「馬軍団」の象徴的記録を更新 「五輪コラム」

 陸上最初の決勝種目、女子1万メートルでいきなり世界新記録が生まれた。中盤から独走したアルマズ・アヤナ(エチオピア)が29分17秒45で優勝。1993年に中国の「馬軍団」のエースだった王軍霞が記録した29分31秒78を23年ぶりに大幅に更新した。90年代に中長距離で世界を席巻した「馬軍団」の象徴的な世界記録が、長距離王国の新女王によって23年ぶりに塗り替えられた。

 ▽女王の後継者、独走で金

 五輪、世界選手権の長距離は真夏のレースが多く、記録よりも勝負優先の展開になりがちだ。この日は、条件が違った。南半球のリオは季節としては冬。前日までの強い日差しも消え、朝からの雨が競技開始前にあがる好コンディションだった。スタートからケニアの選手が1週70秒前後のハイペースで飛び出し、快記録誕生の地ならしをした。アヤナはその背中にぴたりとつけていた。

 5000メートルの通過タイムが14分46秒台。日本記録(14分53秒22)よりはるかに速い。アヤナは5200メートル付近で突然、ギアを切り替え、1周のラップを67秒前後に上げて後続を引き離した。自己ベストに近いペースで健闘していた日本選手2人が、6000メートル前後で相次いで周回遅れとなったのも仕方ない。アヤナのしなやかながら切れのあるフォームはその後も崩れなかった。五輪決勝では珍しい独走での圧勝だった。

 24歳のアヤナは昨年の世界選手権5000メートルのチャンピオン。今季、初めて距離を伸ばして1万メートルにも挑戦し、デビュー戦でいきなり30分7秒00の好タイムを出した。長距離王国エチオピアにはこの日、3位に入ったディババという偉大な先輩がいる。五輪では北京で5000メートル、1万メートルで2冠を獲得し、1万メートルはロンドンで連覇している。その後継者となったアヤナは、5000メートルで長距離2冠を狙う。

 ▽なお残る古い世界記録

 陸上女子の世界記録は1980、90年代につくられた古い記録が数多く残っている。トッラク種目は100メートルから800メートルまでの4種目はすべて80年代の記録で、なかでもマリタ・コッホ(当時東ドイツ)がマークした400メートルの47秒60は不滅ともいわれる。いまさら解明しようもないが、投てき種目も含めた古い世界記録の中にはドーピング疑惑がくすぶり続けている。当時の検査法では技術的に摘発できなかったものがあるのでは、というのだ。

 王軍霞を中心とした「馬軍団」は、中国の馬俊仁コーチが率いた長距離チームだ。93年に突然、陸上界に現れ、当時20歳だった王軍霞が3000メートルと1万メートルで、チームの同僚が1500メートル、5000メートルでいずれも驚異的な世界記録を立て続けにマークした。馬コーチは、選手の疲労回復のために「冬虫夏草」という漢方薬を使用していた。これがドーピングにあたるのではないか、と大騒動になった。

 「馬軍団」は90年代末までに陸上界から消えていったが、王軍霞の2種目の世界記録は残っていた。軍団の選手はいつも前半から飛ばし、終盤もペースを緩めない強引な走法だった。世界記録はこうした戦法でなければ生まれないのだろう。リオ五輪でのアヤナも、駆け引きなしで一気にゴールまで駆け抜けた。

(荻田則夫)

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