臨機応変さ不足したハリルジャパン

 サッカーの18年W杯ロシア大会アジア2次予選シンガポール戦(16日、埼玉)は0-0と想定外の引き分けに終わった。国際サッカー連盟(FIFA)ランキング154位(日本は同52位)の格下を相手にボール支配率65・7%、シュート23本を浴びせながら、日本は一度もゴールネットを揺らすことは出来なかった。

 1998年に初めてW杯出場を果たして以降、アジア予選初戦で白星を挙げられなかったことは初めて。「モスクワまで全勝で行きたい」と語っていたハリルホジッチ監督だったが、その一歩目からつまずいた。

 「19回ほど100%決まるだろうという決定機をつくった。長いサッカー人生でこのような経験は初めて。ショックとまではいかないが、それに似た感覚を持っている」。試合後のハリルホジッチ監督は動揺を隠せなかったが、日本が引いた相手を崩し切れずに苦戦を強いられる様はアジアとの戦いで幾度となく見られた光景。「自分たちはこういう試合を何回もしてきている。『またか』という思いは正直ある」と岡崎が唇を噛んだように、既視感を強く覚えた一戦だった。

 前半から長谷部や柴崎が縦パスを多用し、ハリルホジッチ監督が掲げる「縦に速い」スタイルを体現した。前半12分には柴崎の縦パスから鮮やかな反転を見せた香川がシュート。同30分には長谷部を起点に、本田-宇佐美-岡崎と流れるような繋ぎで決定機を迎えた。

 シンガポールが4-1-4-1の布陣でバイタルエリア付近を固めても、お構いなしに短いパス交換で守備ブロック内に割って入った。ただ、速攻ベースの縦に速いサッカーは格上や実力が接近した相手には有効だが、引いて守られスペースを消されると威力は半減する。「もう少しサイドに開く時間帯があってもよかった」と香川が振り返ったように、中央にこだわり過ぎるあまり、時間の経過とともに手詰まりとなった。

 ハリルホジッチ監督はハーフタイムに逆サイドへ斜めにサイドチェンジして、外からクロスを入れる指示を出したが、試合は動かない。香川に代えて大迫を投入するなどFW登録の選手全員を起用したが、引きこもる相手に前線の枚数を増やしたことでさらにスペースが消え、ゴール前は“渋滞”に陥った。

 日本は指揮官の指示に忠実過ぎた。「遠めからのシュートがなかった。相手を前に引き出すことが必要だった」という槙野の言葉通り、引いた相手を引っ張り出すセオリーでもあるミドルシュートはほとんど見られず。ドリブルで仕掛けたり、ボランチが前線に飛び出すシーンも少なかった。

 後半24分に本田のパスを受けてペナルティーエリア内に侵入した柴崎が倒されたが、ああいった局面を何度も生み出せれば「このような試合ではPKが欲しかった」というハリルホジッチ監督の望みも叶ったのかもしれない。

 指揮官がどのような戦術を授けようとも、結局ピッチ上でプレーするのは選手。「臨機応変さが足りなかった」という本田の言葉に全てが集約される。途中出場でボランチに入った原口は「監督からはバランスを崩すなと言われたが、崩してもチャレンジした方がよかった」と悔やんだ。

 想定外の事態では指示に縛られない柔軟な姿勢があってもいい。ハリルホジッチ監督は「ナイーブなところを少し向上させないといけない」としたが、日本の選手についてまだまだ物足りなさを感じるということだろう。

 「どういう戦い方をすればよかったとかそういうことじゃない。決めるか決めないかのところで決められなかっただけ」と岡崎が嘆いたように、決定力不足が引き分けの最大の要因であることは間違いない。相手GKイズワンの好守や不運もあった。ただ、そこに至るまでの崩しの過程や試合運びに「臨機応変さ」を垣間見ることは出来なかった。

 シンガポール戦から一夜明けた17日、日本協会の霜田技術委員長は「(ハリルホジッチ監督に)これがアジアの予選なんだという話はした」と明かした。「口で何を伝えても過去の映像で分析しても、実際にやってみないと分からない。初戦に経験できたことはよかった」と“傷口”は最小限であることを強調した。

 本田も「予選は始まったばかり。(予選)全体を通して評価してもらえれば」と強気の姿勢を貫いた。予選が終わってみれば取るに足らない引き分けとなるかもしれないし、そうなる可能性の方が高いだろう。だが、日本の抱える課題が何一つ解決されていないことがあらためて露呈してしまった。

 次戦は9月3日のカンボジア戦(埼玉)となる。ホームで失態を繰り返すわけにはいかない。結果が全てのW杯予選。シンガポール戦を教訓に、新しい姿が見られることを期待したい。(デイリースポーツ・山本直弘)

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