よみがえる1952年の記憶 後半戦はカープ版「メークドラマ」逆転CSに期待

 元中国新聞記者でカープ取材に30年以上携わった永山貞義氏(72)がデイリースポーツで執筆するコラム「野球爺のよもやま話」。広島商、法大でプレーした自身の経験や豊富な取材歴からカープや高校野球などをテーマに健筆を振るう。

  ◇   ◇

 これまでカープの球団史については新聞や雑誌などに結構、書いてきたものである。それにつれ、一つの単語や事象に対しては「パブロフの犬」よろしく、反射的に過去の主な出来事が浮かぶ思考回路になっている。

 例えば「1975年」と言われれば、初優勝の歓喜。こうしたパブロフの犬システムの作動によって、チームの勝率が4割前後で推移した今年前半戦の場合、この「勝率」のアップに全精力を注いだ52年の情景がよみがえってきた。

 そもそものところから当時の話を進めると、同年は球界が2リーグに分裂して3年目。セ・リーグは西日本が前年の51年に消滅し、7球団になっていた。チーム数が奇数になれば、試合日程の編成上、1チームに空きが出るので不都合なのは当然。このため同リーグは開幕直後、「勝率が30パーセントに達しないチームの処置は、理事会が決める」との罰則規定を定めた。言い換えれば「カープつぶし」ともいえる立法。球団にとっては同年3月、大洋との合併問題に続く、2度目の消滅の危機だった。

 この難題に対しては3割3分3厘の勝率で何とか乗り切ったが、翌52年に入ると、その雲行きが怪しくなってきた。エースの長谷川良平が不調だった影響などもあって、前半戦終了時の勝率は2割5分の最下位。後半戦の9月には「カープいびり」のため、1カ月で32試合もの殺人的な日程が組み込まれていたことを考えれば、勝率3割の達成は誰しも困難と思ったことだろう。

 「カープ30年」(中国新聞社・冨沢佐一著)によると、剣が峰の戦いとなったのが9月下旬からの名古屋との5連戦。ここまで対戦成績が1勝14敗1分という難敵である。その初戦を落とした後の夜、石本秀一監督はナインを集め、「3割だけは石にかじりついても達成しなくてはならん」などとげきを飛ばした。この声にナインは「死んでも勝つぞ」と呼応。宿舎の闇の中で、遅くまでバットを振り続けたという。

 おかげでこの5連戦を3勝2敗で乗り切ると、残りの8試合も4勝4敗と必死で踏ん張り、最終的には勝率3割1分6厘で6位を確保。カープと最下位争いを続けていた松竹が2割8分8厘と3割を切り、大洋に吸収合併されたのだった。

 この勝率を巡る物語には余話がある。カープ後援会が松竹の主砲、小鶴誠と盗塁王、金山次郎の獲得のため「1千万円募金」に乗り出したのである。その時のファンの熱い思いを、後にカープの球団取締役になった岡本昌義さんは中国新聞に投稿している。「(小鶴と金山を獲得すれば)われらカープが首位を争う。痛快これに過ぐるものはない。なるもならぬも、1千万円の資金が集まるか、集まらないかにあるのだ。カープを愛するファンよ。この募金に参加し、素晴らしい夢の実現に協力しようではないか」。

 岡本さんはそのほかにも小鶴、金山両選手に対し、入団を懇願する手紙を週1回の割で出し続けている。最終的にはこの熱意が金山に伝わり、一心同体だった小鶴も入団。翌年、金山が盗塁王を獲得すると、小鶴も2割8分3厘、14本塁打、74打点で初の4位躍進に貢献したばかりでなく、その後のチーム繁栄の礎になったのである。

 こうした過去を振り返ると、カープの勝率が3割を割ったのが1度、4割のそれは今回、テーマとした52年を含めて6度ある。今年の6月下旬、3割6分2厘まで落ちた時は72年以来、49年ぶりの屈辱は必至と判定したが、その後、小園海斗、林晃汰らの躍動などで前半戦終了時には、4割1分7厘まで持ち直している。

 考えてみれば、今年の戦力は簡単に5割を切るほど貧弱ではあるまい。その前半戦の罪滅ぼしとしてファンが望むのは、せめてものクライマックスシリーズへの進出。3位ヤクルトには11ゲームも離されていたが、決して絶望的な差ではない。

 現にカープには96年、11・5ゲーム差から巨人に逆転されて、優勝をさらわれたつらい過去がある。いわゆる長嶋茂雄監督が言った「メークドラマ」による悲劇。その雪辱として後半戦は一つ、52年のようなカープ版の「メークドラマ」に期待してみようではありませんか。

 ◇永山貞義(ながやま・さだよし)1949年2月、広島県海田町生まれ。広島商高-法大と進んだ後、72年、中国新聞社に入社。カープには初優勝した75年夏から30年以上関わり、コラムの「球炎」は通算19年担当。運動部長を経て編集委員。現在は契約社員の囲碁担当で地元大会の観戦記などを書いている。広島商高時代の66年、夏の甲子園大会に3番打者として出場。優勝候補に挙げられたが、1回戦で桐生(群馬)に敗れた。カープ監督を務めた故・三村敏之氏は同期。元阪神の山本和行氏は一つ下でエースだった。

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