天衣無縫な絵画世界、富岡鉄斎展
江戸末期から大正期までを生きた文人画家・富岡鉄斎。彼の生誕180年を記念する大規模な回顧展が、「兵庫県立美術館」(神戸市中央区)で行われています。
鉄斎は1836年(天保7)に京都の法衣商の次男に生まれ、幼い頃から国学、漢学などの学問を幅広く修めました。19歳頃から絵画を学び始め、幕末には勤皇学者として国事に奔走。維新後は神官の公職を経て、1924年(大正13)に亡くなるまで文人画家として多くの書画を残しました。
本展では、彼の初期から晩年までの作品約200点を、前後期に分けて展示しています。真景図、仙境図、人物画、神仙画、風俗画、花卉・鳥獣画など多様な作品が見られ、奔放な筆致と豊かな色彩で描かれているのが特徴です。特に屏風絵などの大作は圧巻で、富士山を遠景と近景のセットで描いた「富士山図」や、もはやファンタジーと言っても過言ではない「妙義山図・瀞八丁図」、北海道のアイヌを題材にした「旧蝦夷風俗図」は見逃せません(いずれも前期展示)。
鉄斎は終生学者を以て任じ、文人画家の理想を追求しました。文人画とは学識のある人が余技として描く絵画のことです。職業画家ではなかったことが、彼の作品に自由さを与えたのではないでしょうか。一部の作品は、現代のヘタウマやグラフィックデザインとも通じるところがあり、古典や美術史の素養がなくても十分楽しめます。
また、鉄斎の作品には必ず賛(絵に書き込んだ文章)が付いています。本展では賛の大意をキャプションに記しているので、それらを読みながら作品を見れば、鉄斎の思いに近づくことができるでしょう。
※会期中に関連イベントあり。詳しくは公式サイトにて
文・写真/小吹隆文(美術ライター)
(Lmaga.jp)
