JASRACの“独占”を考える

 音楽の著作権などを管理する日本音楽著作権協会(JASRAC)は“諸悪の根源”なのか。4月28日に最高裁が、JASRACによる放送事業者からの著作権使用料の徴収方式が独占禁止法違反かどうか争われた訴訟で、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は「新規参入を妨げている」と判断する判決を言い渡した。ただ、この裁判には一般的に誤解されている点もある。5月8日にJASRACが行った記者会見をもとに、現状と問題点を整理した。

 【論点1】この裁判は放送事業での使用料徴収についてのもの。

 音楽に関する権利すべてについてJASRACが独禁法に違反していると最高裁が判決を下した、というイメージを受ける人もいるかもしれないが、それは誤り。あくまで、テレビ・ラジオといった放送事業社への使用料徴収方法について争われた。

 JASRACは「包括許諾」と呼ばれるシステムを採用している。NHKや各民放が放送事業収入の一定割合を支払うことで、JASRACが管理する曲をまとめて使える、という内容で、いわば“使いホーダイプラン”のようなもの。1曲ごとの申請が不要で手続きが簡単というメリットがある。

 反面、古今東西、著名・無名にかかわらず多くの楽曲を扱っているJASRACに使用料を支払っているので、他の権利管理団体が扱う曲を、さらに使用料を支払ってまで放送局が使わなくなる、という事態も起こりえる。今回の裁判ではその点が最高裁の判決文でも指摘された。

 【論点2】JASRACが独禁法違反をした、という判決ではない。

 まず、今回の裁判はJASRACが直接的に訴えられたものではない。

 もともと09年2月に公正取引委員会(公取委)がJASRACによる「包括許諾」が独占禁止法違反にあたるとして「排除措置命令」を出した。これをJASRACが不服として公取委に審判を請求。結果として12年6月に、包括許諾が新規参入の妨害している因果関係を証明できないとして、排除措置命令が取り消された。

 これに黙っていられなかったのがJASRACの同業者にあたる株式会社イーライセンスだ。JASRACによる包括許諾が、イーライセンスの事業参入を妨害しているとして、公取委を相手どり“取消を取り消すよう”訴訟を起こした。JASRACは関係性が高いことから「参加人」という立場で裁判に関わっている。

 今回の最高裁判決では、イーライセンスの主張が認められ、公取委の主張が退けられたが、JASRACが独禁法に違反しているかは結論が出ていない。公取委がJASRACについての審理をやり直すことになる。

   ◇  ◇   

 手続きが簡単な「包括契約」が使えなくなったケースを、すでにJASRACは想定している。以前から、放送局から「どんな曲を」、「どれだけ使ったか」についてリストの提出を受けている。菅原瑞夫理事長は「今は(全ての使用楽曲のうち)9割を超えるぐらいの報告をいただきました」としている。さらに、使った割合に応じて使用料を集めることも技術的には「できます」とした。現在はNHK、民放連、JASRAC、イーライセンスと、ジャパンライツ・クリアランスという著作権管理会社で基準づくりの話し合いを進めている。

 また、世間のJASRACに対する悪いイメージについて、菅原理事長は「お金を大量に集めているという結果なのかもしれません」と推察した。2013年度で約1100億円の使用料を徴収しているが、「(権利者に)分配をするわけです。大量のお金を徴収しているから、と言われるのであれば、それは利権と言えるのだろうか、という思いはあります」と述べた。

 まとめると、今回の事例は放送事業に関してのみ考えるのが妥当だろう。JASRACが指摘されている別の問題とは切り離す必要がある。喫茶店やダンス教室への使用料請求の金額や請求方法が妥当かどうか。そして、著作権を持つアーティストや社会全体の利益につながっているか。さらに、徴収されたお金が正しく分配されているかどうかといった議論、チェックは必要だ。

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