【専門家の目】小林麻央さん 驚くべき精神力、周囲が支えた“奇跡”の闘病

 乳がんがステージ4であることを公表し、闘病中だったフリーアナウンサー・小林麻央さんが22日、亡くなった。夫の市川海老蔵が「(16年)夏は絶対無理だと思った。今、奇跡が起こってる」と明かしていたように、専門医の間では、公表時点で半年持たないのでは、との見解が大勢だった。「甲南回生 松本クリニック」(兵庫県芦屋市)の松本浩彦院長は、麻央さんの驚くべき精神力、周囲の支え、励ましが“奇跡”につながったのではないか、と話す。

◇ ◇

 小林麻央さんの訃報が届きました。ご冥福をお祈りいたします。16年6月に公表されて以来、私も何度かコメントさせていただきましたが、今だから申しますと、意図的に事実とかけ離れたコメントも述べてきました。乳がんのことを少しでも知っている医者ならみんな分かっていた事です。テレビで解説している専門の先生方も、奥歯に物の挟まったような、何とも言いづらそうな解説をされていました。

 その理由は医者から見て、あの時点で早ければ3カ月、遅くとも年は越せないだろうというのが常識的な見解だったからです。乳がんは珍しい病気ではありませんが、その全体のおよそ3パーセントに「若年性乳がん」という特殊な乳がんがあります。また全体のおよそ1割ほどですが「トリプル・ネガティブ(TN)」という、非常に悪性度が高く、予後の悪いタイプがあり、若年性乳がんの方は特に高頻度でこのTN型が多いのです。

 若いから油断もあるのでしょうが、発見された時にはすでに進行がんで、周囲の臓器に浸潤していたり他の臓器に転移しており、手術不能である場合がほとんどです。

 抗がん剤で腫瘍を小さくしてから手術するなら術前化学療法は長くて半年。ところが公表された時点ですでに1年8カ月続けていたというのは長過ぎますし、そしてまだ手術にいたっていませんでした。この点から考えて小林さんの場合、TN乳がんである可能性が非常に高かったのです。

 そうなりますと、もはや対症療法しか打つ手はなくなります。治療ではなく延命措置の段階とすれば、最悪の事態も想定に入れなくてはならず、専門家として冷静に推測することも、コメントすることもはばかられました。それくらいの一大事であろうと容易に想像できましたから。

 副作用の強い抗がん剤に耐え、さまざまな民間療法も、研究段階の治療も受けられたと思います。おそらく何カ所かの医療機関を訪ねて、考えられるあらゆる治療法にトライされたはずです。調子の良い時もあったと思いますが、長い目で見ていれば日ごとに悪化していく病状は、患者さん自身が一番よく分かります。

 公表された時点で、おそらくもうどうにもならない状態、年が越せるかどうか、という状況だったと思いますので、よくここまで頑張られたなという気持ちが一番です。

 ご本人の精神力に加えて、応援し励まし続けたご家族、そしておそらく、何とかしようと必死に治療を続けた何人かのドクターにも、私など関係ないと言われたらそうなんですけど、心から敬意を表したいと思います。そして麻央さんには、どうぞ安らかにお眠りくださいと。

 ◆松本浩彦(まつもと・ひろひこ) 兵庫県芦屋市・松本クリニック院長。内科・外科をはじめ「ホーム・ドクター」家庭の総合医を実践している。同志社大学客員教授、(社)日本臍帯・胎盤研究会会長。

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