2週前には試合のグリーン上で昏倒も…2度の手術乗り越えた”令和のベン・ホーガン”植竹希望が来季前半戦の出場権を獲得
「女子ゴルフ・QTファイナル・最終日」(5日、宍戸ヒルズCC東C=パー72)
ツアー1勝の植竹希望(27)=サーフビバレッジ=が、国内女子ツアーの来季第1回リランキングまでの出場権を確保した。QT最終ステージの最終ラウンドを4バーディー、1ボギーの69でまわり、通算7アンダー13位に。第1回リランキングまでの全試合に出場できる目安となる「同35位前後」に入った。
18番パー4。1メートルのパーパットが左ふちからカップに転がり込むと、植竹は、胸のあたりに手をやって安堵(あんど)のため息をついた。すぐに表情を引き締め、速足で同伴競技者とのあいさつを済ませる。
「キャディをしてくれた武田正輝さんにずっと『緊張して吐きそう』と言いながら4日間戦っていました。本当は1位を目指していたんですが…でもこれで、試合にあまり出られない間も応援してくださった皆さんに久々にいい報告ができるので、本当によかったと思います」
「美しすぎるスイング」の持ち主が、苦難続きの2シーズンを乗り越えてついに国内女子ツアーに帰ってくる。黄金世代の一角は、アマチュア時代の14歳からレギュラーツアーで優勝争いを演じ、「東の代表格」と呼ばれ注目された。2022年にはKKT杯バンテリンレディスでツアー初優勝し、さらなる活躍が期待されていた。
だが、右股関節の損傷が悪化してプレーがままならなくなり、2024年4月にはついに手術に踏み切った。そのシーズンの終盤には実戦復帰も果たしたが、2025年の1月にはトレーニング合宿中に右手首を骨折。再度の手術と長期離脱を余儀なくされてしまった。
リハビリ明けの9月には、「住友生命レディス東海クラシック」で2年ぶりとなる予選通過を果たし、18位に入った。だが、苦難はまだ続いた。11月の下部ツアー・京都レディースオープン最終ラウンドでは、強いめまいに襲われ続けスコアを崩した。終盤、マーク後にボールを拾おうと頭を下げた際にさらにめまいがひどくなり、そのまま試合中のグリーン上に昏倒(こんとう)してしまった。
たまたまギャラリーの中に医師がいたため、応急処置を受けて試合に復帰できたが、診断の結果はメニエール病。レギュラーツアーへの本格復帰を目指すQTの第1ステージが翌週に迫る中、再び絶望的な状況に陥ったかにみえた。
だが本人は前向きだった。
「実は中学時代からそういう症状はあって、病院で診察を受けていた時期もあったんです。しばらく(症状が)出ていなかったのですが…ちゃんと病院で診察を受けていれば、QTは大丈夫だと思います。むしろ、QT本番でいきなり倒れてしまうようなことがなくてよかったです」
QT第1ステージではややショットが乱れたが、その中で気づきもあった。
「しっかりクラブが振れるようになってきたので、2度の手術後につくったクラブが少しアンダースペック(プレーヤーのスイングスピードに対し、クラブが軽すぎたり、シャフトが柔らかすぎたりすること)であることに気づきました」
今季終盤は、ショットの乱れにナーバスになることもあった。でもそれは自分のスイングが悪いわけではなく、むしろ良くなっているからこそだったのだ。気持ちがスッと楽になった。QT最終ステージを迎えるに当たって、思い切って優勝した当時のハードスペックなアイアンセットに戻してみた。
すると直前の練習ラウンドで、18ホールで9個ものバーディーが来た。「偶然ではないんじゃないかなと。ケガも治ったし、この大事な試合の直前に病気の心配も消えて、クラブも整った。これならいけると思います」。開幕直前の表情にも、久々に自信がみなぎっていた。
その言葉通り、QT最終ステージでは初日前半に単独首位に立つなど、順調なラウンドを重ねていった。第2日には最終ホールで、周囲の関係者の雑談の声にさえぎられ、パーパットを仕切りなおすなど難しい場面もあった。各選手がいつも以上に慎重にプレーする中で、進行の遅れも続いていたが、本業がメンタルトレーナーの武田正輝キャディがうまくケアしてくれた。
「待ち時間が長くなると、いろいろと考えすぎてメンタル的によくない状態になることもあるんですが、武田さんが『最後の晩餐、食べるとすれば何?』みたいなゴルフに関係ない話題をずっと振ってくれて、メンタル的にずっといい状態でやれたと思います。実はQTで成功したことがなかったので、支えてもらえて本当に助かりました」
本格的にレギュラーツアーに出場し始めた2020-2021シーズンも、QTランクは48位だった。普通なら多くの試合に出場できないところだが、コロナ禍で海外勢が来日しなかったことで出場試合数が増えて、初のシード権を獲得していた。手術などによるブランクと同様に、QTでの成功体験がないのも不安材料ではあったが、最高のサポート役を得て乗り切った。
ツアー戦出場が少なかった今年の6月には、U-NEXTの欧州男子ツアー・イタリアンオープンの配信で、メイン解説を務めた。女子の現役選手が、男子の世界的なツアーで解説を務めるのは、きわめて異例だった。配信開始こそ緊張が隠せなかったが、落ち着くにつれ豊富な知識やスイング理論を生かした解説を展開し、関係者をうならせた。
「いつもと違う視点からゴルフをみることができて、すごく勉強になりました」。苦しい2年間だったが、その中でもかけがえのない経験を重ね、新しいチャレンジもしてきた。植竹がスケールアップした姿で、レギュラーツアーに帰ってくる。




