FA選手争奪戦がスピーディーな理由

 韓国プロ野球の“FA選手争奪戦”は、ある意味ですさまじい。

 11月18日、今オフの再取得者6人含む24選手がFA権を取得し公示された。そのうち引退など除いた22人が行使を宣言。と、ここまでは日本と変わらないルール規定だ。公示日から1週間で旧所属球団との交渉となり、締結しない場合は他球団との交渉に移る。これも概略は同じ。

 ただ韓国の場合、日本と大きく異なるのは、ここ数年というもの他球団との交渉当日から、待っていたように一気に契約というケースが目立っている点だ。

 このオフで最も注目されていたのは、サムスン・ライオンズからNCダイノスに移籍が決まったパク・ソンミン三塁手だった。今季まだ30歳。2004年にサムスンに入団し10年間で163本塁打、638打点。今季は打率・321、116打点、26本塁打と、主要記録の自己ベストをたたき出した。イ・スンヨプ(イ・スンヨプ)のあとを受け継ぎ盟主サムスンの4番に座ったスラッガーと表現すればいいか。当然、韓国トップクラスの資金力を誇るサムスンだけに引き留めは間違いないと見られていた。

 ところが他球団との交渉解禁2日目に、NCが4年最大96億ウォン(約10億円)で即決サインとなった。ちなみに今季のサムスンの選手年俸総額は87億3200万ウォン(約9億3000万円)。4年の複数年契約とはいえ、チームの年俸総額をも上回る巨額契約だった。当然、韓国球界のFA最高値である。

 その額もすごいが、即決というのもまたすごい話だ。他の選手もやはり解禁間もなく続々と契約に至り、わずか数日間でFA市場は実質的に店じまいとなった。

 そんなスピーディーさから、韓国の一部メディアではタンパリング(事前交渉)疑惑をいぶかしがる報道もされた。ここではその是非は問わない。

 興味深いのは、それだけ高額な投資をして戦力補強に熱を上げるチーム間の競争意識だ。韓国プロ野球の親会社は、その多くが旧財閥グループ。程度の差こそあれ資金力は単一企業の比ではない。ほとんどの球団が赤字運営でも、グループの関連予算から補填し、賄っている。だからこそチームの順位、そして優勝争いは親会社のプライドを賭けた、いわば“代理戦争”にもなっていくわけだ。

 ただFAで獲得し、チーム底上げに貢献できるレベルとなると人数は限られる。そのため主力の「Aランク」が資格を得て市場に出れば、途端にインフレが生じる。今季まででリーグ最高年俸は、ハンファのキム・テギュン(元千葉ロッテ)の15億ウォン(約1億6000万)だった。これには千葉ロッテから復帰する際の“再契約金”に相当するものも含まれてはいたが、これを皮切りに10億ウォン選手が次々と現れるようになった。いまやチームの主力級は6億ウォン(約6300万円)から7億ウォン(約7300万円)程度にまで跳ねあがっている。球団は赤字続きで、しかし主力級の年俸は右肩上がり。どの球団幹部もそうした傾向をよしとはしないが、それにも限界はある。

 そんな状況から、韓国球界を、同国メディアでは「FAバブル」という表現で、危機感を示している。バブルはいつか破綻する。

 なお、規約ではFA選手を獲得した球団は、旧所属球団にプロテクト選手20人以外からの選手1人と、獲得した選手年俸の200%を渡すことになっている。旧所属球団が人的補償を望まない場合は、当該選手の300%を支払わなければならない。

 今季、パク・ソンミンの年俸は4億7000万ウォン(約4900万円)。かりにサムスンが譲渡金だけを求めるならば、その額は14億1000万ウォン(約1億4700万円)。これもまた桁違いの金額だ。

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