【大阪現地ルポ】地下アイドルに迫る、就職という名の岐路

「アイドルはなぜ地下で夢を見るのか」をテーマに、大阪を拠点とする地下アイドルについて不定期で特集しているこの連載。第5弾となる今回は、アイドルの就職活動について取材をおこなった。

前回記事では、旅館女将と介護を職としていることを公言するユニットしたが、多くの地下アイドルは彼女らと同じように、何らかの職業とアイドルの二足のわらじをはいている。また、毎年3月になるとアイドル卒業を発表する女の子が増えるが、これは地下アイドルをやっている学生が就職を機に「仕事一本」を選択することが多いからだ。

関西にも今、就職について頭を悩ませながら活動しているアイドルがいる。「煩悩多き衆生(ファン)とともに修行する」をコンセプトに、お寺文化を全国に広めるために奮闘する浄土系アイドル「てら*ぱるむす」の文殊たまだ。

7月下旬にはNHK大阪放送の番組内で特集が組まれ、「体が勝手に南無阿弥陀仏」という発言がSNSで話題を集めた「てら*ぱるむす」。グループとして軌道に乗り始めているが、一方で文殊は今後の身の振り方をずっと考えているという。アイドルか、それとも就職か・・・。進路の岐路に立たされている文殊に話を聞いた。

取材・文/田辺ユウキ

「アイドルを辞めて還俗になっても後悔はない」(文殊)

──文殊さんが今、就職活動中だという噂を耳にしたのですが、現在の活動状況について聞かせてください。

その前にお伝えしたいことがあります。私たちは阿弥陀様の使命を受けて、人間界へやって来て、アイドルという文化を通してお寺や仏教の魅力を説いています。よく「コンセプトとして」と称されるのですが、そうではありません。私が悩んでいる就職活動についても、阿弥陀様の教えのもと、人間界のことをもっと知りたくなり、就職という概念が生まれました。

──な、なるほど。

そういう出自ですので、特定の好きなアイドルさんはおらず、そもそも地下アイドルという存在すら知りませんでした。しかしステージに立ってみるととても楽しく、次回の修行(ライブ)をどうするか、メンバーと話しあう瞬間はワクワクします。一方で、さまざまな職業にも興味を持ち始め、もっと人間の世界について知りたくなり、就職活動というものを意識するようになりました。

──具体的にはどういう職業に興味を持っていますか?

カメラマンです。お浄土からこの世界へやって来たとき、まず写真の勉強をしたんです。他人とコミュニケーションをとるのが苦手でしたが、カメラを通すと人と目を合わせられるし、他人と関わり合える。現在は、アイドルの写真撮影のご依頼をもらうことも増えてきました。

──ということは、写真に関する会社を中心に就職活動をしているのですね?

そうです。娑婆(しゃば=人間の住む世界)のお友だちは内定が決まり始めてきたので、焦り出しています。この春から就職活動をやり始めました。4月には説明会へ行きましたし、関東の撮影スタジオへの見学予定もあります。実際に、ほかのスタジオの就職説明会や筆記試験も受けました。

──横浜ということは、関東の会社に就職希望なのですね。

はい。関東でカメラマンの仕事に挑戦してみたい。人間界でアイドル活動をしてみて、アイドル文化に興味を持ったので、ゆくゆくは彼女たちを追いかけて、撮りたい。

「いずれ両立は厳しくなりそう」(文殊)

──もし関東で就職となると、関西でのアイドル活動はそこで終了になるんですか。

葛藤しています。正直な気持ちといたしまして、アイドル活動は続けたいのですが、しかし写真の仕事への憧れが強い。やりたいことをちゃんとやりたいんです。もし、関東での就職が叶ってアイドルを辞めて還俗(出家した者が再び俗人に戻ること)になっても、後悔はない。もちろん、アイドルを続けるという選択をしても然りで。

──確かにすごく悩みどころではありますよね。関西でカメラマンの仕事に就くことができれば、そのままアイドル活動を続けるのかとか。そもそも、カメラマンの夢が叶わなかったらどうなるのか、とか。

必ず、選択しなければいけない日が来ます。結果的にアイドルを続けることになっても、それは決して妥協であるとか、挫折した上での逃げではないことは理解していただきたいです。関東では距離的に「てら*ぱるむす」の活動は不可能になってきますが、関西ならまだそれは可能ですので。あと、私は阿弥陀様の司令のもとで活動をしているので、「てら*ぱるむす」以外でのアイドル活動は成立しません。

──でも、アイドルは決して就職先ではないということですよね。

私はそう思っちゃいます。もちろん仕事と言い切る人もいますし、私自身も仕事意識は持って活動しています。しかし、「アイドルは就職先であるか」と問われたら、それは違うと考えます。カメラマンとアイドル、どちらかひとつを・・・となれば、将来的なことや現実を考えると、優先するものは絞られてきます。

──「てら*ぱるむす」のメンバー間でもそういう話はしますか?

全員、お浄土からやって来ているので、人間界で暮らす限りどうやって生きていくか、それぞれ思うところはあるでしょうし、グループ内で話もします。人間界で必要なことは、食べる、寝ることなどの衣食住。人間として生きるなら、それをどうするべきか。アイドルって可愛くなるために努力するし、お金もかけなくてはいけない。ライブなどに行くための交通費もかかります。みなさんが思っている以上に大変。仕事をしていても、活動費でどんどん消えていく。

──でも会社によっては、そういった活動を怪訝に思うところもありますよね。

面談のときに、言ってしまうかもしれません。「アイドルをやっている」と。アイドルへの偏見を持つ人も必ずいますし、カメラマンの仕事は時間もキツキツになるし、いずれ両立は厳しくなりそうですね。どちらかをやるなら、どちらかができなくなる。それを、今の段階から意識しておかなければいけない。

──リミットは確実に近づいて来ていますよね。もし、この数カ月で、「てら*ぱるむす」が爆発的に売れたらどうですか。

難しいですが、それでも仕事(カメラマン)を取るかもしれません。でも先日、とある関西の地下アイドルを対象とした人気投票イベントにエントリーをして、中間発表でベスト10に入りながら、結果的に圏外となって悔しい思いをしたんです。私は、ファンの方がお金を落とさなければいけないコンテストが本当に嫌いでした。だからこそ、やるからには負けたくなかった。でも負けたということは、お寺や仏教のことをちゃんと広められなかったということ。そのとき、もっとアイドルを続けたいと一瞬思えたんです。こんなところで終わりたくないって。

──多くのアイドルは、そういう悩みに結論を出して、人生を歩んでいくのですね。

両立している方はたくさんいますが、私はいつかはっきり答えを出すつもりです。その結論が、私が歩むべき道です。

(Lmaga.jp)

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