チャーリー・ワッツに神髄を見た!

 もはや“世界の人間国宝”というべき「ザ・ローリング・ストーンズ」の8年ぶりの日本公演を拝見させてもらった。

 2月26日、5万人を集めた東京ドームでのライブは「一人ぼっちの世界」からスタート。8年前は仕事の都合で行けなかったが、2003年の東京公演は自分の目で見ている。10年の年月を経て、ストーンズはどのぐらい変わったのか興味津々だったが、ステージ上の姿に全く衰えはなかった。

 70歳になったボーカルのミック・ジャガーはステージを走り回り、同年のキース・リチャーズも相も変わらぬ“やる気”を感じさせない姿でギターを弾く。66歳と若干若いロン・ウッドのギター・アクションの方が当然派手だが、3人のフロントマン以上に“渋さ”を感じさせたのは、最年長72歳、チャリー・ワッツのドラムだった。

 簡単に書いてしまうが、ストーンズが結成されたのは1962年だ。バンド結成から半世紀以上経っている。チャーリーは1963年に加入し、ストーンズのレコードデビューからミック、キースと一緒に活動している。

 バンドで一番重要なのは、実はベースとドラムのいわゆる「リズム体」で、さまざまなミュージシャンを取材してきたが「ベースとドラムがしっかりしてれば、バンドは何とかなるよ」という声をよく聞いた。その意見を実証しているのが、ストーンズにおけるチャリー・ワッツの存在だ。

 ストーンズには、チャーリーと同時期に加入したビル・ワイマンというベーシストが在籍していたが、ビルは1993年にストーンズを脱退してしまう。ミック、キースより7歳も年長なことも理由にあったというが、チャーリーにしてみれば、リズム体の一部が変わってしまうのだから、大変な経験だったと思う。「ベースとドラムの相性がよくないと、バンドは結構やりにくい」というのもミュージシャンの間で広く言われて来た言葉だからだ。

 今回の来日公演でも、ベースにはサポートメンバーとして黒人ベーシストが入っていた。「ミス・ユー」では、チョッパーで弾きまくり、スピーカーが揺れるほどの音を出していたが、チャーリーときたら全く涼しい顔。いつものような無表情でリズムを淡々と刻み、ベースのハードな音に負けるところは少しもなかった。まさに「THIS IS DRUMER」である。

 最近のバンドは、ドラムもハデハデなアクションでたたきまくるのが主流となっているようだが、70年代初頭からロックバンドを見続けている私には、やっぱりチャーリーのようなクールなドラマーが大好きだ。バンドのメンバー紹介でも、ミックが「ミスター!チャーリー・ワッツ」と敬称を付けていた。168センチの小柄な体。真っ白になった頭にTシャツにジーンズといういでたちでドラムをたたく姿には、本当に感動を覚える。チャーリーのドラムなくして「ホンキー・トンク・ウイメン」も「ギミー・シェルター」もありえない。

 解散してしまったザ・ビートルズも、一番地味だと言われたリンゴ・スターのドラムなくして、あのサウンドは作り出せなかったと再評価する動きもある。リンゴのドラムも初期のライブ映像を見れば派手なアクションに見えるが、よく音を聴くと本当に正確に太鼓をたたき続けている。ポールという天才ベーシストを相手によくやっていたなと今はそう思う。

 チャーリー・ワッツもミックとキースをずっと支えて来た。このライブでもドラムに狂いはなかった。72歳。これぞロックドラマーの“人間国宝”というしかないだろう。

(デイリースポーツ・木村浩治)

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