プロの壁乗り越える京大田中の“相棒”

 「ロッテ春季キャンプ」(16日、石垣島)

 京大初のプロ野球選手となったロッテのドラフト2位・田中英祐投手(22)が、いよいよキャンプ最終クールを迎える。実戦デビューを22日に控えるが、この石垣島での2週間あまり、秀才右腕はプロの壁と格闘した。入寮後から付け始めた「田中ノート」には、知られざる胸中が記されていた。

 一日の終わり。宿舎の自室に戻ると、右腕は決まって、黒い表紙の手帳を開く。一日を振り返り、その日に気付いたことや、チェックポイント、そしてめったに明かされることのない感情まで、箇条書きで記す。サインプレーなども忘れないように覚え書きしており、見返すために練習時に携帯することもある、“相棒”のような存在だ。

 あくまで簡潔にまとめられているのが特徴で、「日記みたいに文章を書くとなると、あまり続かなくなるので。子どものころも、野球ノートは1週間とか冬休みの間くらいしか続かなかった」と笑った田中。だが1月7日の入寮から、付け始めた「野球ノート」は、ほとんど欠かすことなく、田中のプロ人生の足跡が着々としたためられている。

 キャンプ初日の2月1日には、ボールの管理など新人としての“業務内容”をはじめ、大半を占めたのは、緊張や力みのあまり帽子は飛び、制球が大きく乱れたブルペンでの投球だ。「ピッチングの感じとか、力入りすぎていることとか。緊張したとか。いつもの2倍は書きました」

 試練は訪れる。第2クール3日目の2月8日。投手陣には、コーチから指示された「課題投球」がメニューに加わった。ブルペンで、外角低めへのストライク10球がノルマだったが、田中は悪戦苦闘した。なかなかクリアできずに、費やしたのは26球。

 田中は、ノートに、胸に込み上げる思いを書き殴った。「悔しい。思ったボールが行かない、投げられない」。そして第3クール初日の2月11日。「腕が振れなくなったんですよね。体が(ボールを)指だけで操作して、全然、球が行かなくなった」。腕の振りの良さは、田中の最大の持ち味のひとつだ。それが影を潜めたことで、完全に自信を失った。感情をストレートに出さない頭脳派右腕も、プロの壁にぶつかった。

 「今までで一番、ああ自分、今、もがいてるなと思いました。今もまだ進行形ですけどね。端から見たら、これを、もがいてるっていうんやろなと思いました」。西の最難関に現役合格し、エリート人生を歩んできた田中の“挫折”だった。

 しかし、思いを書き連ねることで、何をすべきかがクリアになった。「今の自分の技術力では、ここに投げにいこうとしてもだめと、一回、割り切った」。もう一度、自分のフォームと腕の振りで投げて、形をつくり直す。課題投球も免除され、変化球を捨て、直球だけに立ち戻った。「課題は課題として自分の伸びしろとして残しておいて、後は自分のいい状態をもう一回戻していこう」。だから、自分で考えて、フォームも変えてみた。それが、2月14日のブルペンで、今キャンプ最多の167球を投じたことで、変化が訪れた。「少し、兆しが見えてきました」。表情にも明るさが増した。「やっぱり書くことで、考えが整理できたのかもしれない」

 いよいよキャンプも17日から最終クール。18日にはシート打撃に初登板予定だ。22日の練習試合・広島戦(コザしんきん)で実戦 デビューすることも決まった。

 これからも、“黒い表紙の相棒”とともに、歩んでいく。将来的に、活躍した暁に「田中ノート」の出版はと尋ねると、「考えます」と前向きだった。

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