変化を模索する台湾野球 WBC敗退で浮上した問題点

 3月25日、日本より一足早く台湾でプロ野球が開幕した。台湾ではかつてのメジャーに倣い、前年の優勝、準優勝チームのマッチアップを開幕戦に充てている。今年は冨邦ガーディアンズと中信兄弟エレファンツ。新荘棒球場にはキャパを超える1万2500人の観衆が訪れた。どうやら野球ファンのWBC敗退ショックは癒えているようだ。

 『富邦』とは昨季まで『義大ライノズ』と称したチーム。オフに身売りとなり、銀行系のグループ企業である『富邦』が新たな親会社となった。義大は昨季、後期2位、台湾シリーズは中信兄弟を下して前身のチームも含めれば11年ぶりのリーグ優勝を果たした。それだけにオフの身売りはファンにとって残念でありショックだったが、金融機関が親会社の富邦に買われたことで、多くが安定した球団運営をしてくれるものと期待している。その意味では、不幸中の幸いだったか。中信も、正式には中国信託商業銀行。つまり今ある4チームのうち2チームが、銀行系金融機関が親会社となったわけだ。

 これが意味するものは大きい。かつて台湾プロ野球界では八百長事件で揺れた時期があった。そのマイナスイメージを払拭するのに関係者たちは多くの汗をかき、骨身を削った。その甲斐あって、今は“健全経営”に落ち着いている。銀行系金融機関が2グループも加わっているのは、いわばその証ともなっているのだ。

 さて、WBCの後日談。

 台湾は残念ながら韓国での1次ラウンドで1勝も出来ず敗退した。主たる要因として上げられたのがプロとアマ組織の対立だった(詳細は以前にも記しているので、ここでは割愛)。結果、プロチームのラミゴは選手拠出を拒否。メジャー、マイナーでプレーする“アメリカ組”もほとんど呼べなかったため、戦力的にはかなりのハンデとなり、案の定の結果となった。日本ではそのことばかりが喧伝されたが、彼の地でも日本など他国での報道はブーメランのように跳ね返った。国内では周知のことでも、他国で知られると、より深刻に受け止めることがある。

 「台湾はプロとアマが仲が悪くて選手が出せず、負けた」

 その情報は、彼らのイメージダウンとなるに十分なものだったようだ。また大会前からの予想が的中した分、ファンのアマ組織への反発、抗議は激しかった。プロでも、選手会などが積極的に声を上げ、敗退の根本的な要因には「選手層の薄さ、育成の重要性がある」と訴え、この機会に2軍の充実を求めたりもした。メディアでは日本の侍ジャパンに倣い、代表チームの常設化も提案された。海外組の招集についても、場当たり的な交渉ではなく、ルール作りの必要性が叫ばれた。

 それらがどう実現に結びつくかは、彼ら次第だ。それでも、そんないくつもの声と動きがWBC敗退のお陰で浮上したのは、せめてものことだった。

 「台湾野球界は、まだまだ変われる」

 そんな気運が、開幕の大入りに結びついたと言っても、あながち見当外れではないだろう。

 他方、プロ野球界でも変化があった。3月20日。CPBLのコミッショナー事務局では、事務局長に相当する秘書長に、元プロ野球選手が就任したのだ。それも41歳という若さで。

 名前は馮勝賢。99年から9年間、兄弟の遊撃手としてプレーした、当時の中心選手だ。2年目の2000年にはフル出場し、打率・291の好成績で新人王を獲得した。通算成績は打率・255、13本塁打、213打点。しかしその数字よりも堅実な守備でのイメージが強い。ゴールデングラブも4回受賞している。07年の引退後はコーチもしていたが、昨年は国立体育大学で博士課程に進み、博士号を取得していたという。台湾の野球選手出身で第1号だという。そんな人物に、白羽の矢が当たった。この人事はWBC敗退とは直接の関係はないとのことだが、台湾プロ野球が変化していこうという流れの中では、やはり特筆すべきことのように思える。

 また同じくCPBLの理事会では、新たにプロリーグに加盟する企業が名乗りをあげた場合の“枠組み”を決めた。向こう3、4年の間に5、6球団への拡大に努力していく方針だとか。

 どういう形であれ、隣国の野球界が発展していくことは、素直に喜びたい。それでレベルの拮抗が生まれ、肉薄した試合が見られ、ともにレベルアップしていくのなら。

 31日には韓国でもプロが開幕する。それぞれの国で、地域で、また野球の季節がやってきた。(スポーツライター・木村公一)

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