亡き寺尾さんを慕って 柔道で全米優勝の今田、五輪&宇宙ロケット製造の夢から一転角界入り「やっと第一ステップを踏めた」
春場所(3月9日初日、エディオンアリーナ大阪)の新弟子運動能力検査が12日、東京・両国国技館で行われ、元幕内安芸乃州の長男、今田光星(24)=音羽山=が通過した。3月1日に大阪市内で行われる新弟子検査を経て角界入りを果たす。
身長173センチ、体重119キロの今田は異色の経歴を持つ。
小3から柔道を始め、小5の全国少年柔道大会で3位に入り、安田学園中3年時には全国中学校体育大会で団体日本一になった。安田学園高を経て「日本の大学では柔道しかできない。勉強もスポーツも大切にしたかった」と米国に進学。語学学校を経て、ネバダ州立大学で宇宙工学を学んだ。
米国でも柔道競技を続け、学生選手権で優勝。2022年のUSオープンでは100キロ級で優勝し、代表入りを打診されたが「国籍変更が必要だったので」と辞退。米国代表として五輪出場に意欲を持つ時期もあったという。
そんな今田が「経験は全くない」という相撲に視線を向けた契機は、23年12月に元関脇寺尾の先代錣山親方(本名・福薗好文さん)が60歳で死去したことだった。
父は井筒部屋で寺尾の弟弟子にあたり、付け人も務めた。今田が誕生した際、「光星」の名付け親は寺尾だった。米国に進学する際は「お前がまわしをつけている姿を見たかったけどな」と声をかけられた。
「第2の父のような存在」と慕っていた先代親方の葬儀に参列して以降、その言葉が頭から離れず「ずっと心残りで半年間迷った。やらない後悔よりやった方がいい」と、昨年7月に大相撲挑戦を決意した。
寺尾とともに父と親交が深く、幼い頃から世話になった元関脇逆鉾の元井筒親方(本名福薗好昭さん、2019年死去)の弟子だった音羽山親方(元横綱鶴竜)と父に決意を伝え、異例の挑戦が決まった。
帰国して音羽山に入門して程なく、昨年の9月11日で24歳の誕生日を迎えた。協会の新弟子検査の年齢制限は23歳未満だったが、昨年9月に実績保有者を対象に25歳未満に緩和され、未経験者でも新弟子運動能力検査を受けられることになった。制度の変更が追い風になった。
この日は新弟子検査を担当する審判部の高田川親方(元関脇安芸乃島)、藤島親方(元大関武双山)、九重親方(元大関千代大海)らが見守る中、背筋力160キロ、握力右64キロ、同左70キロ、反復横跳び26回、ハンドボール投げ32メートル、上体起こし26回、立ち幅跳び2メートル20、50メートル走7秒6をマーク。基準を通過した。
ネバダ州立大学では物理を学び「宇宙ロケットを製造する仕事につきたかった」とも話した今田。大学4年生は休学中で「相撲で花開かなかったら、そちらも考えている」と宇宙への夢も抱いている。
現在はぶつかりなど基礎に取り組む今田。運動能力検査をパスし「やっと第一ステップを踏めたかな」とうなずいた。宇宙工学を学んだ経験から「物理学は相撲にも役に立つ。力点、支点、作用点とか」とも語った。夢は大関だといい、同部屋の幕内霧島、40歳の玉鷲を憧れの力士に挙げた。




