宇野航監督が沼ったフグの世界 会社を辞め私財を投じ、苦節10年執念の映画化「GUN FISH」公開中
執念のフグ映画が世に放たれた。宇野航監督(45)が10年以上にわたってフグの世界を追いかけ、会社を辞め、私財を投じてまとめあげたドキュメンタリー「GUN FISH あなたの知らないフグの世界」が公開中だ。猛毒を持ち、輸入すら禁止されている国もある怪魚に魅せられた理由とは何だったのか-。宇野監督に完成までの軌跡を聞いた。
映画では知っているようで知らないフグの情報が乱打されていく。猛毒を持つことから厳しい免許制度があるが、国家資格ではないので一部地域に限られる。海外では食べる日本人がクレイジーだと思われている。天皇陛下はフグを食べない。
とにかくフグ、フグ、フグ…で、どんな偏屈な監督なのかと警戒していたが、宇野氏は毒気のない温和な人物だった。もともとフグが好きだったのかと率直に聞くと、「知識ゼロからのスタートでした」との回答。では、なぜ映画に?
「2015年に友人とドキュメンタリーの企画合宿をやって、大小のネタを約100個出し合ったんです。その中でダントツ面白かったのがフグ。検索していったら、どんどん面白いネタが出てきて『映画にできる!』みたいな感じでした」
きっかけとなったのは、友人が出した「曽祖父がフグに当たって、生きたまま竹藪に埋められたらしい」という民間療法のネタ。こいつはトンチキだとフグを調べていくうちに面白エピソードが集まり、16年1月に当時勤めていた映像制作会社に企画書を提出した。
準備を進めて17年から撮影を開始。築地の除毒所で「東京都ふぐ調理師試験」に向けた練習を積む若き料理人、フグ毒の研究者、「全国ふぐ連盟」の幹部、仲買業の目利き…一筋縄ではいかない人物たちのフグ人生に迫っていった。
フグ界の闇に触れることはなかったのか-。
「自分も闇があると思って、取材を始めたんです。免許制度があるってことは利権もあるんじゃないかとか。でも、全然そういうのがなくて…」
ちょっと申し訳なさそうにしつつ、声を潜めて続けた。
「多分、一番のタブーは大分県臼杵市でこっそりフグ肝を食べているけど、黙認している話ですかね。タブーなんですけど、取材をしていると関係者のみなさんが『いや、大分ではね』みたいに教えてくれるんです。秘伝の毒抜きがあるとか」
劇中にも潜入取材の様子が出てくるが、それって言っちゃって大丈夫なんですか?
「そこはもうデイリーさんなんで、今日はノーガードでしゃべるって決めてました!」
いや、ありがたいですけど!
取材を続けるうちに、映像データは5TBに到達。会社勤務ではまとめきれないと、22年に独立した。自身で1000万円以上相当のお金と時間を投じ、クラウドファンディングも募って完成にこぎ着けた。
撮影当時について、「すごい貧乏だったんですよ。もう本当にギリギリで食べるものを月何円にしたらいいんだとか、切り詰めの日々でした」と回想。ライフワークともなっていただけに「本当に燃えつきみたいな感じではあります」と苦笑した。魅惑のフグワールドをご賞味あれ。毒に当たっても自己責任でお願いします。
◇宇野航(うの・わたる)1979年12月30日生まれ。岐阜県出身。映画美学校フィクションコース第5期修了。映像編集会社などを経て、2014年に映像制作会社・カラーバード入社。映画の企画・制作業務に従事し、本作を完成させるため、22年に独立。取材の過程で「大阪府ふぐ取扱登録者」の資格も取得した。
