怪作誕生!真利子監督と柳楽優弥に訊く
そのキャッチコピーは、「ほとばしる剥き出しの魂」。松山市の小さな港町に弟と住む主人公・泰良(たいら)は、理由もなく見知らぬ人を殴り、打ちのめされても、さらに向かっていくという男だ。人に会ったら挨拶する、それぐらい普通のこととして、人を殴っていく。そんな泰良の暴力性とオーラに惹かれ、その威を借りて傍若無人に振る舞う高校生・裕也。そして、2人が強奪した車に乗り合わせていたキャバ嬢・那菜。凶行に凶行を重ねる若者たちだったが、そのたびに純度を増していく泰良の狂気に、周囲は次第に飲み込まれていく・・・。メガホンをとるのは、インディー映画界の切り札・真利子哲也。これが商業映画デビュー作となる。そして、泰良を演じるのは、今や日本映画界になくてはならない俳優となった柳楽優弥だ。まさに本作では、怪物級の演技で観る者を圧倒! 衝撃的作品『ディストラクション・ベイビーズ』を作り上げた2人を映画評論家・ミルクマン斉藤が直撃した。
取材・文/ミルクマン斉藤 写真/渡邉一生
「ホンマ、極悪ですよね(笑)」(柳楽優弥)
──ケンカで始まり、ケンカで終わる映画ですが、劇中、泰良らを面倒みている近藤役のでんでんさんが「ルール」の話をしますね。舞台となっている愛媛・松山市の港町では、年に1度の『喧嘩神輿』というハレの場で、日ごろ溜まった鬱屈や暴力衝動を解放させるシステムみたいなものが構築されている、と。
真利子「そうですね」
──そうした擬似的なケンカで、地域の健康的な人間関係を保っているわけですよね。その港町において、弟の将太(村上虹郎)はまだそっち側に留まっている人間であるのに対し、そうしたルールからまったく外れた、我々の既知の外にある存在というのが兄の泰良(柳楽優弥)になるわけですが、どこから企画がスタートしたのですか?
真利子「自分は愛媛とは縁もゆかりもないんですけど、最初は地元で10代の頃にケンカばかりしていた、って人に話を聞きに行ったところから、この映画の企画が始まったんです。で、滞在していたとき、『喧嘩神輿』という祭りを見たんですね。神輿をぶつけ合うんですが、何も知らずに行った僕にとってはすごくカルチャーショックで。その時点ですでに暴力を題材にした映画を撮りたいと思っていたので。もちろん祭りですから、神輿をぶつけ合っていてもそこには明らかにルールがあって、ケンカだけれどもケンカではない。これはこの映画に取り入れなければと思ったんです」
──監督とは12、3年前、仙台の短編映画祭だかでお会いしたのが最初だと思いますが、たしかそのときに拝見した8mm映画『マリコ三十騎』も、どこか祝祭的な暴動の空気がありました。さらに監督が手掛けた『イエローキッド』(2009年)や『NINIFUMI』(2011年)にも、そうした暴力的な衝動というところで通じるものがあるという気がします。
真利子「今回は自分の好きな題材を自分の好きなキャストとスタッフで、わりと素直に作れたなと思っていて。だから、自分が作ってきたものがすごく反映されているというか、その先にあるものになったなというのは、自分でも後から気づきましたね」
──柳楽さんにとっても、こうした暴力衝動を剥き出しにしたようなアクションは初めてじゃないですか? 『クローズEXPLODE』(2014年)があったけれども、全然あれ以上だと思う。
柳楽「また違う暴力ですよね、撮り方も含めて。今回はストリート・ファイトを一連の流れで遠くから撮るということだったんで、ずっと練習してましたね」
──そんななか、よくこんなの撮れたなと驚愕したのは、長回しで撮った商店街の暴力シーンで。あれだけの人間がワラワラいるなかに、泰良と裕也(菅田将暉)が猛スピードで乱入してきてパニックに陥れる。その様子をスマホで撮ってる周りの人間の佇まいもリアルだし、キャメラに目線が合ってロケであることがバレバレになる、なんてこともない。みなさんエキストラの方なんですか?
真利子「そうですね。愛媛の方々に全面的に協力してもらって。なかには、たまたまそこに居合わせたという人もいるかも知れないですけれども。なんといっても路上なので、現場自体もただならぬ空気がありましたね。事前に『アクションとしてのケンカ』の練習もしているんですけども」
柳楽「あそこは、将暉くんと俺がケンカして去っていくまでが一連の撮影だったので、超緊張しましたね」
真利子「そうしたシーンに関しては、YouTubeとかにある外国のケンカにいちばん影響されましたね。たまたまその場に居合わせた人がスマホとかで撮ったもので、ただただ定点で撮ってるんですけれども、本当のケンカだから不穏な空気があって。あの空気感を(ドラマを)撮ってるキャメラで出せないかなとずいぶん勉強しました」
──アクション・コーディネーターは園村健介さんですね。監督も演出で参加されているテレビシリーズ『ディアスポリス 異邦警察』(2016年)でも組んでおられますが。
真利子「事前にアクションは全部決めて、それによってキャメラ位置も考えました。役者同士が向き合ったときに、どっちが先に出るかといった間合いとかを演出していく。実際に当てはしないけど、もし本当に殴られて当たったら痛い、というところを演じてもらうことで、よりケンカになっていくんです。当たりどころが違うと音も違うから、ひとつずつ音も変えて」
柳楽「アクションは大変でしたけれども、楽しかったですよ。派手なパンチよりも(生々しい)ケンカを見せたい、っていう。それを引きの画で、長回しで、というのに気合いが入って、いい緊張感が現場に漂っていました。ロシアのケンカ動画は僕も見ましたね。殴られてふっと倒れるとか、なかなか難しいんですけれども、そういうリアクションが大事だなと思って。殴るのも大事ですけれども、殴られるリアクションも大事なんですよ。それっぽく見せるリアクション。なかなかあれができないんですよね」
──でも、菅田さんが最初に女性に蹴りを入れるところなんか、あまりに軽々とイイカゲンに一線を越えてゾッとしますねぇ。
柳楽「(自分の暴力を)スマートフォンで撮りながら女性を蹴るという。ホンマ、極悪ですよね(笑)」
──暴力衝動というのは多かれ少なかれ、誰もが持っているとは思うのですが、裕也の行為はあまりに悪質で。泰良の虎の威を借りるにもホドがある(笑)。
真利子「この映画の設定は2011年にしているんですけれど、あの頃って『バカッター』の行為が問題になった時で。コンビニのアイスケースに入った写真をツイッターにアップしたり、若者の承認欲求がすごく露出してきたときだったんです。裕也のような奴が実際にいるかいないかではなく、そういう衝動が若者にはあるなと思って。自分の見てきたものや社会の出来事とかを参照しつつ、あのキャラクターを作っていきました」
「そもそも答えなんてない」(真利子監督)
──那奈(小松菜奈)にしたって、最初こそ被害者の立場ですが、車のトランクに閉じ込められたり裕也からヒドい目に遭わされ、次第に変化していく。ある意味、那奈のほうが裕也以上に泰良の影響を純粋に受けたちゃったような。
真利子「小松さんの役に関しては、普通の女の子だったはずが(怒りを)溜め込んで溜め込んで、そして壊す、発散する。そういうキャラクターにしたかったんです」
──小松さんはちょっと今まで見たことない顔をしますよね。『渇き。』(2014年)とも違う、世論を手玉に取ったような性質の悪さで(笑)。
柳楽「ホンマ、悪い奴ばっかり(笑)」
──だから、なぜか柳楽さんが一番いいヤツに見えるんですよね(笑)。
柳楽「そうなんですよ。まあ、良くはないんだけど(笑)、見え方は変わってきますよね。ケンカしていても一生懸命ですから」
──最初の25分間なんて特に、観客にはいったい何が起こっているのか判らない(笑)。むやみやたらとケンカしてるばかりで。
真利子「一生懸命ケンカしてる(笑)。別に可愛く撮ろうとはしていないんですけれどね。なんか、ケンカに執着している様子が可愛く見えてくる」
柳楽「(真利子監督の方を向いて)俺が撮影に入る前、泰良ってどういうイメージだったんですか? 撮影のとき、『なぜこんな暴力をやっているんですか?』って何度か訊いても、監督は『楽しければイイけん』しか言わなかったんですよ。もう、なんのこっちゃワケ判らなかったんですよ(笑)。まあ、でも、それで振り切れた部分もあったんですけどね。そうか、ワケ判んなくていいのかって。今までは理由とか理屈とか、自分のなかで役柄を組み立てて作品に挑むことが多かったんで、今回は全部『俺は知らねぇ』っていうような感じで、それはそれで気持ちよかったんですけど」
真利子「すごく初期の段階から、何の説明もなくケンカを繰り返していく画は、絶対に面白いというのがあったんです。できあがった脚本に関しても自信はあった。ただそれを誰がどう演じて体現してくれるかだけだったんで。よくぞ(柳楽が)やってくれたというか」
──共同脚本の喜安浩平さんとのすり合わせみたいなのはあったんですか?
真利子「喜安さんには、僕が書いた脚本のキャラクターがブレていったときに指摘してもらったり、一歩引いたところから見てもらっていました。それに喜安さんは愛媛出身なんで、伊予弁に直してもらったり」
──みんな伊予弁ですもんね。菅田さんなんか大変ですよね、台詞多いし。・・・あ、あまり柳楽さんは関係ないか(笑)。
柳楽「僕は関係ないですね(笑)」※註:柳楽の役は台詞がほとんどない
──ですが、言葉はないけれど圧倒的で有無を言わせぬ空気は漂わせているという。泰良はある意味、どこまでも自らの快楽原理に忠実だし、彼には彼なりの「ルール」もある。ひょっとすると、もっとも人間らしい原初の人間的な存在で、僕にはちょっとヒーローぽく見えるんです。最後、港町のルールの象徴たる祭りの夜に帰ってくるシーンは、いわば「ヒーロー降臨」に感じました。
真利子「まあ、ヒーローではないですが、そういう見え方をしてもいいんですよ。暴力って、当然肯定できるものじゃないけど、その場においては肯定される場合もあるわけだし、そもそも答えなんてないものだと思ってるんで。それを体現しているのが泰良なんです。だから映画の終わり方も、見る人の印象が違ってていいんです」
──泰良は社会通念に影響されないというか、それを弾き飛ばす力があるような気がするんです。そういう意味で裕也や那奈、さらには将太とも隔絶しているけれど、彼らも泰良というブラックホールの引力に巻き込まれて全速力で回っている。俳優さんもみんなヤル気というか殺気立ってるというか。
真利子「全員ヤル気、っていうのはありましたね(笑)」
柳楽「ヤル気満々!(爆)」
真利子「やっぱり主演が彼で、脚本で処理しきれない泰良って役を、誰よりも思いっきり演ってくれてたんで、そこにみんな引っ張られてましたね」
柳楽「みんなヤル気満々だから、池松(壮亮)さんやでんでんさんが出ると、『お、いちおう映画になってるな』って感じでホッとするんですよ。東京から役者さんが(愛媛に)来るわけですけれども、みんなボロボロで血だらけになって帰って行くっていう、本当にそんな感じの現場でしたから(笑)」
「遠かった。けど、こんなに幸せなことはない」(真利子監督)
──また、さらに向井秀徳さんの音楽が冒頭シーンから不穏な空気を煽りますからね。
真利子「4曲しか使ってないんですけれども本当に印象的で。僕が松山にいるときに脚本を読んでくれて、それで帰ってすぐに冒頭2曲を作曲してくれた。この辺のこの音で間違いないよね、っていうのは一致していて」
──『NINIFUNI』が公開された時、対談された記事を読みましたが。
真利子「あのときの呑みの席で、今回の企画が面白そうになってきたら声をかけていいですか?って訊いたら『いいですよ』って。それを忘れないで、実際に面白くなりそうになったときに声かけたんですよ。だから、約束を守ってくれたというか、詳しいことは言わなかったのに音楽やりたいと言ってくれて」
──ただギュイ~ンだけじゃなく、裏にアコースティックな音が隠れていたり。ちょっとフリー・ジャズっぽいアプローチもあって。
真利子「向井さんも挑戦してくれて、若いジャズミュージシャンと作ってくれたんです。うれしいですよ、自分の好きなミュージシャンと好きな映画を作れて」
──よくプロデューサー許してくれましたね(笑)。西ヶ谷さんは『NINIFUNI』でも一緒ですよね。
真利子「いや。なかなかね、遠かったですよ。これだけいい役者やスタッフを揃えるなんて、かなり難しいと思うんで。去年の10月ぐらいに作り終わったんですけど、こんなに幸せなことはないなぁと、改めてしみじみ感じたりして。インディーズのアート映画じゃなくて、一線で活躍している役者さんと、ちゃんとレベルの高い題材で映画を作りたいなと。映画が好きだからこそ、そういう映画が欲しいなと思っていたんで。観たお客さんもそう思ってくれたらうれしいです」
──本当にそうですよね。インディペンデントで自費で、こういう映画をやろうと思えばできないこともないと思うんですが、それではやっぱり役者の顔つきも能力も違うし、撮りたいものも予算の都合で違ってくるだろうし。このクオリティーを、しかもメジャーで、こういう冒険的なことをやったというのが、それだけでも特筆すべきことだと思います。
真利子「本当に希望を感じたのは、柳楽くんもそうなんですけど、こっちが真剣にこんな面白いことをやりたい、って言うと役者さんたちは乗ってくれたりするんですよね。プロデューサーにもそういう人がいて、そんな人たちを巻き込んで映画を作っていければ一番ですね」
──こんな映画作っちゃって、この後の展開はもう考えてますか?(笑)
真利子「まぁ、粛々と。終わったばかりで、真っ白なんで。企画は考えてはいますが、まだどうしようかと」
──この映画の次が原作モノの映画とかだったら、それはそれで面白いですね(笑)。
真利子「少女漫画とか? じゃあ、柳楽くんで(笑)」
柳楽「やりましょうよ、恋愛映画とかさ(爆)」
(Lmaga.jp)
