すがすがしい金メダリスト 「五輪コラム」

 柔道男子73キロ級で金メダルに輝いた大野将平は見事だった。すべての相手に思い切った技を仕掛け、決勝でも切れ味鋭い小内刈りで仕留めた。

 勝負が決まった後も興奮した様子をみせず、静かに礼をして畳を降りた。ガッツポーズや派手な喜びの表現が目立つなか、「対戦相手を敬い」「礼に始まり礼に終わる」柔道の心を体現していた。

 ▽礼節を尊ぶ

 1964年東京五輪での印象的なシーンを思い出す。柔道はこの大会から導入された新競技。最終日の無差別級に出場したアントン・ヘーシンクが日本のエース、神永昭夫を押さえ込んで勝敗が決した。

 その瞬間、喜びのあまり畳に駆け上がりかけた母国オランダのサポーターを、ヘーシンクは強く手で制した。礼節を尊ぶこの競技ではあってはならないこと。この光景を目の当たりにした観客は、この瞬間に日本柔道が心技体すべてで打ち負かされたことを悟らされたのだった。

 その後、急速に世界へ広まった柔道はさまざまな変貌を遂げ、勝負の面でも日本選手の金メダルは次第に高嶺の花になっていく。敗れる日本選手は増える一方だったが、金メダルにこだわるあまり、試合後にしっかり礼をせずに畳を降りるケースも散見された。

 ある調査で試合後の礼をしなかった日本選手は、全参加選手中でも平均以上とのデータもあった。

 ▽自暴自棄になった大学時代

 試合後の大野は「柔道という競技の素晴らしさ、強さ、美しさを見ている皆さまに伝えられたんじゃないかと思う」と落ち着いた表情で語ったが、3年前には今の姿は想像できなかった。

 リオで開かれた世界選手権を初制覇した直後、天理大柔道部内の暴力問題で主将だった大野も処分を受けた。一時は自暴自棄になりかけ、復帰後の世界選手権ではメダルにも届かなかったが、見事に立ち直った。

 この時期、柔道界は女子日本代表への暴力問題で立て直しに懸命だった。外部から招かれた宗岡正二会長が「品格のある柔道界をつくろう」と呼び掛け、スポーツとして、武道として欠かせない存在に高めることを目指した。その願いが実った末の堂々たる金メダルだけに、柔道界、いや日本スポーツ界にとってもいっそう価値が大きい。

 金メダル獲得はこの上なくうれしいことだ。しかし、力の限り戦って敗れたなら、何も恥じることはない。たとえ勝てなかったとしても、柔道の本家にふさわしい「グッドルーザー(良き敗者)」であってほしい。(船原勝英)

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