１９６６年に静岡県の一家４人が殺害された事件で死刑が確定した袴田巌さん（８７）の再審開始を認めた東京高裁決定に関し、東京高検は２０日午後、最高裁への特別抗告を断念したと発表した。袴田さんは事件から半世紀以上を経て、静岡地裁での再審公判で無罪を言い渡される公算が大きくなった。戦後の死刑事件で再審開始の判断が確定したのは５例目。過去４例は再審公判を経て８３～８９年に無罪となった。

　東京高検の山元裕史次席検事は「承服しがたい点があるものの、特別抗告の申し立て理由があるとの判断に至らなかった」とのコメントを発表した。

　高裁は１３日の決定で弁護側主張を全面的に認め、確定判決が「犯行着衣」と認定した衣類５点の証拠を捜査機関側が捏（ねつ）造した可能性が極めて高いと指摘していた。検察側は当初、特別抗告する方向で準備を進めたが、特別抗告の要件に当たる憲法違反や判例違反を見いだせなかった。

　弁護団長の西嶋勝彦弁護士は「再審公判で無実を明らかにしたい」と話した。弁護団の記者会見にオンラインで参加した袴田さんの姉ひで子さん（９０）は「これで安心」と話し、袴田さんに「安心しな、再審開始になったよ」と伝えたという。