阪神優勝のキーマンとなる能見の復活

 本人はもちろん、周囲も待ち望んでいた勝利だった。9日の広島戦(京セラ)、阪神・能見が5月24日のソフトバンク戦(ヤフオクドーム)以来となる勝ち星を挙げた。

 「チームが勝って僕も勝ちが付いて良かった。ここまで迷惑をかけてたので」

 そこまで自己ワーストとなる6連敗中。実に9試合ぶりの77日ぶりとなる勝利でもあったため、ようやくトンネルを抜けたことに安堵の笑顔を浮かべた。「(連敗中も)背負うものはあるよ。プレッシャーもあったから」。それだけ、左腕にとって苦しく、背負う「宿命」との戦いの日々でもあった。

 自分のことを「エースではない」と言う。ただ、周囲からは「エース」として、投手陣の軸として期待されている。実際に、連敗中も首脳陣からは「能見に勝ちを付けたい」と声が挙がり、野手陣も「何とか援護できるようにしたい」と話すことが多かった。その立場は自覚している。

 常に勝利に値する投球を求められ、同時に「勝たせたい」と思わせる存在。思えば2年ほど前のこと、こんなことを言われたことがあった。12年まで阪神に在籍し、現在は米大リーグのカブスでプレーする藤川からの言葉だった。

 「僕は能見さんに賭けるものがある。能見さんが勝てるようにサポートする。能見さんにエースの称号を与えないと。エースになってもらいたいから」

 阪神が最後に優勝した05年は、井川(現オリックス)がエースだった。井川が06年オフに阪神を離れて以降は、絶対的な「エース」が見えにくい状況が続いていた。それがすべてではないが、現実にその05年から阪神は優勝から遠ざかっている。そういった中、藤川は何かを感じ、優勝のための「エース」を能見に重ねていた。

 能見は、藤川の言葉を「そう言ってくれるのがありがたいしね」と受け止めている。だからエースを目指した、のではない。今回の連敗中も「自分が勝てなくても、チームが勝てばいい」と繰り返した。勝てない間も「特に何も変えていない」と、必死に練習に取り組む日々を過ごした。そういった能見が元来携える気質、そして投手としての力が、周囲からの「エース」としての期待となる。

 11日の時点で2位・阪神と首位・巨人とのゲーム差は1・5。7月の巻き返しでここまで接近してきた。能見が勝てない中でもだ。

 能見はこう話す。「僕自身がしっかりすればもっと上にいける。(6勝10敗で)借金もあるし続けないと意味がない」。上昇気流にあったチームにあって、能見の勝ち星が欠けていた一つのピースと言ってもいい。ようやく輝いた待望の白星が再発進の合図だ。真夏の逆襲を誓う男が、悲願の優勝のキーマンとなる。(デイリースポーツ・道辻 歩)

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