【東京五輪 祭りのあと】緊急事態宣言下の開催 急拡大した感染に五輪免罪符論
新型コロナウイルス禍で1年延期となった東京五輪が8日に閉幕した。大会中止を求める声が根強くある中で、世界各国・地域のアスリートたちが死力を尽くし、関係者がさまざまな思いを抱えながら支えた19日間。デイリースポーツの五輪取材班が「祭りのあと」と題し、大会全般の課題と収穫などを多角的に検証する。第1回は、緊急事態宣言下で行われた祭典の功罪について論じた。
◇ ◇
大会を総括する2人のトップの表情は、対照的だった。閉幕2日前の6日に会見を行ったIOCのバッハ会長は、上機嫌に宣言した。「日本国民は大会を支援し、受け入れてくれた。10人のうち9人が五輪の一部をみていた。大成功だといえる。日本の皆さん、IOC、全世界のスポーツ界にとって成功だ」。7日の女子マラソン視察に向け「札幌を心待ちにしている」と笑い、会場を後にした。
一方で7日に会見した橋本聖子会長は「コロナで分断された世の中で、アスリートのパフォーマンスが多くの人々の希望になったと確信している」と強調したが、大会は成功したか?の問いに歯切れが悪かった。「パラリンピックが終わってから答えたい」とした上で、「100%成功かと言われればそうではない」と、慎重に言葉を選んだ。日本と“縁”が切れるIOCと、パラリンピックとその後の事後処理が残る組織委。立場の違いが浮き彫りとなった。
東京都内の感染者数は、緊急事態宣言の効果はまるでみられず、大会中に激増した。開幕日の7月23日金曜日の感染者数は1359人。それが1週間後の30日には3300人となり、さらに1週間後の8月6日には4515人に。開幕日の3倍以上の数字を示した。病床もじわりじわりとひっ迫してきた。感染力の強いデルタ株の影響とみられる一方で、政府分科会の尾身茂会長が「五輪が人々の意識に影響した」と発言したように、五輪開催による自粛や感染対策の意識の緩みを指摘する声も多い。
こうした“五輪免罪符”論について、大会側が火消しに躍起だ。菅首相は「五輪が感染拡大につながっているという考え方はしていない」と否定し、小池都知事も「五輪によってステイホーム率が上がっている」と、強調。2人の為政者の発言を借りる形で、組織委の武藤事務総長は「私としては菅首相、小池知事と同じ考えだ」と、述べた。
確かに因果関係を示す記録はない。ただ、説得力は欠く。少なくない数の海外関係者がプレーブック(規則集)を違反し、処分を受けた。また、大会会場周辺では無観客にも関わらず、多くの人が詰めかける場面も散見された。開閉会式の国立競技場周辺やマラソン、競歩、自転車ロードなど沿道を通過する競技ではあちこちで密集が出現。国民生活に大きな制限が掛かっている中、大会が与えた印象は決してプラスではなかった。
17日間の夢舞台は終わり、目の前には現実だけが残る。日々増えていく数字が、不安を掻き立てていく。