若手映画監督の登竜門「ndjc」

 NPO法人映像産業振興機構(VIPO)では2006年から、文化庁の委託事業として「若手映画作家育成プロジェクト(ndjc)」を行っている。

 今年も、実地研修に挑んだ5人の監督による30分の短編映画が完成。3月14日から東京・角川シネマ新宿、3月16日からは大阪のシネ・リーブル梅田で期間限定公開される。未来の日本映画界を担うであろう新鋭を青田買いするだけでなく、私たちの税金がどのように使用されているのかを確認する絶好の機会である。

 「ndjc」は、次世代を担う若手の発掘と育成、そして日本映画界の活性を目指してスタートした。映画関連団体から推薦を受けた映像作家に応募資格があり、14年は過去最多となる70人の応募者があったという。その中から書類選考などで選んだ15人がワークショップに参加。そこからさらに5人が最終課題である製作実地研修に挑むシステムだ。

 過去には、映画「チチを撮りに」(13年)がベルリン国際映画祭ジェネレーション部門に選出された中野量太監督や、新作「トイレのピエタ」が6月6日に公開される松永大司監督が参加しており、この場をきっかけに世界へ羽ばたいている。

 今回は、「ニューシネマワークショップ」出身の飯塚俊光、美容師→バンドマン→日本映画学校という異色の経歴を持つ加瀬聡、劇団ハラホロシャングリラ出身の草苅勲、長編自主映画「東京の光」(年内公開)をクラウドファウンディングの支援を得て完成させたばかりの羽生敏博、そして関ジャニ∞のMVや大橋トリオのCMで活躍している吉野耕平の5人。それぞれ若手とはいえ、すでに人生経験豊富な面々だけだって、見応えのある作品ばかりだ。

 例えば羽生監督の「good-bye」は、ネットカフェで暮らす母娘の日常を静かに見つめた人間ドラマだ。ニュースで知った実話をもとに脚本をしたためたそうだが、父親の家庭内暴力、シングルマザーの生きづらさなど30分の中で今の日本を端的に映し出し、彼女たちを通して社会を見せた。NHK朝の連続テレビ小説「あまちゃん」で観光協会職員・栗原しおりなど、いつもエキセントリックな役の多い女優・安藤玉恵が普通のお母さんを演じているのも新鮮だった。

 吉野監督「エンドローラーズ」は、5作品の中で唯一、アニメーションを使用するなど映像表現でも工夫を見せていた。筆者は、釜山国際映画祭の短編部門でスペシャルメンション(次点)となった「日曜大工のすすめ」(11年)を観て以来の吉野ファンだったのだが、期待を裏切らない完成度の高さ。物語は、葬儀社に転職したばかりの中本(三浦貴大)が、いきなり葬儀を取り仕切ることになり、喪主(でんでん)の無茶難題に振り回されるコメディ。得体の知れない狂気を放つでんでんの活かし方、笑いのセンス。そして、制作費は皆同じ1500万円なのだが、そうとは思えぬスケール感の大きさも感じられた。

 いずれこの5作品は、国際映画祭などに出品されるが、何より先日行われた上映会には映画関係者が多数訪れており、早くもお目当ての監督にアプローチしていた様子。なかなか若手監督が短編から長編へとステップアップできない昨今、本プロジェクトが橋渡し役となりそうだ。

 ただし、課題もある。

 本プロジェクトの目的の一つに、一流のスタッフと俳優を用意し、若手監督にプロの現場を経験させることにある。今では貴重となった35ミリフィルムでの撮影も体験できる。だが上映機材がデジタルに移行している昨今、果たしてその金額をかけて、フィルムにこだわる意義はあるのか?という疑問だ。

 実際、今年は編集を、フィルムかデジタルかを選択する方法をとったが、結局5人ともデジタル編集を選んだという。個人的には、短編はもう誰でも作れる時代となったので、同じ予算をかけるのであれば、デジタルカメラを用いて長編を作る方が良い経験になるし、作品の出来栄えいかんでは、そのまま劇場公開への道も開けると思うのだが。

 本プロジェクトも今年で区切りの10年を迎える。スーパーバイザーを務める日本アカデミー賞協会事務局長の富山省吾氏は、今年は現行の方式のまま実施する予定だという。今回の一般公開は作品の内容に関して観客の生の声を聞くという若手たちの貴重な経験の場ではあるが、このプロジェクトの内容についても一般の人が意見を言えるような場になって欲しいと思うのだ。くどいようだけど、ウチらの税金を使っているんだしね。意見ぐらい言わせてもらわんと。(中山治美)

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