桜花賞に執念を燃やすM・デムーロ

 先週行われたフィリーズレビューは、1番人気のクイーンズリングが大外一気で快勝。有力関東馬が大挙押し寄せる桜花賞の舞台に、ようやく迎え撃つ関西のエースが登場したわけだが、正直、前走比馬体重マイナス20キロには驚かされた。直前で馬券を買うのをためらったファンも多いことだろう。

 体脂肪率5~8%と言われるトレーニング期のサラブレッドが、前走から2カ月でそれほどまでに減らしていたのだ。人間換算ならおよそ3キロ。想像してほしい。バンタム級にエントリーしたボクサーが、計量時にはフライ級の体重しかなかったら…。調整ミスを勘ぐったとしても責められまい。

 結果的に杞憂(きゆう)に終わったとはいえ、吉村師が「思っていた以上に減っていて…」と振り返った通り、100%万全な状態とは言い切れなかったはず。それでも見事に勝って桜色のチケットを獲得できたのは、馬自身の底力はもちろん、何より鞍上ミルコ・デムーロの手腕が大きかったように思う。

 記念すべき“JRA所属外国人騎手”として今月1日にデビュー。あらためて日本での目標を問われたミルコは「桜花賞を勝ちたい」と即答していた。ダービーではなく、あくまでも桜花賞なのだ。「桜がきれいだから。桜は日本を代表する木と聞いたし、そんなきれいな桜並木をバックに勝てたら格好いいよ。ダービー?う~ん…それもいいけど、やっぱり桜花賞だね」。本人はこだわる理由についてそう話すのだが、桜がきれいうんぬんは当然、表向きのものに過ぎない。

 ミルコはこれまで7度、桜冠獲りに失敗している。最もVに肉薄したのはレッドオーヴァルとコンビを組んだ13年(首差2着)。勝ったのは弟のクリスチャン・デムーロが駆るアユサンだった。

 ゴールの瞬間、立ち上がって喜びを爆発させたクリスチャンとは対照的に、ガックリと肩を落とすミルコ。14歳下の弟は大はしゃぎしながら馬上で手を差し伸べたが、それに反応する余裕もなかった様子が映像にも残っている。「あのときはショックだったね。あとちょっと。ホントにあとちょっとだったのに」。2年たった今も、悔しさがこみ上げて眉間にしわを寄せる。

 大外から飛んできたクイーンズリングには、ミルコの執念が宿っているように見えた。我々一般人が想像する以上に、馬はその背中で鞍上の意志を感じ取ると聞く。レース前の段階ではまだ桜花賞での乗り馬はほかになく、ここは何としても決めたい。その揺るぎない気持ちが、20キロも馬体を減らし、ギリギリの状態で挑んだパートナーを動かした-。そう思えてならない。

 ところで、ミルコはテレビインタビューがかなり苦手だ。聞き手が気を遣ってゆっくりと質問しても、言葉が出なかったり、返答が微妙にずれていたりもして、観ているこっちがヒヤヒヤしてしまう。普段の取材では、日本語での意思疎通に問題はないのだが…。

 「カメラの前とか、大勢の人に囲まれると、すごく緊張して頭が真っ白になるんだ。子どものときからプレッシャーにはとても弱かったよ。テストの前日とか、よくおなかが痛くなったりしてね」。どうか温かく見守ってほしい。とはいえ、フィリーズレビューの勝利者インタビューでは、いくらかやり取りに慣れてきた感じもあった。桜花賞でお立ち台に上がることになれば、これまでよりも少しだけ、軽妙な受け答えで喜びを表してくれるかもしれない。(デイリースポーツ・長崎弘典)

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