「続・ボラット-」 コメディがアカデミー賞にノミネートされた理由 伊藤さとりが解説

 ◆ベースにあるのは平和と平等

 多様性を重視する米アカデミー賞だからこそ重厚なテーマの作品が選ばれがちですが、『続・ボラット 栄光ナル国家だったカザフスタンのためのアメリカ貢ぎ物計画』は、カザフスタン再建の為にトランプ大統領の元へ訪れ、娘を貢ぎ物として進呈するために再びアメリカにやってきたボラッドから見た社会をシニカル描き、娘を演じたマリア・バカローヴァが助演女優賞、脚色賞にノミネート。『ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~』は、アイスランドから欧州放送連合(EBU)加盟放送局を持つ国々から選ばれたミュージシャンが競い合う伝統的なコンテストに参加しようと奮闘する男女の恋愛模様も描いた音楽映画であり、クライマックスで歌われる「Husavik」が歌曲賞にノミネート、と、どちらも下ネタありのコメディです。

 作品賞ではなくとも、アカデミー賞で評価された理由を考えるとある共通点が見えてきます。『続・ボラッド』は、マリア・バカローヴァの演技はもちろんですが、政治と女性軽視について描いた作品であり、『ユーロビジョン歌合戦』は、第二次世界大戦後の復興を願って、EBU加盟国が一体となり、“エンターテイメントで世界を明るく照らそう”と始めた国際的で平和的なコンテストが題材なのです。

 ◆エンターテイメントは世界共通言語

 『ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~』は、冒頭から中年であるウィル・フェレルがコスチュームを身に纏い、ロマンティックコメディ女優として知られるレイチェル・マクアダムスとアイスランドらしい光景である火山の大地で歌っているシーンからスタート。その時点で、いい歳をして未だに夢を追いかけ、007のジェームズ・ボンド俳優ピアース・ブロスナン扮するイケメンの父親に認められたい一心であることも見えてきます。アイスランドと言えば、「エルフ(妖精)の存在を信じる国」とも言われ、エルフの祟りと言われる出来事が次々と起こるなど、随所にブラックジョークを鏤めながら、ユーロビション・ソング・コンテストの特徴を描いていきます。

 学ぶべき点は、その得点の入れ方。大会はEBU加盟国の公共放送などで生中継され、参加した各国の代表が歌い終わった後、自国以外の参加曲に各国の放送局が票を入れる規定となっているということ。いわゆる他国を認め、応援するという仕組みで成り立っているからこそ一体感が生まれ、“平和的”なのです。

 それはコンテスト以外の映画作りにも反映され、エンドロールとなる酒場のシーンでは、出演者の出身国の国旗を名前の横に表示する一手間からも見受けられます。「様々な国の人が集まって、笑いと感動を世界に届けている」とまるで伝えているかのように。

 アカデミー賞歌曲賞は、1960年代後半のアメリカで黒人解放運動を行った政治組織「ブラックパンサー党」の指導者フレッド・ハンプトン暗殺までを描いた『Judas and the Black Messiah原題)』から“兄弟のための自由、他人からの自由の為、あなたの為に戦う”と歌い上げる「Fight for You 」がメッセージ性の強さも評価され受賞。とはいえ『ユーロビジョン歌合戦 ~ファイア・サーガ物語~』の映画自体も気持ちを上げてくれる笑いと愛が詰まっているのでコロナ禍の今におすすめの映画。笑いは心の特効薬でもあるから。

(映画コメンテイター・伊藤さとり)

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