組織委・森会長、五輪中止は考えず「神にも祈るような気持ち」…開催まであと1年

 新型コロナウイルスの影響により、来夏に延期された東京五輪の開幕まで、23日で1年。東京五輪・パラリンピック組織委員会の森喜朗会長(83)、日本オリンピック委員会(JOC)の山下泰裕会長(63)がデイリースポーツのインタビューに応じた。競技日程と会場が発表され、着々と準備が進められる一方で、コロナ対策や大会運営の簡素化など取り組むべき課題も多い中、史上初めて延期となった東京大会への思い、複雑な思いを抱える選手たちへの思いをそれぞれに聞いた。

 -開幕まで1年を迎えた思いは。

 「淡々とこなして来年につなげていくことに尽きるのではないですか。今の時点でオリンピック、オリンピックとお祭り騒ぎをしていていいのか、ということ。国全体の状況がそうですから。コロナであらゆるスポーツが自粛ムードでやっている中『1年前だから何かやりましょう、皆さんで』と言っていたら共鳴する人はいないんじゃないですかね」

 -一番苦心していることは。

 「やはりコロナでしょうね。日本だけではないですから。世界全体が収束してくれませんと。決め手になっているワクチンも新薬も開発されていない。社会全体のためにそういったいろいろなことが進まないと安心して次の問題にかかれないんじゃないでしょうか。組織委員会は、安全で安心な大会が開けて、多くの人たちが喜んで日本に来られて、喜んで帰られる場所を作るのが仕事ですから」

 -コロナ対策で言えば、会長は6日に、国、都、有識者、組織委を交え、対策を検討する会議を9月にも立ち上げると明かした。

 「選手が日本に入ってくることについては、各国のオリンピック委員会がきちんとチェックして、これは大丈夫ですと言って入る。フリーパスにしてもいいけど、日本でもチェックして迎え入れる。それは出来るんです。一番の問題はお客さんでしょう。どう水際でチェックするのか。もし病気を持って入ってきたら日本中にまん延してしまいます。これは組織委でできる仕事ではありません。だから国、都、組織委、みんなが集まってどういうふうにしようか、相談しましょうと。出来れば9月ごろから協議をはじめて、12月ごろまでには中間的な取りまとめをして、年が明けて実施していくことになっていくのでは。今は慌てることはありません」

 -6日には、開会式の縮小、時間の短縮に関してIOC(国際オリンピック委員会)と放映権の問題があることも明らかにした。

 「一例を言っただけで、すべて今どういうことをやるにしてもIOCの了解を得てやらなきゃ出来ない。すべてがIOCと協力してやっていくことなんです。しかし、アメリカのテレビと契約しているんです。何時間という枠を全部取っている。それに対して多額な放映権が入っているんです。開会式を1時間短くします、と言ったら違約金を払えとなる」

 -開会式は華美にならないようにすると。

 「花火をどんどん打ち上げて、華やかにやるようなことは私はやりたくない。東京で五輪が出来るということは、コロナに打ち勝ったということ。科学技術が勝ったということ。人類が勝ったということです。しかし、多くの傷ついた人たちの心、気持ちも考えなくてはなりません」

 -中止や再延期を口にする人も増えている今の世論をどのようにとらえているか。

 「(東京都知事)選挙を見ていて、みんなコロナとか経済とかいろいろと言っていたけど、五輪も柱にしてやった候補者は小池(百合子)さんだけですよ。すぐやめてそのお金でコロナ対策をしたらいいと言っていた候補者がいたが、やめたら今まで出した何百億というお金が無駄になるんです。なおかつ違約金をいっぱい取られます。24年にやればいいと言っていた候補者もいたが、24年はパリ、28年はロサンゼルスに決まっています。それをどかすことが出来るのか。1年、2年延長しますって簡単なことじゃないんです。22年は北京(冬季五輪)と一緒になってしまう。スケジュール的にできないことはないが、関係者の準備やいろいろ考えたらなかなか難しい。世論調査は上下しているようですが、そのときの気分によって変わるだろうし、メディアの設問の仕方にもよります。だけど全体的に見て都知事選では『五輪はやめるべき』に対して『全体的に五輪は進めるべき』が、圧倒的に支持の方が高かった、と判断基準にしています」

 -来春が今春のような状況だった場合、延期ではなく中止になると考えているか。

 「IOCと話したこともありません。まったく考えていない。来年にやれるべきです。来年になればすべてが解決するという、神に祈るような気持ちでやっています。では1年前はどうするのか。五輪を目指してみんな努力している、ということを世界や日本に向けて、特にアスリートのみなさんに対しては『絶対に安全にやりますよ』と宣言すること。そしてコロナとか水害とか、苦労している人たちの気持ちを大事にして、理解と協力を得られるようにしていくというふうに両面を持ったイベント、1年前の7月23日を待ちます」

 -日程も会場も決まり、追加経費はどれぐらいになるのか。

 「IOCに委ねるべきか、国なのか、東京都なのかは精査していけばいいわけで、もっと先の話。今年いっぱいかかります。コロナという国際的なアクシデントのときにどこが持つのか。契約のルール通り東京都なのか。組織委なのか、IOCなのか。この議論はいつまでたっても終わりません。それより具体的なものを一つずつ精査した金を積み上げていって、それを合理的にどこが持つのか、とした方がいいのであって、初めからどこが持つ、どこが持たない、とやっていたら議論は出来ないです」

 -IOCはその辺は防御的な発言がある。

 「労使交渉を始めるとき『これぐらい残してありますから』って言いますか?『初めからありません』とやるのは当たり前ですよ。IOCだって『われわれは出す数字はない』と言うのは当然です。けど、現にIOCはそう言っていながらこの間、取りあえず何百億出します、って言ったじゃないですか。だれも頼んでいません。みな駆け引きだと思います」

 -簡素化では販売済みのチケット問題が浮上する可能性もある。

 「コンピューターでもできないです。現に売っているわけですから。例えば開会式は数万枚売っている。ソーシャルディスタンスで来年やるとなれば、仮に半分入れなくなったら、入れなかった人に金を返せばいいというものではありません。返すのは当たり前ですけど。いよいよ始めるとなったら大変です」

 -来年の7月23日はどのようになっていると想像しているか。

 「想像はまったくできないです。アクシデントがなく、淡々とした形で順調に開かれることを期待しているし、神にも祈るような気持ちです」

 ◇ ◇

 森 喜朗(もり・よしろう)1937年7月14日、石川県能美郡根上町(現能美市)出身。早大を卒業し、1969年から2012年まで衆議院議員を務めた。自民党幹事長、通産相、文相、建設相などを歴任し、2000年4月から2001年4月まで内閣総理大臣を務めた。日本ラグビー協会会長、日本体育協会会長などを務め、14年1月に東京五輪・パラリンピック組織委員会会長に就任した。

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