文字サイズ

中村雀右衛門

雀右衛門演じる『夕霧名残の正月』の扇屋夕霧、『与話情浮名横櫛 源氏店』のお富、『鳥辺山心中』のお染(撮影:篠山紀信)
2枚

 歌舞伎の女方の大名跡、五代目中村雀右衛門の襲名披露が3月の東京・歌舞伎座から始まっている。上品な若女方で時代物の赤姫や、町娘の可憐さには定評があり、襲名披露公演では亡父の四代目雀右衛門の当り役を勤めている。

大阪では、大阪松竹座「七月大歌舞伎」(7月3日~27日)で襲名披露が行われる。大阪の披露狂言は、昼の部では『夕霧名残の正月』を坂田藤十郎の藤屋伊左衛門で扇屋夕霧、『与話情浮名横櫛』を片岡仁左衛門の伊豆屋与三郎でお富、夜の部では『鳥辺山心中』を片岡仁左衛門の菊池半九郎で遊女お染を演じる。

また、公演に先がけて6月29日には、浪花の夏の風物詩ともなる“船乗り込み”が行われる。

 ◇  ◇

 1月に東京の浅草にて襲名のお練りを行い、3月に歌舞伎座で襲名披露を行わせていただき、いよいよ大阪での襲名披露興行を来月行わせていただきます。

 芝雀の名前は50年以上名のってまいりましたし、本名よりも呼ばれた回数は多かった。そこから雀右衛門の名前を襲名したわけですが、自分自身の実感としては、お練りの頃から、芝雀の名前と並行して徐々に新しい名前になってきて、歌舞伎座の顔寄せを経て初日を迎えたことで名実ともに「雀右衛門」になった気がします。とはいえ街で「芝雀さ~ん」と呼び掛けられると、「はい!」と返事をしてしまいますが(笑)。

 先代は父であるよりも、師匠というほうがしっくりときます。普段は穏やかなのですが、稽古は厳しかった。日常でも師匠に対する言葉遣いで接しておりましたし、いわゆる親子ゲンカはなかったですね。本当にお芝居が好きで好きで…始終稽古をしていて、好きなことを仕事にして、いつも一生懸命な父でした。

 父の前名は大谷友右衛門。父が出征しているときに、先代の友右衛門が巡業先で鳥取地震にあい、亡くなってしまった。そこで父が復員後、七代目を襲名いたしました。友右衛門の名前自体が止め名(※1)です。しかし戦前、父が仲良くさせていただいていた三代目雀右衛門さんのお子さんの中村景章さん(五代目中村芝雀を追贈)が戦地で亡くなっており、お母様(三代目雀右衛門未亡人)からお話をいただき、父が位牌養子となり雀右衛門を襲名した経緯がございます(※2)。

 ですからもともと雀右衛門は上方発祥の名前なんですよ。それに実は私、大阪生まれなんです。父の芝居に、8カ月の身重だった母がついてきていた時に早産しまして、保育器に3カ月ほど入っておりました。今回の襲名を機に、これからは上方縁の演目も演じていけたらと思っております。

 よく若々しいと言っていただけますが、父も最後まで老け役は殆どなく、姫を演じておりました。私も芝雀として最後の芝居も『梶原平三誉石切』の梢でした。雀右衛門という名前になっても、娘や姫を演じることが多いと思います。襲名ということで女方の大役である三姫のうち時姫と雪姫も演じさせていただきました。父は姫もそうでしたが、道成寺ものも非常に大切にしてきましたから、それらをなぞって、なぞって一歩でも近づければと思っています。

 最近「先代に似てきたね」と言っていただくことがあるのですが、自分にとっては最高の褒め言葉ですね。もちろん父とは考え方や性質、体型も違うので、最終的には私自身の芸になると思います。でもそうなるには、まずは父に近付くことが第一歩と考えています。

 写真を撮るのが最近の趣味なんです。前の歌舞伎座を写真で残したいな、と思ったのがきっかけです。そこで気付いたのが、客観的な自分の見え方ですね。例えば、父に教わったときに違和感というか、自分でしっくりこない部分がありました。でもその形を写真で見ると、自分のイメージとは違っていた。父が教えてくれていたのは、よりよく見える姿なんだと気付きました。

 襲名興行は1年以上続き、忙しい毎日ですが家では2匹の愛犬「ちゅら」と「くくる」に癒されています。大好きな沖縄の言葉で「清らか」「心」という意味です。ブリュッセル・グリフォンという犬種で、「スターウォーズ」のチューバッカのモデルにもなったそうです。「ちゅら」の方はたまたまペットショップで目が合って、誕生日をふとみると僕と同じ11月20日。これは我が家に連れ帰るしかない、と。飼い始めて3年と少し経ちましたが、日々の疲れも癒されています。

※1 一門の名前の最高位。それ以降、隠居名以外への襲名はない

※2 江戸歌舞伎の大谷友右衛門(明石屋)と上方歌舞伎の中村雀右衛門(京屋)は、姻戚関係や子弟関係といった接点がまったくない系統の違う家系。友右衛門の雀右衛門襲名は、三代目雀右衛門未亡人の再三に渡る懇願で、戦死した故人の無念を親友が次ぐという形での異色の養子縁組となった

 ◇ ◇

中村雀右衛門(なかむら・じゃくえもん)1955年11月20日生まれ。京屋。61年2月、歌舞伎座『一口剣』村の子明石で大谷廣松を名のり初舞台。64年9月、歌舞伎座『妹背山婦女庭訓』おひろで七代目中村芝雀を襲名。2016年3月、歌舞伎座『鎌倉三代記』時姫と『祗園祭礼信仰記』の雪姫で五代目中村雀右衛門を襲名

。父は四代目中村雀右衛門、母は七代目松本幸四郎の娘である晃子。実兄は主に立役をつとめる八代目大谷友右衛門(明石屋)。

関連ニュース

    デイリーペディア

      編集者のオススメ記事

      歌舞伎最新ニュース

      もっとみる

      主要ニュース

      ランキング(芸能)

      話題の写真ランキング

      デイリーおすすめアイテム

      写真

      リアルタイムランキング

      注目トピックス