間に合わない!発車直前の電車のドアに傘を挟み込み→開かず緊急停止…刑事罰や損害賠償の対象に?【弁護士が解説】
仕事帰りのAさんは、電車のホームを大慌てで走っていた。あと1分で自分が乗りたい電車が発車してしまい、これを逃したら30分以上も帰宅が遅れてしまう。そんななか、無情にも発車を告げるチャイムがホームに鳴り響き、お目当ての電車のドアが閉じ始めた。
そこでAさんは、閉まりかけた電車のドアに「これでドアが開くはず!」と右手に持っていた日傘を車内に向かって突き出し、ドアはその日傘を挟み込んだ。これによってAさんは、この後ドアが開いて電車に乗り込めると思っていた。
しかし、その予想に反してドアは開くことがなく、電車はホームを離れる直前に緊急停止。その後、電車は数分間の遅延が発生し、車内やホームにいる多くの人からAさんは一斉に冷ややかな視線を浴びる羽目となった。
よく聞く噂で「電車のドアに物を挟んで遅延させると、莫大な賠償金を請求される」というものがあるが、Aさんのケースでは実際に法的責任や損害賠償が発生するのだろうか。まこと法律事務所の北村真一さんに話を聞いた。
ー電車のドアに故意に傘を挟んで遅延させた場合、どのような罪に問われますか?
電車の運行を意図的に妨害する行為は、決して単なるマナー違反やいたずらでは済まされず、刑事罰の対象になります。
具体的には、刑法上の「偽計業務妨害罪」や「威力業務妨害罪」に該当する可能性があります。閉まりかけたドアに物を挟み込んで無理やり列車を止め、正常な運行業務を妨げる行為は、これらに該当し、3年以下の懲役(拘禁刑)または50万円以下の罰金が科せられる場合があります。
ー実際の賠償金の相場はどのくらいですか?
「数分遅らせただけで数千万円」という噂は、一般的なケースにおいてはやや誇張されていると考えられます。
実際に数千万円や数億円といった巨額の賠償金が請求されるのは、踏切での衝突事故や大規模な脱線、あるいはラッシュ時に主要幹線や新幹線を何時間もストップさせてしまったような大事故に限られます。
日傘が挟まったことによる数分程度の遅延であり、車両やドアの破損も生じていないケースでは、鉄道会社側が実務上の手間を考慮して、個人に対して民事上の損害賠償請求をおこなわないことも少なくありません。
ー賠償金は、遅延した「時間」や「影響が出た乗客数」で計算されるのでしょうか?
遅延損害金は「1秒あたりいくら」というように一律で機械的に計算されるわけではありません。法律上、請求されるのは実際に発生した「実損額」に限られます。
列車が遅れたことで他社へ支払うことになった「振替輸送費」、特急料金などの「払い戻し費用」、事故対応やダイヤ復旧のために稼働した職員の「人件費」、そしてドアや車両が傷ついた場合の「修理費」などが合算されます。
そのため、乗客数が多い朝の通勤ラッシュ時間帯や、複数の路線が乗り入れるターミナル駅で遅延を引き起こした場合は実損額が跳ね上がり、数百万円規模の請求に発展することはあり得ます。
ー「うっかり挟まってしまった」という場合でも、損害賠償を支払う必要はありますか?
たとえ「うっかり」であっても、法的な賠償責任から免れることはできません。
民法第709条に基づく損害賠償責任は、わざと行った「故意」だけでなく、不注意による「過失」であっても成立します。「ドアが閉まりかけているのに、差し込めば開くだろう」と考えて傘を突き出す行為は、客観的に見てトラブルを予見できたはずであり、重大な過失とみなされます。
故意でなかったとしても、それによって鉄道会社に具体的な実損が発生すれば、その損害を賠償する義務を負うことになります。
●北村真一(きたむら・しんいち) 弁護士
大阪府茨木市出身の人気ゆるふわ弁護士。「きたべん」の愛称で親しまれており、恋愛問題からM&Aまで幅広く相談対応が可能。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)
