上半期、ホントに面白かった邦画は?

日本映画の豊作っぷりが目立った2016年・上半期。そんななか、数々の映画メディアで活躍し、ウェブサイト・Lmaga.jpの映画ブレーンである評論家 ── 春岡勇二、ミルクマン斉藤、田辺ユウキの3人が市内某所に集結。お題はもちろん、「2016年・上半期、ホントにおもしろかった映画はどれ?」。酒気帯び上等、言いたい放題の3人に印象深かった今年の邦画について語ってもらった。

「原作は原作、映画は映画なんだから」

──今年も半分終わり、日本映画の豊作が非常に目立った上半期だったのですが、そこでお三方に「ホントにおもしろかった映画はどれ?」をお聞きできればと。とりわけ邦画では、マンガを原作とした映画が目立ったわけですが。

田辺「あの、いきなり話が逸れちゃいますけど、ほら、某評論家のテラフォーマーズ評がすごくネットで話題になってたじゃないですか。100点中5点とか付けて、酷評しまくりで。それがみんなに広がって」

斉藤「あぁ、樋口真嗣監督に目の敵にされてるという(笑)」

田辺「そうそう。今どき、あそこまで原作に執着して映画を語る人がいるんやって。なんか、原作の面白いところが映画に全然生かされてない、だから映画はダメだみたいな話をずっとしてたんすよ。あれを読んだとき、吐きそうになった(笑)」

春岡「そんなこと言ったら、映画は原作通りじゃなきゃいけないってことになっちゃう」

斉藤「案外原作通りなんやけどな(笑)。俺はもっと三池さんはグチャグチャにするんかと思ってた。三池さんに会ったときも言ったけど。日活でやったらもっと・・・って。やっぱり鎖(縛り)があったんやろうな」(※)

春岡「三池さんはできるから。鎖があったらあったで、こうなりましたっていうのをちゃんと提示してんだよね」

──『テラフォーマーズ』で三池さんは、モーションキャプチャ(人や物の動きをデジタル的に記録する技術)演技を自分でやってますよね。人型昆虫・テラフォーマーの。

斉藤「ともかく、面白がっている。たぶん、それが一番やりたかったんでしょ(笑)」

春岡「あれはあれでいいじゃん、そんなどうこう言える映画でもないし」

田辺「やっぱり今、原作モノの映画が増えましたけど、その原作と比べてどうとか言い過ぎやなって思いますね、ほんまに」

斉藤「『進撃の巨人』もみんな言い過ぎやんな。漫画も読んだしアニメも観て、まあ怒る気持ちも分かるし、たいして良くはないけど、そこまでひどいとも思わない」

春岡「原作は原作で、映画は映画なんだからさ。作品はファンのものかもしれないけど、原作者たちがそれでいいって言ってるんだから、それでいいだろって(笑)」

斉藤「でも『ちはやふる』なんかは(原作者は)うれしかったと思うけどね」

春岡「広瀬すずはスゴいわ」

斉藤「前編はもう、広瀬すずの完璧なアイドル映画。すずちゃんが突出しすぎてて、後編がないと『ちはやふる』のテーマが見えてこない。そういう意味では前・後編通して観て素晴らしいね」

春岡「そうそう。前編と後編、なにをやりたいかちゃんと変えているんだよね。前編は恋愛映画、後編は青春群像劇という。で、後編の松岡茉優がまたいいんだよ」

斉藤「くそ上手いよな、松岡茉優って!」

田辺「松岡茉優のあのラスボス感は、誰もが認める説得力がありましたよね。あと、かるた映画をこんな健康的に撮るのかっていう。素足で駆けてるシーンも含めて」

斉藤「小泉監督、走らせるの好きやからね(笑)。彼は、映画をよく分かってると思うわ」

春岡「やっぱり青春は走らなきゃダメだよ、大前提だよ」(※)

──前・後編の映画といえば、『64(ロクヨン)』もありました。春岡さんには瀬々監督のインタビューをしてもらいましたが(※)。

斉藤「あれは、瀬々監督の会心作。アマチュア時代から入れても一番良かったんじゃないか」

春岡「俺は『ヘブンズストーリー』(2010年)も好きだけど、『64(ロクヨン)』はホントに良かった。普通、後編がダメという映画が多いんだけど」

田辺「やっぱりあの記者クラブの部屋、あの描写が抜群でしたよね」

──原作者の横山秀夫さんも地方新聞の出身ですよね。

春岡「あれ抜群だよなー。それに美術が磯見俊裕さんじゃない。磯見さんも一応、業界紙の出身だから」(※磯見俊裕:美術監督。『誰も知らない』『血と骨』『渇き。』などに参加)

田辺「その記者クラブと広報室をずっと往復する佐藤浩市がいいんですよ。佐藤浩市をここまで良いと思ったのは初めてかも知れない」

斉藤「NHKのピエール瀧主演の『64』が素晴らしかったから、瀬々監督で映画化って聞いたときは正直な話、落胆したんやけどね(笑)」

春岡「瀬々くんはやれるよ。今までやってなかっただけで(笑)」

斉藤「『感染列島』(2009年)とは全然違う。『ストレイヤーズ・クロニクル』(2015年)とはもっと違う(笑)。瀬々監督は、その前のWOWOWドラマ『罪人の嘘』(2014年)も面白かった。WOWOWって、ウォーミングアップになるんかな。そういえば、入江(悠)監督はどうやった? 彼もWOWOWでドラマ『ふたがしら』やってたやん」

田辺「『太陽』ですよね。あれ、大好きなんですけど」

斉藤「僕も大好きなんやけど、でも全然ダメっていう人多い」

田辺「結局、僕が観たかった入江悠ってこれなんやって思いましたね。それこそ、あのムチャクチャな長回しとか」

斉藤「あれはスゴイよな。太陽に当った人体が煙上げ始めたりする特殊効果まで加えても、きっちり長回しならではのスペクタクル感は損なわれてないし。(撮影監督の)近藤龍人はやっぱ上手いなあ。ナイトシーンもあれだけキレイに撮れるって、ちょっとビックリする」

田辺「ホント。あと、門脇麦のレイプシーンも見事なんですよね。1回逃げてフェードアウトするけど、また戻ってきてという、その一連の流れが」

「今年の日本映画の特徴は、殺伐」

春岡「俺はまだ『太陽』は観れてないんだけど、ここで挙げないといけないのは、やっぱり『ディストラクション・ベイビーズ』。ここ数年で一番スカっとした」

田辺「あれはもう、暴力映画では歴代トップですね」

春岡「柳楽優弥演じる主人公・芦原泰良が理由もなく人を殴りまくってさ。その気持ちなんて、全然分からないんだけど、ただ、俺たちが撮りたかったのはこういう映画なんだというのは、すごい伝わってくるんだよ。ついに真利子(哲也監督)がやってくれたなと」

──柳楽優弥自身も(泰良が)なぜそんな行動をとるのか、分からないまま演じていたとインタビューで言ってましたね。監督に訊いても「楽しければイイけん」しか言わなかったと(※)。

春岡「あれ分かる奴なんていねえよ。で、柳楽優弥に憧れて、菅田将暉演じる高校生が暴力に走るという。こういう奴いるんだよ」

田辺「あの菅田将暉が言い放った『一度女を思いっきり殴ってみたかった』って、すごい台詞ですよね。あんなん脚本で思いついたら、たぶん震えますよ」

斉藤「でも、構造的には『イエローキッド』(2009年・真利子監督の東京芸術大学大学院修了作品)の延長線上にはあると思うんだけどさ。本人はそんなに意識してなかって言ってたけど」

春岡「いや。本人は意識してなくても、やっぱり『イエローキッド』がベースにあると思うよ」

斉藤「(法政大学在学中に撮った自主制作映画の)『極東のマンション』という8ミリ映画を観て唖然としたときのことが忘れられない。自分の本当の家族まで巻き込んで、モラトリアムな個人映画のフェイクを完璧に作った、ほんまどうかしてる映画で完全に騙された(笑)」

田辺「だって、『NINIFUNI』(2011年)もヤバかったですからね。人が車のなかで練炭自殺を図っていて、その窓の向こうではももクロ(早見あかり脱退前のももいろクローバー時代)が元気いっぱい踊っている。そんなシーン、撮れないっすよ」

斉藤「そうよ。ももクロ引っ張り出しといてあんなん許されへんよな、普通」

春岡「今年の邦画でさ、さっきの『太陽』も『ディストラクション・ベイビーズ』にしてもそうなんだけど、わりと上の世代、60歳以上がみんなダメみたいなんだよ。で、それ以下の連中は大好きっていう映画が多いんだよな」

斉藤「いわゆる殺伐系の映画ですよね」

春岡「今年の日本映画の特徴といえば『殺伐』だよな、ホントに。俺もこの前、学校の授業でそれ言ったんだけど」

斉藤「吉田恵輔監督の『ヒメアノ~ル』もそうで。監督も言ってた、『壁ドン』ばっかりじゃアカンって(笑)」

田辺「吉田監督も真利子監督も、壁をドンと殴りにいくタイプですからね(笑)」

──吉田監督もそのようなこと言ってましたね(※)。

春岡「殺伐がいいか悪いかの問題じゃなくて、なぜか今年の日本映画は殺伐とした空気で撮られた映画で、スゴく面白い作品が多いってことなんだよね」

斉藤「『ヒメアノ~ル』って、(原作者の)古谷さんは古谷さんで全然違う方向にいっちゃってるやんか。映画はもっとストレートだけど、犯人像はちょっと複雑になっている。快楽殺人じゃなくなってるっていうね。原作はイジメが原因なんだと断定してる気もするけれど、そこはさすがに吉田さんは、イジメだけじゃないんだと匂わせて演出している」

春岡「なにはともあれ、森田剛の狂気を超えた演技よ」

田辺「森田剛、良いんですよね。もちろん、舞台の演技からそんなことはみんな知ってるんですけど」

斉藤「で、僕的に忘れちゃならないのが『アイアムアヒーロ-』。初めて日本映画がゾンビ映画史に残る映画を作りだしちまったと」

春岡「あれ、俺らだけがすごく面白がってて、上の世代はダメなんだって」

斉藤「そうなの?私はもう興奮を禁じれなかった!」

春岡「俺がまだ観る前にさ、『いやー、あれは観なくていいよ』とか『つまんないよ』とか言っててさ。とりあえずと思って観たら、これは観なきゃダメでしょと。ゾンビ映画としては、日本映画初の成功作だよ」

田辺「見事でしたよね。僕が小学生のときにテレビで観た、あのゾンビでしたから」

斉藤「まさに御大ジョージ・A・ロメロの『ゾンビ』(1978年)やんか、ショッピングモール型ゾンビ。血しぶきの特殊効果にしてもCGで華麗に飛ぶ(特殊メイクアップアーティストの)西村喜廣風のやつじゃなくて、まさに物質的な血糊。臓物ドロドロ描写も今どき臆さずやってるし」

春岡「ショッピングモールの逃げるシーンとか、往年のゾンビ映画へのオマージュだと思うけど、やっぱこうじゃなきゃ。今までのゾンビ映画は真似で終わっていたけど、『アイアムアヒーロ-』はホントに逃げるゾンビ映画になってた」

斉藤「すべてが終わったあとの世界はブルースである、みたいなさ(笑)。音楽も含めてすごく分かってるなって。佐藤信介監督は、好きなことをやらせるとホントに上手い!」

「2016年の上半期は、この3本で決まり」

──では、そろそろ「2016年・上半期、ホントにおもしろかった映画」を決めましょうか。

田辺「僕は『リップヴァンウィンクルの花嫁』と『ディストラクション・ベイビーズ』、『ヒメアノ~ル』。この3本は同率1位ですね」

春岡「俺は『ディストラクション・ベイビーズ』が一番好きだけどさ。印象に残るって訊かれたら、やっぱりその3本だよ」

斉藤「いや、そうなるよね。3人がまったく一緒というのも困るけどさ(笑)」

田辺「でも、『ちはやふる』も入れたい!」

春岡「だったら『64(ロクヨン)』も入れとかないとダメでしょ」

──『リップヴァンウィンクルの花嫁』は今、初めて話題に出ましたが(※)。

春岡「いやぁ、岩井くんの映画はよくできてると思うし、実際に面白いけど、俺はちょっともういいやって。斉藤くんらが好きなのはよく分かるけど、俺にはちょっとロマンチシズムが過ぎるというか。ただ、上半期のベストを訊かれたら、そりゃ『リップヴァンウィンクルの花嫁』『ディストラクション・ベイビーズ』『ヒメアノ~ル』の3本で決定だと思うよ」

斉藤「実は僕、『リップヴァンウィンクルの花嫁』は黒い映画として好きなんですよ。底知れない暗黒の上にできている、砂上の楼閣のような映画なんで」

春岡「だってあれ、観てて不愉快だぜ?」

斉藤「不愉快とまでは言わないけど、そういうとこが好きなの(笑)」

──『ディストラクション・ベイビーズ』はそのまんま狂気が剥き出しですけど、『リップヴァンウィンクルの花嫁』は一見、オシャレに見えるんですかね?

春岡「オシャレか?怖いよ、あれ」

斉藤「今の時代、あれはオシャレに見えないんじゃない?」

田辺「『ディストラクション・ベイビーズ』の喧嘩もリアルやけど、リアルさだけなら『リップヴァンウィンクルの花嫁』も相当・・・」

春岡「だから俺は、あれをリアルだと思ったら、怖いんだよ」

斉藤「そう、怖いんです。あれは3.11後の世界を冒険する物語だから。実は誰ひとり、いい人・・・いや、まともな人が出てこない映画で。Coccoが演じる真白という女に、『よくやったね。3P、よくやったね!』って励ます周囲の人々とかさ(笑)」

春岡「本人はなにも悪くないし、周りから見ても悪い奴じゃないんだよ。その怖さがある。だって、綾野剛が演じた何でも屋の安室もそうじゃん。でも、俺たちの解釈としては、お前は最後まで胡散臭い奴でいてくれよって。終盤、りりィのところに行ったときもそうで」

斉藤「もう、どうしたらいいのかって気分になるよな。すごいよ、あの終盤の畳みかけは。りりィが脱ぎだしてからの転がり方なんて狂ってる」

──黒木華演じる主人公・七海は、なるべく「普通」でいることを望みながら、結婚相手は出会い系で知り合った男ですし、披露宴に呼ぶ友だちがいないからと紹介サービスに発注する。今の時代、「普通」では生きられないことがリアルなんでしょうか。

春岡「そうなんだと思うよ」

斉藤「岩井さんは『今のリアルってなんだ』と、僕らよりもよく考えてる」

田辺「この映画で岩井さんを取材したとき、あの感覚というのは幼稚園から小学校に上がる前に植えつけられたって言ってましたね」

斉藤「僕は同世代だから分からんではない。基本、世界への諦めがあるという(笑)」

春岡「あれはちょっと考えさせられる映画だよ、いい意味でね。俺は『ディストラクション・ベイビーズ』の方が映画として好きってだけで。観てて楽しいから」

田辺「たしかに、『リップヴァンウィンクルの花嫁』をランキングの1位にしてる人って、ちょっといけ好かないかも(笑)」

春岡「分かるけど、絶対に友だちになれないという(笑)」

──『リップヴァンウィンクルの花嫁』を1位にする人は、2、3位に『ディストラクション・ベイビーズ』や『ヒメアノール』は入れない気がします。

春岡「今年はその3本だよ。『64(ロクヨン)』も『ちはやふる』も面白かったけど、ベスト3を聞かれたら、その3本になっちゃうよ。あと、あれも面白かった。白石和彌監督の『日本で一番悪い奴ら』。若松(孝二)イズムだからさ。本人もそれを意識してるし」(※)

斉藤「『凶悪』もそうやったけど、白石さんはめっちゃおもろいよな」

──あと、ようやく公開になった宮藤官九郎監督の『TOO YOUNG TO DIE! 若くして死ぬ』はどうですか(※)

田辺「あ、そういえば6月末に公開になったんですよね」

斉藤「めちゃくちゃいい! 僕は今日最初に、それを言わなあかんと思ってたぐらい。でもさ、あの映画でホントにやりたいことを思う存分やっちゃったわけやけどさ、その後にドラマ『ゆとりですがなにか』を作っちゃうあたり、宮藤官九郎ってものすごく信頼できるなって思った」

春岡「幅も広がったし、全部面白いんだよね」

田辺「そう。社会派とか言われて、どうなの・・・いや、たしかにクドカンから見た社会派ドラマだなと」

斉藤「それでいて、おそろしく泣けるという。あと、中村義洋監督の『殿、利息でござる!』も良かったよ。松竹は『残穢【ざんえ】 -住んではいけない部屋-』の次にこれ撮らせるか、みたいな(笑)」(※)

田辺「松竹としては、山田洋次監督の後継ができたという感じですかね?」

斉藤「いやいや(笑)、本人は絶対思ってないよ。あの映画さ、(阿部)サダヲさんに聞いたんだけど、実は大団円の大感動シーンを撮ったんだって。すごいセットを作って、エキストラも大勢用意して。でも、本編ではバッサリとカット」

春岡「監督が?(配給)会社が?」

斉藤「監督が」

春岡「そりゃすごい」

斉藤「サダヲさんが『ないんですよ!』って(笑)。でも、千葉くんが上司に陳情しに行く旅のシーンなんて、延々と撮ってしっかり残してるでしょ?って。サダヲさんも『そうなんですよ~』って(笑)。だからスゴイなあって思ったって。それはサダヲさん的には全然OKなわけで。泣ければOKって映画ばっかり増えるなか、もっと涙を搾り取れるところをバサバサ切ってる」

春岡「だって、俺らも面白いと思ったし、しかも、お客さんも入ってるわけだから。日本映画では少ないよ、そういうの」

田辺「中村監督は来年、嵐の大野智主演の『忍びの国』も控えてますから注目ですよね。とはいっても、やっぱり今年の上半期はさっきの3本ですよ」

斉藤「そうそう。その3本で決まりだよ」

(Lmaga.jp)

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