阪神・能見が感情を隠すわけとは…

 打者であれば、ホームランを打った後のしぐさであるとか、凡退した後の動きは十人十色といったもの。投手も同じで、抑えた後のガッツポーズや、痛恨の一打を食らった時のリアクションなどはそれぞれ異なり、そこに個性が見える。

 そういった中、能見は試合を通してほとんど表情を変えない。たとえ終盤に痛い失点を喫しても、うつむき、しゃがみこむこともなく、淡々と投げ進める。ただ、派手な動きがなくても、それが左腕の個性でもある。そこに確かな理由が存在しているからだ。

 では、なぜ試合中に、あまり表情を変えたり大きなリアクションをしないのか。その問いに対する回答に、能見の信念が見える。「。もっと闘争心を出した方がいいと言う人もいる。感情を出す人は出す人でいいと思う。でも…」。そこに込められているのは、野手陣に対する信頼の思いだった。

 「試合は九回が終わらないと分からないのに、仮に0対0の七回に1点取られてがっくりしても、まだ終わってない。がっくりして『あ、終わった』というような雰囲気を(野手に)与えたくない。雰囲気的に重く感じることはあるかもしれないけど、ピッチャーがそれをやるのはね」

 終盤の失点の重みは十分に理解している。ただ、その重さが、守っている野手に伝わることはしたくない。「(淡々とする方が)まだあきらめていないと。がっくりしているところを野手に見せないように」。まだ試合は終わっていない。野手が必ず取り返してくれる。淡々と振る舞う背中で、そんなメッセージを送っている。

 もちろん、同時にそれは自己防衛のためでもある。「打たれた後とかに、ダメージを与えてるなと(相手打者に)思われたくないから」。たとえショックを受けたとしても、それを見せればスキにつながる。勢い付く相手打線が、さらに前のめりにならないように、荒ぶる思いを胸の中に閉じ込めている。

 「(そういう考えは)プロに入ってからかな。考え方とかは、やっていく内に色々と変わるから。周りの見方も変わってくる中で、自分はどうしないといけないか、とか。人と同じ事をマウンドではしたくないからね」

 今年で36歳を迎えたプロ11年目。生き抜く術を模索しながら、ここまできた。今も阪神のローテーションを支える頼れる存在。時に氷のような冷たさも感じさせるポーカーフェースの裏には、あえて押し殺した熱い感情がある。そこに、能見なりの自覚が見える。ゲームセットの瞬間、チームの勝利とともに笑えればそれでいい。

(デイリースポーツ・道辻 歩)

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