「愛の讃歌」-20年前に語られた真実

 今年のNHK「紅白歌合戦」で3年連続3度目出場となる美輪明宏が名作「愛の讃歌」を歌うことになった。46年前に自らが訳詞した日本語版は、同局の連続テレビ小説「花子とアン」で仲間由紀恵と中島歩の駆け落ちシーンで約4分間、セリフもなく、フルコーラスで流れて話題になった。紅白では「マッサン」の主題歌「麦の唄」を歌う中島みゆきとの“朝ドラ名曲対決”という企画である。

 美輪には「毛の法則」があるという。2年前のクリスマスイブ、紅白初出場に向けた取材の中で、そう、本人がおっしゃられたのだから間違いない。そのココロは、時代時代でブームや話題になった作品のタイトルには「け(げ)=毛」が付くという法則だった。

 時代を超えたヒット曲「メケメケ」「ヨイトマケ(の唄)」、当たり役の舞台「黒蜥蜴(とかげ)」「毛皮のマリー」、フジテレビ時代の五社英雄監督が手がけた異色の時代劇「雪之丞変化(へんげ)」、宮崎駿監督の「もののけ姫」…。そして2014年の流行語大賞にノミネートされた「花子-」でのナレーションの締め言葉「ごきげんよう」-。

 どこに「け」があるのかと突っ込まれた日には、その3文字目に…と苦しい後付けをするしかないのだが、今月の表彰式で日本エレキテル連合と並ぶ姿に、改めてその現役感を再認識させられた。

 で、本題の「愛の讃歌」。フランスの国民的歌手であるエディット・ピアフが愛人だったボクシング元世界ミドル級王者のマルセル・セルダンを飛行機事故で亡くし、身を引き裂かれるような絶望の底で書いたヘビーな歌詞の背景や真意を、美輪は取材で語った。

 その内容は年が明けた13年1月29日にコラムという形でデイリースポーツに掲載された。日本では越路吹雪らが歌った岩谷時子版がポピュラーだが、ピアフの原詩は「高く青い空が頭の上に落ちてきても、大地が割れても、どうってことはない。あなたが望むなら愛する祖国も友達も裏切る…」といった、絶対的な愛に貫かれているのだと力説された。

 という話をうかがっている間、一方でデジャビュ(既視感)のような感覚にとらわれていた。当時は思い出せなかったのだが、その個人的な記憶の源泉は大阪・よみうりテレビ制作の深夜番組「たかじんnoばぁ~」にあった。DVD化されている同番組の出演回をたまたま先日見返していると、放送日が1994年の「1月29日」とある。くしくも紙面掲載と同日に同内容の話という偶然の必然に“因果”を感じた。

 バーを模したスタジオのカウンター内、たかじんさんが比較の意味で岩谷版「愛の讃歌」をギターの弾き語りで歌った。それを踏まえ、当時は黒髪の美輪が前述通りにピアフの原詩を解説。ちょうど20年前の光景が黄色い髪の今と重なった。

 番組のラスト、原詩をアカペラで熱唱する美輪に対し、たかじんさんは「泣きそうになるわ…」とつぶやいた。その一言から、同じ歌手として共鳴する思いが伝わってきた。

 その、たかじんさんも今年1月3日に亡くなった。美輪がピアフを演じる舞台「愛の讃歌」で全国を回った年に、絡み合う因果を感じる。筆者は9月7日のリサイタルで、長く封印されてきた日本語版を拝聴した。ハイヒールで体を支え、歌い続ける2時間40分。終演後、楽屋をお邪魔すると、ご本人は疲労の色を隠さずに、「これだけお客様が入ってくださいますから…」と使命感を示された。

 「ヨイトマケの唄」を歌った2年前には「今後も紅白に出させて頂くことがあれば『愛の讃歌』は候補曲」と明言されていたが、それが実現する14年の大みそか。たかじんさんではないが、「泣きそうになるわ」と心の中でつぶやいてみる。(デイリースポーツ・北村泰介)

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