元Jリーガーがアマで戦う理由

奈良クラブのJFL昇格に尽力する岡山
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 Jリーグで多くの観衆の前でプレーしていた経験を持ちながら、アマチュアリーグでのプレーを選択する選手が多くいる。関西リーグ1部からJリーグ入りを目指す奈良クラブには柏、仙台などで活躍したDF岡山一成、鳥栖、仙台、横浜FCを渡り歩いたGKシュナイダー潤之介が所属している。なぜプロがアマリーグで現役を続けることを選択したのか。思いや現状を聞いた。

   ◇  ◇

 更衣室はテント状の簡単なスペースだけが用意されていた。ホワイトボードやマットなどチームで使う用具も選手それぞれが分担して運ぶ。岡山、シュナイダーに話を聞いた9月28日、奈良クラブは全日本社会人選手権の2回戦を戦い、サウルコス福井に延長戦の末、1-0で勝利した。勝利を喜ぶ暇もなく、選手たちは後片付けをしながら、クールダウンを行う。

 この日、出場がなかった岡山は「僕の力を見せるのはまだ先ですよ」と笑っていた。「それぞれの地域のチームとの戦いが経験になる。このチームにはね、JFLでも上にいけるポテンシャルがあると思いますよ」。奈良クラブが所属する関西1部リーグはアマチュアリーグの1つ。J1、J2、J3というプロリーグ、その下部に位置する全国リーグ・JFLよりも、さらに一段階下の地域リーグにあたる。昨年所属したJ2札幌から見て、3段階下のカテゴリーで、岡山はアマ契約でプレーしている。

 和歌山県の初芝橋本高出身。横浜MでプロとしてのキャリアをスタートさせJリーグで8クラブを渡り歩いた。09年-10年には韓国の浦項で所属しクラブW杯にも出場した。川崎、福岡、柏、札幌の4クラブでJ1昇格に貢献し、「昇格請負人」の異名もとった。12年を最後に札幌との契約を満了。所属がない状態でJリーグ復帰を模索していた。

 「最初はこだわりもあった。Jリーグで終わるのがいいのかなとも思っていました」。13年6月に岐阜の入団テストを受けた際も、Jへの思いがあったという。奈良クラブからもオファーを受けていたが、すんなりと受け入れずにもいた。そんな中、岡山の心を揺らがせる出来事があった。横浜M時代のチームメートで、11年に亡くなった松田直樹さんの追悼試合だった。

 13年8月2日、松田さんが最後に所属した松本の本拠地・長野県松本平広域公園総合球技場、通称「アルウィン」を訪れた岡山は、松本サポーターの松田さんへの思いを目の当たりにした。「サポーターにマツ君(松田さん)は生き続けてるんだな」。鳴りやまない応援歌(チャント)や声援を肌で感じて、元日本代表という実績を持ちながら松田さんが、11年当時JFLだった松本への移籍を決意した理由を思い出した。

 「熱いサポーターがいて、スタジアムがある。いいチームになるから、俺はここでJリーグを目指す」

 そんな松田の言葉に背中を押されるように、追悼試合の3日後、岡山は奈良クラブ側にオファーを受ける電話を入れた。「僕もね。Jリーグを目指すチームをつくっていきたいと思ったんです。Jリーグのない県につくっていこうという点も共感しましたしね。このチームを昇格させて、ようやく本当に昇格請負人を名乗れるのかなって思いますね」。岡山は関西リーグからJFLへの昇格戦線に触れ、「アマチュアにこんなに厳しい昇格争いがあるとは思わなかった」と気合を入れ直していた。

 GKのシュナイダー潤之介は昨年までJ2横浜FCで所属していた37歳のベテランだ。昨季は42試合中26試合に出場、キャプテンとしてチームをまとめたがクラブからの契約更新のオファーはなかった。何とか自分自身を奮い立たせて“就職活動”をした。「いくつかお話はもらえた」が、金銭面で妻と長女を養うことを考えると決断に踏み切れない条件だった。

 そんな折、奈良クラブから「選手兼任コーチ」のオファーが届いた。当然、地域リーグのクラブから金銭面で好待遇を受けられるはずもないが、過去にシュナイダーが群馬県リーグでプレーしたことがあるという経験や、Jリーグでも安い給料からはいあがってきた経験を若い選手に伝えてほしいという依頼も受けた。「何かを残せず契約が更新されないという形で引退する、というのもできなくて。それならまだ、けがをしてできなくなる方がいい」。即戦力兼、プロとしての伝道師役兼、トップチームと育成部門のGKコーチとして、奈良クラブ入りを決めた。

 基本的には午前中に練習して、午後には中学生や小学生を相手にコーチを務める。忙しい日々にも「やりがいありますよ。教えたことをどんどん吸収して成長してくれているし」。若手選手に対しては、「家でどうせテレビを見るのならヨーロッパのサッカーを見たりして勉強してほしい」など、Jリーグを目指す上での心構えを少しずつ伝えている。

 ただ、やりがいがある反面、厳しい現実もある。

 シュナイダーの場合は所有していた車を維持費が安い軽自動車に変えた。185センチの体で運転するには少々窮屈だ。家族は妻の故郷である群馬に残し、奈良に単身任している状態で、月に1度か2度しか家族には会えない。

 「まあ、車はね。そんなギャップが面白いんですけどね」とシュナイダーは笑い飛ばす。来年、どんな暮らしを選んでいるかは本人にも分からない。それでも「今年1年、とにかく奈良クラブのJFL昇格のために全力を尽くしたい。来年のことは、それから、ですね」と力を込めた。

 2人の最大にして唯一の目標は、関西リーグを優勝したことで出場権を得た「全国地域リーグ決勝大会」(11月7日開幕)。ここで少なくとも上位2位に入れば全国リーグのJFLに昇格できる(JFLからJ3に昇格するクラブ数により、3位以下にも可能性はある)。さまざまな思いを胸に「元Jリーガー」が死力を尽くす。

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