【五輪コラム】25秒余り、日本アルペンの夢消える 小山陽平は1回目に途中棄権

 アルペンスキー男子回転 ヨハネス・シュトロルツの1回目=16日、延慶(共同)
 アルペンスキー男子回転1回目、片足旗門不通過の反則で途中棄権となった小山陽平。右足が旗門の内側を通っている=16日、延慶(ロイター=共同)
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 スタートバーから飛び出して、25秒余りで小山陽平とアルペンスキー日本勢の五輪は終わった。男子回転。28番スタートの小山は1回目、中盤のポイントだったヘアピンの入り口で旗門に脚をかけ、途中棄権に追い込まれた。アルペン男子たった1人の日本代表、小山にとって開幕から10日余りたって訪れた五輪デビューの舞台だった。

 不振が続く日本アルペンは、今季のワールドカップ(W杯)回転第2戦(マドンナディカンピリオ=イタリア)で8位に食い込んだ小山に上位進出の夢を託していた。

 ▽攻めた小山

 回転競技は英語で「スラローム」だが、時に「スペシャルスラローム」とも呼ばれる。戦後誕生した大回転(ジャイアントスラローム)と区別するためだが、「スペシャル(特別)な」回転技術が問われる点は古今変わらない。アルプスの高い山から麓の街への速さを競ったダウンヒルが勇気を、山麓の樹林地帯を誰が巧みに擦り抜けるかを競ったスラロームが技術力を試す競技に深化した。

 五輪の舞台は「アイスリバー(氷の川)」と名付けられた標高差211メートルの、文字通り氷のバーン。回転は、攻めなければ好成績は望めない。ただ、攻め過ぎるとミスにつながる。守ればスキーは横を向いてブレーキになり、「速く」と力めばエッジングが強くなり過ぎて、雪の抵抗を受けて「ガタガタ」と揺れる。技術と気持ちの調和。滑らかに縦にスキーのサイドカーブを切り込ませるテクニックが問われた。

 小山は、悪くなかった。1人で日本を背負うのは精神的にきついはずだ。しかし守りに入らなかった。「攻めなければ何も始まらない」の意気込み通り、23歳のスラローマーは緩斜面を縦に攻めた。

 ミスしたポイントを抜ければ、抜群の速さを誇る急斜面が待っているはずだった。W杯の好成績は、マドンナの急斜面を誰より速く攻略したスキー技術がもたらしたものだ。惜しかったが、これが小山の現在地でもある。W杯では8位以外の試合でトップ20にさえ入ったことがない。世界における自分の地位が自信の裏付けになるのだから、次の2026年コルティナダンペッツォ五輪へ向け、W杯で地歩を固める月日が必要になるだろう。

  ▽民間の力

 06年トリノ大会の皆川賢太郎は、1回目の3位から2回目で4位に落ちた。2回目に「オール・オア・ナッシング」と激しくアタックしなかったスキーを尋ねると、こんなふうに理由を語っていた。「僕が目指すのは8割のスキー。W杯で力の8割で滑って安定的に上位にいることが、五輪のメダルに結びつくと思う」。小山に必要なのはW杯で上位を重ねる経験である。

 一方で国内の競技環境は厳しい。不況が業界を襲い、全日本スキー連盟(SAJ)の強化費も潤沢ではないようだ。国内の軟らかな雪ではなく、欧州の硬い雪での経験が必要な競技で、アルペンは「金食い虫」である。そこで支援の動きに声を上げたのが、日本で初めてW杯の表彰台に立った岡部哲也だった。クラウドファンディングを立ち上げ、スポーツ専門テレビ局なども関わって、SAJを通して若手の遠征経費を補っている。

 21年7月末まで9年間で1700万円余りだったそうだ。驚くほどの金額ではないが、民間の力が五輪選手育成につながるなら、新しい潮流だ。小山だけでなく、今回女子種目に出場した安藤麻にも使われたはず、と岡部は語った。

 ▽日本のジュニアと練習

 金メダルはクレマン・ノエル(フランス)が1回目の6位から逆転で手に入れた。2回目は素晴らしくシャープにスキーを走らせた。力んで強く抵抗を受ける滑りだった他のメダル候補に大差をつけた。

 うれしいのはヨハネス・シュトロルツ(オーストリア)の銀メダル獲得である。今大会はアルペン複合で金メダルを手にし、1988年カルガリー大会を制した父、フーベルトに続く親子2代の同一種目制覇の偉業を達成していた。かつて母国のレジェンド、カール・シュランツが「アルペン複合? あんな種目、大事じゃない」と鼻の先で笑っていたことを筆者は覚えているだけに、伝統種目・回転でのメダル獲得の喜びはひとしおだろう。

 しかも、不振で昨年は代表チームを追われ、トレーニングの場確保さえままならなかった。欧州遠征中の日本のジュニアチームに入れてもらって一緒に練習したという苦労人だ。今季の回転第3戦(アーデルボーデン=スイス)でシード外から優勝をさらい、五輪チームに加えられた29歳。大逆転のスキー人生に、一緒にトレーニングした日本の若手も拍手を送っているに違いない。(共同通信・小沢剛)

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