【内川聖一特別手記】変化しないことは停滞…いまも探し続ける究極の感覚

 8回、2000安打達成となる中前打を放ちガッツポーズを決める内川(撮影・開出牧)
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 「西武0-3ソフトバンク」(9日、メットライフドーム)

 ソフトバンクの内川聖一内野手(35)が西武戦の八回に中前打を放ち、史上51人目の通算2000安打を達成した。偉業を達成した内川は手記を寄せた。初めて首位打者となった2008年に打席で体験した「一度きり」の感覚を求め続けて10年。苦悩の末にたどり着いた2000安打への道のりを自分の言葉でつづった。

  ◇  ◇

 一本一本が重く、2000安打が思ったより遠かった。残り25本で迎えた今季は、104本を残していた昨季とは感覚が違った。数字が現実的なものとなり、惑わされた自分は弱いなと感じさせられた。

 シーズンでヒットが1本出るまではいつも不安なもの。それが、開幕戦(3月30日のオリックス戦)でつまずいた。1打席目、右中間への打球をライトのロメロに捕られ、2打席目もセンターへのいい当たりが正面を突いた。素直に打って内容も良かったけど、流れを変えたくなった。0-0の七回、一発で決めてやろうと引っ張ったらショートゴロ。これで狂った。

 結果が出ている時は、守っている相手野手の間がすごく広く見える。バットの先まで神経が通っている感覚があって構えた時にヒットコースが見える。打てるイメージでバットを振って、そこにボールがくるのが一番の状態。そうでなくても、打つ瞬間に少し詰まらせてあそこに落とそうとか、左手の操作で角度を変えられることもある。それが今シーズンは野手に均等な間隔で立たれている気がして、どこに打っても抜ける気がしなかった。詰まり方も、ただ差し込まれていることが多かった。

 打てない時は試合後、誰もいなくなったスタンドに行きグラウンドを見渡すことがある。一塁側、バックネット、三塁側といろんな位置から眺めると「こんなに広いんだから、もっと簡単に打てるはずだ」と少し楽になれる。今年も何度かスタンドに上がった。

 やればやるほど、バッティングは分からなくなることがある。今だからこそ、初めて首位打者になった08年の感覚はすごかったと思う。中でも究極は、9月13日に吉見(中日)のフォークをセンターオーバーの二塁打にした打席だ。落ちる球が目の前でサッカーボールぐらいに大きく見えた。毎回この感覚だったら絶対打てるなと思った。でも一度きりだった。その時の調子や精神状態とか要因はいろいろあるだろうけど、あれが何だったのかを今もずっと探している気がする。

 でも、同じ条件になることは絶対にない。極論すれば今までの7000打席は全て違う打ち方だったと思うし、違っていいと思う。投手が同じコースに同じ球種を投げ続けてくれるなら話は変わるけど、そこが再現性を求められるゴルフとは違うところだ。フォームも道具も今がベストだとは思わない。変化しないことは停滞だと考えている。だから、直感で「打てるかもしれない」と思ったバットは使ってみる。打てるかもしれないと感じながら使わないのは、損だから。

 素振りをしてイメージした軌道にバットが入ってこなければ、暗いところにいってスイングをする。これも08年ごろ、一番気持ちよく振るにはどうすればいいのかを考えて行き着いた練習の形だ。暗闇では余計な情報が入らないから、自分の感覚とだけ向き合えて考えがすっきりする。

 柳田やデスパイネは練習でもどこまでもボールが飛んでいく。自分にないものを持っているバッターはみんなすごい。メジャーリーグではフライの方がヒットの確率が上がるといわれているけど、自分の力では打ち上げてもスタンドまで届かない。

 その中で2000本も打てたのは、打ち損じがゴロになるからだと思う。フライになったらアウト。ゴロはヒットになる可能性がある。僕はゴロにはドライブ回転をかけようとしている。球足が速くなって、捕られそうな打球が抜けていくヒットが大きかった。

 2番打者でバント、右打ちから始まったプロ野球人生。「好きに打て」と言われるのはいまだに戸惑いがある。4番を任された15年はホームランを意識して崩れた。今にして思えば勘違いだけど、自分の打撃が確立されていなかったということだ。でも4番に座らないと分からないことも多かったし、誰かが背負わないといけない。今年は4番でなければとっくに打順を変えられてもおかしくない成績だけど、1本のヒットをこれだけ注目されたこともなかった。2000安打の先に何があるかはまだ分からない。また新たな何かが見えるかもしれないと、自分でも期待している。(ソフトバンク内野手)

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