阪神無念のV逸~和田監督の誤算~

 阪神が2005年以来、8年ぶりとなるV奪回を逃した。昨年31・5差をつけられた巨人に対し、球宴終了時で2・5差の2位と大健闘。評論家諸氏の開幕前予想では、大半がBクラス低迷だったが、それをあざ笑うような進撃で一時は2度首位に立つなど、王者の足下をぐらつかせた。しかし、9月に入る直前であっさり力尽きた。

 最後の「勝負どころ」となったのは、8月27日~29日にかけての直接対決3連戦。5差はつけられていたものの、4連勝と勢いをつけて東京に乗り込んだ阪神に、多くの阪神ファンが「ここで3連勝すればひょっとして…」という淡い期待を持ったに違いない。ところが、結果は全く真逆。ペナントの流れを左右したのは、初戦の阪神の先発オーダーにあったと考える。

 27日の初戦、巨人は今季初めて内海を先発に立てた。前半は不調にあえいできたが、夏場にかけて本来の姿を取り戻してきたエース左腕。これに対し、阪神はあえて2番に右の俊介ではなく、左の今成を起用した。確かに今成は今年の成長株で、福留が故障離脱中は主に6番で結果を残してはいた。だが、大事な天王山で2番を任すだけの信頼感を得ていたとは到底言い難い。まして相手がリーグを代表する左腕の内海。起用はどう考えても“ギャンブル”だった。

 「大和が8月20日のDeNA戦で右手首に死球を受け、骨折離脱した後、2番には俊介が入っていた。ここまでの3試合で結果は出ていなかったが、投手は内海だし、個人的には俊介でよかったのではと思う」

 そう言ったのは、真弓政権下で野手チーフコーチを務めた野球評論家・岡義朗氏。西岡加入でチームが活性化され、全選手が常に前を狙う積極的な走塁が今季の阪神の特徴だった。岡氏はその意識付けをしてきた和田監督の手腕を高く評価する。ただ、ペナントレース最大の山場だったこの局面で、機動力のある俊介でなく、打力優先の今成を選択したことを疑問視した。

 結果的に、この作戦は裏目と出た。初回西岡四球で得た無死一塁の好機に、今成は強攻策から遊ゴロ併殺に倒れる。今成を起用する以上、犠打の選択肢はなかった。「和田監督の策は妥当だった」と岡氏も言う。ボールがよく飛ぶ狭い東京ドーム。リーグ最少の本塁打数にあえぐ阪神でも、この球場だけは別。そんな考え方から出た「超攻撃型打線」だったが、不発に終わり、逆に相手の4番・村田に手痛い先制弾を浴びるはめになった。

 「流れという部分で言えば、あの今成の併殺が巨人3連勝の流れを作った形になった。今成は今年成長した選手の一人であることは間違いないし、使った根拠もあったはず。ただ、一つ言えることは、今成の力を見誤ったということだ」

 岡氏が指摘したように、和田監督の胸には悔恨の思いが残ったに違いない。開幕から機動力を駆使して一つ一つ丁寧に勝ち星を積み上げてきた。なのに、肝心要の時に“巨人の土俵”に自ら上がってしまった。東京ドームでは打ち勝たないといけない‐。そんな幻想にかられ、巨人が得意とするドームでの打ち合いを挑んだ。そして自らの野球を見失った。そんな気がしてならない。

 阪神が「流れ」をつかみ損ね、逆に巨人が村田の一発でそれを確実につかんだ。2戦目にスタンリッジが同じように村田に痛弾を喫し、さらに崖っぷちの3戦目は能見の好投空しく、延長戦で松田が散ってしまう。この時点で巨人の連覇は必然となった。

 初戦の初回無死一塁。今年の和田野球なら2番俊介が確実に送り、3番鳥谷、4番マートンに賭けるシーンが見られたはずだ。その結果、無得点で敗れたとしても、和田監督には悔いが残らなかったと思う。時間の針が戻せるならもう一度あの場面に戻したいが、終わったことはもう「過去」でしかない。

 ペナントレースでは負けたが、まだ日本一になる道は残っている。来月12日から始まるクライマックスシリーズ・ファーストステージの相手が広島と決まった。もう一度「和田野球」の原点に返り、広島を撃破して巨人の待つ東京ドームへ向かいたい。

(デイリースポーツ・中村正直)

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