松本薫、演じきった野獣「柔道、好きってわけでもなかった」も、競技人生全う

 柔道女子57キロ級のロンドン五輪金メダリストの松本薫(31)=ベネシード=が7日、都内で引退会見を行った。ロンドン五輪では男女通じて唯一の金メダルを獲得し、“お家芸”の威信を守った。畳の上では闘志あふれる表情で次々と世界のライバルたちを打ち破り、“野獣”と呼ばれたヒロインだが、ある葛藤を抱えながらの日々だったことを告白した。

 それは会見で「松本選手にとって、柔道とは」と問われた時だった。「私にとっての柔道は“教育柔道”だった」と、振り返った。そして畳を下りたからこそ見えてきた、柔道家・松本薫が抱えてきたジレンマを吐露した。「(漫画の)キャプテン翼は『ボールは友達』って言って、すごくサッカーが好きじゃないですか?」と松本らしい唐突な例えから切り出すと「自分の中でその競技を好きじゃないと駄目だっていう洗脳があって。周りも柔道を好きでやっている。引退しても好きで携わっているという人が多かったので、好きじゃなきゃ駄目なんだと。“私は柔道が好き”、“私は柔道が好き”ってずっと思ってきた」。そして、今の自分の正直な気持ちを吐き出した。

 「引退した今、柔道が好きか嫌いかというと、別に嫌いではないけど、好きってわけでもなかったということに気付きました」。

 畳の上での“野獣”スタイルは、戦いの日々の中で松本自身が作り上げたもの。闘争心をまとい、相手に向かっていった。ただ、1人の母となり、戦う意味に迷いが出てきた中で、そのスタイルを貫くことは難しくなった。

 引退を決意した理由について、松本は「優先順位の1番が柔道より子供になってしまった。体力もなく、結果を残せず、五輪は難しいなと思った」と、明かした。昨年11月の講道館杯全日本体重別選手権で1回戦負けとなり、東京五輪代表入りが絶望的に。その試合で「闘争心がなくなっていて、試合中に“あ~、もう勝ちたくないな”と思ってしまった。勝負師として終わったと気付いた」という。「“野獣”を作るのにはもの凄く力がいる。子育てしながら、野獣スタイルを作るのは難しい」。柔道家との終わりを悟った。

 今後、柔道のコーチなどをする予定はなく、講演や助言などするというが、柔道とは距離を置く考え。所属先の新事業となるアイスクリーム店で勤務する。東京五輪についても「世界中の人たちがアイスを食べに来てくれたらうれしい」と、笑顔で話した。

 「柔道は目標であり、夢だった。柔道を通して成長することができた。目標は達成したし、悔いはない。今はスッキリしています」。五輪を彩った個性派柔道家は、“野獣”というキャラクターから解き放たれ、1人の女性、そして母として、第2の人生を歩み始める。

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