ヤンキース黒田 その死球には訳がある

 貫いた。

 5月28日、敵地ブッシュスタジアムで行われたカージナルス戦。ヤンキースの先発、黒田博樹投手(39)が三回2死二、三塁の場面で4番打者アレン・クレイグにぶつけた瞬間、筆者は思わず、ニヤリとしてしまった。

 もちろん、黒田が苦しむ姿を見たかったからでも、クレイグのことが憎かったからでもない。理由は、この試合の前の登板、同23日のホワイトソックス戦で黒田が口にした言葉を思い出したからだ。

 「もっと右バッターのインサイドにツーシームを投げれば、ああいう不運なヒットも少なかったと思います」、「(調子が)いいときはインサイドのボールをうまく使いながら、という投球ができるんですけど、今はどうしても結果がほしくなって外(角)一辺倒になってるような気がしますね」

 3点のリードを守り切れず、逆転弾を許して五回途中でKOされた試合。味方打線の再逆転で黒星はつかなかったが、この時点での成績は3勝3敗、防御率4・55。勝敗はともなく、昨季まで4年連続で防御率3点台前半を記録しているベテラン右腕が本来の力を出し切れてないのは明らか。それだけに試合後の言葉は、筆者には次回登板に向けての決意表明のように思えて仕方がなかった。

 カージナルス戦に備えてブルペンに入った3日前にも黒田は、右打者への内角に関してこんな話をしている。

 「別に闇雲(やみくも)に投げるわけではないですけど、そういう(内角への)ボールを増やすことで、自分の中で外をコントロールしないといけないというイメージを極力少なくしたい」

最後に「それは今までも大事だと思ってましたけど」と付け加えたのは、それが黒田本来の投球スタイルだからだ。裏を返せば、今季の自身のピッチングに物足りなさを感じている証拠だった。

 そして、迎えたカージナルス戦。黒田は右打者の内角にツーシームを次々と投げ込んだ。3番ホリデー、4番クレイグ、5番モリーナと中軸に右の好打者が並ぶ。「闇雲に投げるわけではない」と言った通り、ホリデーには外中心の配球に徹した。

2死ながら満塁の大ピンチを背負う結果となった三回の死球。1ストライク2ボールの投手有利のカウントから敢えて内角高めのツーシームを投じた理由を黒田が説明する。

 「彼はその前の日の試合で追い込まれても外のボールを反対方向、ライトにホームランを打ったりしていたので、(三回は)そこ(内角)に投げないと抑えられないだろうな、と思っていました。特に手の長いバッターなので低めよりは高めの方が利くかなと。当然(内角球は)リスクはありますけど、そこに投げないと次の打席がしんどくなる、というのもありました」。

 自身の投球スタイルと冷静な分析を融合させて投げ込んだ1球。相手の左肘にぶつける結果となってしまったが、「(コースが)甘くなってヒットを打たれても一緒なんで」と黒田。続くモリーナを二飛に討ち取り、そのイニングを無失点で切り抜けた。

 その日は味方打線が四回までに7点を奪う一方的な展開。六回に3点目を奪われた直後に交代を告げられたため、先発の責任とされる「クオリティ・スタート(6回以上3自責以下)」はならなかったが、大量失点を許さず、ゲームはつくった。4勝目に値するピッチングだったことは疑う余地はない。

 次なるマウンドは、日本時間4日のアスレチックス戦。カージナルス戦での投球を振り返り、黒田は「きっかけになればいいなと思ってます。なかなか自分の思うようなピッチングはできませんが、ゲームの中でいろんなきっかけがつかめればと思ってます」と言った。

 アスレチックスは現在、ア・リーグ最高勝率の強敵。優れた選球眼をもち、粘り強い打者がそろっていることでも知られている。

 「まずは自分のピッチングをすること。相手によってアプローチを変えてしまうと、逆にこっちのリズムが崩されてしまう」。

 ヤンキース先発陣は4月下旬からけが人が相次ぎ、開幕からローテーションを守っているのは黒田と田中将の2人だけだ。ここが踏ん張りどころ。大胆に右打者の内側を攻めたあの1球がベテラン右腕の快進撃の始まりだと信じている。

(小林信行)

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