入社直前でまさかの辞退!「他社に決めました」はアリ? 企業の“本音”と円満辞退の作法【専門家が解説】
数ヶ月にわたる転職活動の末、B社から念願の内定を得た男性。ようやく出た内定に安堵し、内定承諾書を提出します。しかしその一週間後、第一志望だったC社からも採用の連絡が届いてしまうのだった。無理だろうと諦めていたものの届いた採用の連絡に驚きを隠せない男性は、熟慮の末「C社へ行きたい」という結論を出す。ただし今から内定辞退するとB社には多大な迷惑をかけることは想像に難くない。
内定辞退は法的に認められた「権利」である一方、企業との「約束」を反故にする行為でもある。このジレンマに求職者はどのように向き合うべきか、キャリアカウンセラーの七野綾音さんに話を聞いた。
ー複数の内定を保持し、比較検討すること自体は問題ないのでしょうか?
就職・転職活動において、複数企業から内定を得て比較検討することは、まったく問題ありません。むしろ、自分に最も合う企業を選ぶために、納得いくまで検討することは自然なプロセスです。
ただし、一社に内定承諾書を提出するということは、その企業への入社の意思表示なので、入社日を始期とする「労働契約」が成立します。そのため、この段階からの辞退には、より慎重な判断と対応が求められます。
ー内定承諾書を提出した後の辞退にペナルティはありますか?
法律上は、民法627条により入社予定日の14日前までであれば辞退の自由が認められています。また、理論上は企業が損害賠償を請求することも可能ですが、現実にはほとんど行われていません。
とはいえ、「法律で守られているから問題ない」と安易に考えるのは危険です。内定承諾後の辞退は、信頼関係の破綻として受け止められる可能性が高く、人としての誠実さが問われる場面でもあります。
企業は承諾を受けた時点で採用活動を終了し、新人研修の準備や備品の発注などに動き出していることもあります。そのような状況で一方的に辞退すれば、当然ながら「裏切られた」という感情を持たれてしまうでしょう。
ー企業の人事担当者は、内定辞退の連絡をどのように受け止めるのでしょうか?
人事担当者も、内定辞退が起こりうることは理解しています。しかし、一人の採用には数百万円単位のコストと数か月の時間をかけています。候補者を絞り、他の応募者を断った後での辞退は、担当者にとって大きな痛手です。
特に連絡が遅れれば遅れるほど、企業の損失は増え、担当者の心証も悪化します。
辞退自体よりも、「辞退の伝え方」や「誠意の有無」が強く印象に残るのです。
ー内定承諾後の辞退の意思は、いつまでに、どのように伝えるのが望ましいですか?
辞退を決めたら、一日でも早く伝えることが最大の誠意です。方法としてはメールだけで済ませず、必ず「電話」で直接話すことをおすすめします。場合によっては直接訪問して伝えるのが望ましいケースもあります。その際は、辞退せざるを得ない理由、選考や対応への感謝、迷惑をかけることへの謝罪等を、自分の言葉で誠実に伝えましょう。
内定承諾後の辞退は勇気のいる行動ですが、伝え方ひとつで印象は大きく変わります。
「目先の気まずさから逃げる」のではなく、一人の社会人として誠実に向き合うことが、長いキャリアを考えたときに自分を守ることにもつながります。
内定辞退は、誰にとっても心苦しく、勇気のいる決断です。ただし、伝え方一つで、相手の受け取り方も、そしてあなた自身の未来も、きっと変わってきます。目先の気まずさから逃げずに、一人の大人として誠実に向き合うことをおすすめします。
◆七野綾音(しちのあやね)キャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント
やりがいを実感しながら自分らしく働く大人を増やして、「大人って楽しそう!働くのって面白そう!」と子ども達が思える社会を目指すキャリアカウンセラー/キャリアコンサルタント。
(よろず~ニュース特約ライター・夢書房)
