではまさかロードショウされるとは思わなかったんですけど、今回もそうなってくれればいいなと思っているんですけどね。

──あと短編王国韓国ですからそっちも見逃せない。

今回は『イニョンのカムコーダー』が入ってますが、ほかの人にはちょっと見つけられなかっただろうというような、自分が見つけたことを密かに自慢したい作品(笑)。

これもLGBT系の映画で女性同士の同性愛を扱っているんですけど。光州のフィルム・コミッションが制作をバックアップしていて、それで僕は知ったんですね。監督もまだ学生らしいし知られてない人ですけど、ちょっとピックアップしておこうという。

──どこの映画祭も多かれ少なかれそうなんですけど、とりわけOAFFはずいぶん早くからLGBT系の映画をピックアップしてますよね。特にここ数年、シスターフッド映画の大傑作がずらずら並んで壮観です。まあ、暉峻さんの趣味かな、とも思うんですけど(笑)。

趣味とかじゃないですけど・・・まあ、そうかな(笑)。だったら今年は『姉姉妹妹』っていう、タイトルを見ただけでシスターフッドものだと判るものなんですけど。

一応ベトナムで封切られてるんですけど、かなり危険な題材で、危険な描き方をしていて。ベトナムってかなり検閲が厳しいと聞いているんですけれども、よく公開できたなぁと。

一方でこれはレズビアンもの兼ちょっとスリラーっぽいジャンル映画になっている。要するに監督があまりアート系に押し込めようとしてないんですね。ちゃんと商業映画という形のなかで自分の作家性を打ち出そうとしてるのが明らかに分かるんです。

──さきほど台湾映画を話してるときに、わざとスルーした2作品『人として生まれる』と『愛・殺』もそれっぽいですね。

『人として生まれる』は2020年にやった『メタモルフォシス』にちょっと近いですね。半陰陽的なものを扱った、あれの台湾版みたいな感じで。

男として生まれてきたんだけれども何故か生理が来て気がつくみたいな。更に心理的にも女としての方が居心地がいい、みたいな主人公なんですよ。

──かなりヒネってますね。

この監督リリー・ニーってのは新人なんですけど、これまた変わり種で。台湾映画の新しいパターンだと思うんですけど、この人はなんと中国人なんですよ、台湾人や香港人が出稼ぎで中国映画界で撮るというのは今までもよくありましたけど、これは逆パターンなんです。

このネタを彼女は映画化したくて、最初は中国での制作の道を探してたんですけど、検閲があるから脚本の段階でまず通らない。で、諦めてたところに台湾の会社から「台湾でならこれを作れる」という話が来て、台湾映画界でデビューすることになったという。これは世界初上映なんで期待してもらうといいですね。

──もう一本の『愛・殺』のゼロ・チョウという監督、聞き覚えははあるんですけど。

元々こういう方面の映画を作るので有名な女性監督ですね。だいぶ昔からレズビアンであることをカミングアウトしていて。日本でも公開された『Tattoo-刺青-』(2007)や『花様 たゆたう想い』(2012)にはそこそこスターも出ています。

個人的に言うと、これまでのゼロ・チョウはそれほど評価してなかったんですけど、今回はひとつレベルアップしたというか。自分でもあまり期待しないで見始めたんですけれども、こんなのも作れるんだという驚きがありましたね。

『タリン・ブラックナイト映画祭』という最近頭角を現してきてる映画祭があるんですが、そこでも上映された作品ですね。

──ベトナム映画に戻りますと、『走れロム』がありますね。

ここ1~2年のベトナム映画界で最大の話題作と言っていいくらいの作品ですね。2019年の釜山映画祭の『ニューカレンツ』っていう、若手監督を対象にしたコンペ部門でグランプリを獲って一挙に名を轟かしたんですけれど、実はベトナムの検閲を通さずに釜山に出しちゃっていたんですよ(笑)。

韓国から監督が凱旋帰国したら、賞金をもらったばかりなのにそこで罰金を食らって全部持っていかれて、その後ベトナムで公開しようとしてもなかなか公開できなくて。

ついに2020年、検閲対策して内容を少し変えたもので公開したら何故かこれがバカヒットしたんですね。だから今、国内でも海外でもすごい名声を築いた形になっているという。

──ベトナム映画って数年前から、なんかやたら垢抜けてきたというか。とりわけOAFFで上映された『サイゴン・クチュール』(OAFF2018で上映、後に劇場公開)や『ハイ・フォン:ママは元ギャング』(OAFF2019で上映、後にNetflixに)などが顕著ですが。

あぁ、そうですね。でもこれは今までOAFFで紹介していたようなタイプの垢抜け方とはちょっと違って、むしろわざと垢抜けないようにしてるっていう感もありますね。

ベトナムでは『エジソンの卒業』も必見の短編です。かなり片田舎の村が舞台なんですけど、そこの村の人たちは頭からみんな木が生えているという設定で(笑)、通常思いつけないようなネタで構想されていて、素晴らしいですね、これは。

暉峻「今年の特徴は、コロナの時代を受けて作られた作品」──そろそろ日本映画の話もしたいと思うんですが、ミャンマーの難民家族を扱った『僕の帰る場所』(OAFF2018で上映、後に劇場公開)の藤元明緒監督の新作『海辺の彼女たち』は訪日ベトナム人女性の物語みたいですね。

これ、素晴らしいですね。最近話題になってる、いつの間にか不法労働者になっちゃうような3人のベトナム人女性を描いているんですけど、どう見ても本物の不法労働者に見えるんですね。

でも実際はこの人たちって、別のインタビューとかの映像で見ると普通に華やかなベトナム上流階級っぽい、育ちが良さそうな人たちで。それをこれだけ日本で泥まみれにして労働者っぽく見せる、その監督の演出力も凄いなと思いましたね。

──そういう意味では前作の『僕の帰る場所』の、行定勲監督曰く「是枝裕和超え」の素人演出力にも通じますね。

本当に藤元監督の演出力はただ者じゃないですね。常連さんでは『シネマ・ドリフター』ことリム・カーワイ監督の『カム・アンド・ゴー』もあります。自らがドリフターとして大阪の街に滞在し、またドリフターとして海外各地を放浪してきたリム・カーワイだけが作れる作品ですね。

演出力が光るという点で言えば、今泉力哉監督の『街の上で』も必見。東京の下北沢の一角を舞台に、各俳優と街そのものの宿す空気感だけで、2時間超の物語を一瞬も退屈する暇なく語りきります。

──面白いのは今年、中村祐太郎監督作が2本もあるんですよね。『岬の兄妹』などで俳優としては多少認知されたと思いますが、なんたって監督としての彼がいちばん面白い。

しかも今回、1本は監督自身からの応募で、1本はプロデューサーからの応募っていうのがね。本人からは『新しい風』の方が。これはあまり商業映画的な展開は考えずに作っていると思うので、とにかく今やりたいことを描くんだという。

一応配給の名前も入ってますけどOAFFで見逃すと当分見れないだろうと思います。で、もう1本の『スウィートビターキャンディ』の方はプロデューサーからの応募で、こっちはもうちょっとちゃんと劇場でロードショウすることを考えながら作ってる。

──小川あんが出てるんですね。

どっちの映画にも小川あんが出ていて、今年ちょっと小川あんイヤーなんですよ。この2本プラス、今年オンライン座っていうのを始めるんですけれど、そっちで配信する『レイのために』(OAFF2020上映)も小川あんなので、彼女の作品が3本も揃っているんですよ。なかなか彼女はいい役者ですねぇ。

──ブレイク間近な感じがしますよね。そういえば去年、いまおかしんじ監督が本来のフィールド以外のところでブレイクしたじゃないですか。『れいこいるか』(OAFF2020上映、後に劇場公開)で。

今年もいまおか監督は『にじいろトリップ』という新作のワールドプレミアを出してくれて。去年のあれとは全然違うんですよ。子ども映画的なノリがあるんです。子どもと大人の中間くらいの人が主人公なんだけど、いまおか監督はこういうのも作れるんだ、と新しい側面を感じますね。

──去年は『れいこいるか』と『アルプススタンドのはしの方』がOAFF上映後にスマッシュヒットして、知る人ぞ知る存在に近かったいまおか監督と城定秀夫監督が一気にその才能を知られちゃった。

今年も日本映画は幅広く集まりましたね。突然亡くなった佐々部清監督の遺作『大綱引の恋』は、単に遺作だからという理由で入っているのではなくて、日本映画の監督としては結構韓国と関係のある映画を撮ってきたじゃないですか。

──『チルソクの夏』(2003)でしたね。

とかね。日本と韓国の繋がりの中のスケールで物事を見るということもやってきた人で、この遺作もそうなんですよ。韓国で活躍していた知英がヒロインなんです。そういう点でもOAFFにふさわしいなと。

日本映画はそういうベテラン監督の映画もあるし、もう一方でほとんど知られてない新世代の映画もあるし。中村真夕の『4人のあいだで』もかなりの傑作です。

──ほお、これも新人監督の短編作品ですよね。

コロナの第一次緊急事態宣言が明けた直後くらいに作ってる映画で、あのときの空気感というんですかね、そういうのがすごく良く捉えられてて。

あ、そうそう、今回のOAFFの特徴として言えるのが、初めてコロナの時代に作られたとか、コロナの時代を受けてそのあと作られた作品がいくつか入り込んでるんですね。

そのひとつが『4人のあいだで』で、もう1本『守望』っていう中国映画の短編があります。でも現在、まだ製作真っ最中で、本当に上映に間に合うのかって長編があるんですよ。

──そりゃむちゃくちゃアクチュアルですね(笑)。

フィリピンの『こことよそ』って作品ですけど、完全にコロナ禍を踏まえて作られた映画なんです。フィリピンは日本よりはるかに厳しいロックダウンを敷いていて、例えば日用品や食料品を買いに行くのですら週に2回しか家から出ちゃいけないとか、すごい厳しい規制なんですね。

そうは言っても完全に映画業界も止まっているわけにいかないんで、一応政府側で撮影のガイドラインみたいなのが作られて。そんな厳しいガイドラインを遵守して作られた、もしかしたら第1号かもしれないという意味でも貴重な映画なんですね。

さすがにいろんな規制があるんで、そうそう人が大勢集まれないとか、かなり撮影は苦しげな感じもするんですけど、そうしたところも含めて今の時代の貴重な証言になってる映画です。

──制作のTBAスタジオは去年『愛について書く』がABCテレビ賞を撮って、関西ではTV放映もされた作品の制作会社ですよね。

そう、あの会社の新作なんですよ。その点でもちょっと期待してる人は多いんじゃないかなと思うんですけどね。昔からの老舗のメジャー・スタジオではなくて、新しいインディペンデント系の会社なんですよ。

そうなんだけど、すごく商業的に成功していて、新興インディーズ映画会社のなかでは最大成功者じゃないですかね。フィリピンの長編はもう1本、『金継ぎ』というのがありますけど、タイトルからも判るとおり日本ネタで日本が舞台。

あと短編の『エクスキューズミー、ミス、ミス、ミス』がすごくおもしろい。作られたのが2019年で、この2021年の映画祭に入れていいかどうか迷ったんですが、あまりにも出来映えが素晴らしいので。

──シンガポールからは『チョンバル・ソシアル・クラブ』というのがありますが、スチール見てもヘンですよね (笑)。

これも超お薦めの映画ですが、ちょっと何と例えればいいのか分からないんですけれど。新世代の監督ですけれども、超映画狂であることがあらゆる場面で分かります。

シンガポールは短編の『朝は遠いところで』もあります。これをワールドプレミアできるとは思っていなかったんですけど、すごい才能ですよ。最初の1ショット2ショットでこの監督はすごい、って判る。

そして、OAFFは新作のラインアップとしては劇場に全力を注ぐというのにブレはないんですけど、前に映画祭で上映した何本かを「大阪アジアン オンライン座」を初めてやろうと。今回台湾の初公開クラシック作品が2本入っているんですよね。

──これがまたメチャクチャ面白そうなんですよね。映画祭終了後、2日間限定で視聴できるという。

1本は『チマキ売り』という、いわゆる「台湾語映画」ってジャンルのやつで、その世界ではそこそこ映画史的名作と言われている作品なんですけれどね。

──台湾語映画はOAFF2014でも小特集が組まれましたが、あれもプログラム・ピクチャー的なB級感あふれていたので今回も楽しみですね。

で、もう1本は『関公VSエイリアン』(笑)。

──もうすでにTwitterではちょっとバズってますよ(笑)。いわゆる秘宝系とかで。

円谷プロのファンとかね。この映画って台湾映画史に詳しい人でもほとんど知らなかった作品で、何故か香港のパン・ホーチョン監督がこれを見つけて、これはすごいっていうので権利を買い取ってデジタル修復して今回披露するみたいな。

──あははは、パン・ホーチョンらしい!

一応デジタルリマスター版海外初上映ですけど、デジタルリマスターしても画面が全然綺麗になってないっていうね(笑)。あまりの原盤の痛みの激しさに。でも下手に完璧にリマスターしてしまうと魅力が失われると思うんで、それはそれでお楽しみに、というところです。

「梅田ブルク7」「ABCホール」「シネ・リーブル梅田」の3会場ほかにて3月5日~14日まで開催。一般1300円、青春22切符(22歳まで)当日券500円。「大阪アジアン・オンライン座」は2月28日から3月20日まで、作品により料金は異なり、500円~。

(Lmaga.jp)

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