テクニック、技術がしっかり上がってきている桐生選手 日本選手権男子100メートル 朝原宣治さんの分析
「陸上・日本選手権」(5日、国立競技場)
男子100メートル決勝は桐生祥秀(日本生命)が10秒23で制し、5年ぶり3度目の優勝を果たした。2位は大上直起(青森県庁)、3位は関口裕太(早大)。2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリストの朝原宣治さんがレースを分析した。
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桐生選手は非常に冷静に走った。前に出られたり、並ばれたりすると硬くなったりするものの、スタートダッシュが得意な隣のレーンの木梨選手よりもスタートが決まった。うまく加速していて、中盤までに勝負を決めた。
最近の走りの良さが、本番の一番大事なところでできた。桐生選手はスタートで脚を回すタイプだった。かかとを引きつけるタイプで、はね上げて走るタイプなので、はやりのすり足走法とはちょっと違った形でやっていた。
それを改善して、日本選手権はスタートの脚の返り、けった脚の戻しが非常に直線的になっていた。その辺りは、若いときの躍動感こそないものの、テクニック、技術がしっかり上がってきている。それが中盤以降の減速しない走りにつながっている。
年齢を重ねてくると、前半でエネルギーを出し過ぎれば後半に落ちてしまう。ただ、それを補うように技術を向上させることで、しっかりとスピードが落ちないようにしているのが特徴だ。
5年ぶりに勝つのは精神的にも大変なこと。そのときの体の力などを維持できるわけではなく、5つ歳を重ねるということ。若手も頭角を現してきて、自信も失われていく中で、もう一回、決勝で勝ち抜くことはすごく難しい。桐生選手はそれをやり遂げた。
100メートルは予選、準決勝、決勝と3回走り、決勝ではどうしても争わなくてはならない。ポイントは、いかに決勝で戦う力を残しているかと、もう一つは、ラウンドを踏んでいって、自分が勝てる、いけると有利に考えられるかだ。スタートラインに立ったときに、自分が勝てるという自信の下で走ることが大事になる。
今回、多くの学生が決勝に進出したことは、彼らにとってはいい経験。そうではないと活性化しない。ただ、柳田選手みたいに抜けている学生がいないのは、これからの課題。桐生選手が9秒台で走ったときは、飛び抜けた存在の学生だった。あれぐらいの選手が出てきてほしいという期待感はある。
全体的に記録はあまりよくなかった。日本国内の争いという意味では、すごく白熱していて、みんながせめぎ合っている状況はいいことだ。ただ、東京世界選手権で日本勢が決勝にいけるかとなると、今日のレースでは見えない。そういう意味では、今年10秒0台で走っていた柳田選手と、サニブラウン選手が昨年自己ベストを出したレベルで日本選手権の決勝が行われると、さらに面白くなると感じている。(2008年北京五輪男子400メートルリレー銀メダリスト、「NOBY T&F CLUB」主宰)